プールの中の白い手7
「そういえば、そう、かも。え、でもそれって」
僕の質問に対し、彼女が何かに気づきかけ、眉を寄せた。あからさま過ぎた。少しまずい。慌てて僕は笑って見せた。
「塚本さんでよかったですね。判断力ある方ですし、それで助かった人も多いんじゃないですか」
「あ、そうよね。ふふ。塚本君、最近人気者なのよ」
人気者……溺れた人を何度も助けているし、何より顔が良いのが受けたのか。
「話変わるんですけど」
話題をリセット。と、見せかけてもう少し探りを入れる。
「ジャングルプールのあの岩って浮島じゃないんですね。浮きマットかと思ってたんですけど」
「あはは。そうそう、珍しい造りでしょ?」
「中に空気が入ってるんですか?」
「んー、入ってるといえば、入ってるわね。あの中、空洞なのよ」
得意気に言う彼女。僕は動揺したのを気取られないように、
「もしかして、人が入れたり?」
「ええ。カメラの調整とかで入ったりするわね。って、なんの話してるのかしら。あはは」
「いや、すみません、こっちも変なこと聞いて」
僕は梨郷の頭に手を乗せる。
「こいつが溺れなければ、乗ってみようかと思ってたんですよ」
「そっかー。じゃあ、また挑戦してみてね。おっと、もう行かないと。じゃあね」
彼女の背中を見送って、僕は口元に手を当てた。
塚本さんには何かあるな。
「なるほど、空洞ですか。……茅部さん、あの方……塚本さんを疑ってるんですね」
「私を助けてくれた人よね? 助けてくれたんでしょ?」
さすがに二人も僕の考えに気づいたようだ。
「あぁ、助けてはくれたけど……あの人、梨郷が溺れた時、モニター係だったみたいだからな」
「だから、モニターを見て助けにきてくれたんでしょ?」
「ちなみに、お前に救命胴衣をつけたのは誰だ? 塚本さんか?」
「え? んーと、その塚本さんの顔がうる覚えなのよね」
「多分、違う人ですよ。ほら医務室に来た男の方です」
「ああ、あの人か」
流水プール監視担当の交代時間らしく、塚本さんを呼びに来た人だ。
僕は彼の姿を思い出しながら、ふと、秋野さんの足首へ視線を向けた。
まだ手の痕が残っている。
「茅部さん……無断でわたしの美脚鑑賞ですか?」
「あ、いや。悪い。ちょっと考えてた」
というか、変態みたいな言い方をしないでほしい。美脚?
「わたしは構いませんが、梨郷さんのほっぺがはち切れんばかりですよ」
見ると、まるでリスのようになっていた。
「どうしたんだよ、お前は」
「知らないっ」
梨郷はプイッとそっぽを向いてしまう。今日はやけに情緒不安定だな。落ち着きないし。
「それで、何を考えてたんですか?」
「考えてたというか」
僕はコーラを一口飲む。
「細かいところは想像で補うとして、結論は出せそうだ」
梨郷と秋野さんはぽかんと僕を見た。
「それは……白い手の正体と犯人がわかったと?」
「動機は分からないけどな」
梨郷がわざわざ立ち上がってテーブルに両手をついた。
「ほんと!? わかっちゃったの!?」
僕はため息を吐いた。
「静かにしろって」
「では、関係者を集めましょうか」
「やめてくれ……」
なんだ、そのノリは。
「すごーい、推理ショーってやつね?」
「推理もののお決まりですよね」
女子二人で勝手に盛り上がってる……。このままだと本当に集められそうだ。話を進めるか。
「じゃあ、順を追って説明する」
音が反響する施設内、僕は声量を下げて、語り始めた。




