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りんごの怪談記録メモ~怪談話の謎を解け!~  作者: たかしろひと
第1章
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プールの中の白い手8

「まず秋野さんが足を引っ張られたって話だけど、あれは間違いなくイタズラの犯人の仕業だ」


「断言するんですね」


 僕は頷いて、二人の顔を順に見た。


「秋野さんの場合、抵抗されて未遂に終わったみたいだけど、梨郷と同じように溺れさせるつもりだったんだろう」


「で、そいつはどこへ消えたのよ?」


「さっきの話聞いてただろ? 空洞があるって。あの岩の中だ」


「へ!? いや、でも」


「僕の想像だけど、あの岩の中には地下から入れるんだと思う。岩の空洞に侵入した犯人はターゲットが来るのをそこで待って、タイミングを見計らって、足を引っ張ったんだ」


「岩の中から、でですか?」


「腕を出せる穴があるんじゃないか? 監視カメラも窪んだ穴の中にあったし」


「なるほど、そこは想像ってことですね」


 本当にそういう仕組みになってるか分からないけど、そうでないと話が進まないしな。


「自分で潜ってみておかしいと思ったんだ。同じように水の中にいて、その状態で誰かの足を引っ張ったら、自分の体も浮くだろ?」


 引っ張り込むなら、引っ張る側が重りでもつけないと上手くいかないだろう。


「水の中に引きづり込むのには成功するかも知れないけど、自分の体が浮いたら水面に顔を出さずに素早く逃げられない。だから僕はそう考えたんだ」


「ま、待って。じゃあ、私が見た白い人はなんだったの?」


「悪いけど、お前の見たものについては見当がつかない」


 実はそれだけがわからないのだ。


「む……」


「どっちにしろ、僕の想像と推測だからな。水に引っ張り込まれて動転してたから、見違えってことで」


「……否定は出来ないわね」


 話を続ける。


「仕掛けから説明すると、お前がつけた救命胴衣は脱げやすいようになっていた。後、塚本さんが言ったように大きめだったのもあるんだろう」


「下から引っ張れただけで、簡単にスポンッと行ってましたからね」


「それで、岩から出した手に引っ張られたのね」


 そう、そしてその後に塚本さんに助けられたというわけだ。


「ねぇ、それはわかったけど、これだけで犯人がわかるの?」


「塚本さんはその時モニター係だったらしい。モニターを見てれば、岩から手が出来て誰かの足を引っ張るところはよく見えるだろ? あの人はそれを確認して、助けに来たんだ。僕はてっきり、たまたま近くにいたんだと思ってたんだけど、そうじゃないなら反応が素早過ぎるんだ。引っ張られる瞬間を見る前にプールに飛び込んだなら、あの速さも納得がいく」


「そうだとしたら、塚本さんはどういうつもりなんですか?」


 彼は犯人ではない。しかし、犯人の正体は知っているのだろう。


「それは動機の部分だから僕には分からない。次に犯人の正体、それは梨郷に救命胴衣をつけたあの男性監視員だ」


「あ、そうよね。救命胴衣に仕掛けをしたんだから」


「じゃあ、梨郷さんに救命胴衣をつけた後、岩の中へ行って引っ張ったと?」


「あぁ。多分塚本さんと連絡を取り合って、他の客にバレないタイミングで実行したんだろうな」


「それが一連の流れというわけですか。でも……糾弾することはできなさそうですね」


 梨郷はオレンジジュースを飲みながら、眉を寄せた。


「自白させれば良いんじゃないの? みんな集めて、今の話をすれば」


「証拠がないのでは? 確実にあの人がやったという証明がないと」


「あ、そうよね。尚も想像って言ってたし」


「いや、証拠はある、かも知れない」


 僕は秋野さんの足首へ視線を向けた。


「秋野さんは足を引っ張られた時に蹴りをいれたんだよな? もしかすると、痕が残ってるかも知れない。そして、あの監視員、ここのプールのロゴが入っていない長袖パーカーを着てた。あざを隠すためだとしたら」


 梨郷が目を輝かせた。


「今なら捕まえられるんじゃない!?」


「残念だけど、人を溺れかけさせただけじゃ捕まえられない。死亡事故でも起きない限り、な」


「ええ!? だって、あぶないことしてるんでしょ? だったら」 


「梨郷さん、世の中理不尽だらけなんですよ」


 秋野さんは本当に中学生なんだろうか。


「ダメよっ」


 梨郷が僕の顔を見た。


「危ないじゃない、この先、何かあったら大変だもの。ねぇ、なんとか出来ないの?」


 梨郷の言うことは最もだ。危険な行為だし、何か事故が起きる可能性は否定出来ない。


「わかった。僕が忠告だけしよう」


 廃村の時みたいに。

 しかしながらあの先生は悪いことをしてるわけじゃなかったからな。

 たかが客の忠告で止めるならこんなことやらないだろう。

 その後、梨郷の希望でスライダーと流水プールで遊んで、早めに帰ることにした。


「はぁー、たのしかったぁ」


 事件のことを忘れて楽しんだようで、梨郷はほくほく顔だった。


「わたしも、お二人とご一緒できて良かったです」


「ねぇねぇ、奈々姫さん、また遊ばない?」


「そうですね。どこか行きたいです」


 かなり仲良くなっていた。手を繋いで、楽しそうに更衣室へと向かう。秋野さんに任せれば女子更衣室も安心だな。これはいい。


 と、タイミング良く長袖パーカーの監視員が向かってくる。梨郷達も気づいたようだ。

 彼は歩いてきて僕の横を通りすぎようとする。


「止めた方が良いですよ」


 彼は驚いた様子で僕を振り返った。僕も同じように。


「何かある前に、止めた方が良いですよ」


「な、何を」


「それじゃ」


 これで止めてくれると良いけどな。

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