プールの中の白い手4
ジャングルプール入口へ行くと、男性監視員から説明があった。小学生十二才以下は必ず救命胴衣着用。中学生以上なら泳力テストを受けた後、両肩に、緊急時に膨らますことが出来るミニ浮き輪をつける。気になってモニターのことを聞いてみたのだが、プール内に監視カメラがあるらしい。
梨郷は言わずもがな、救命胴衣を着けさせられ、不機嫌MAXだった。
僕は泳力テストを受けて、ギリギリ合格。泳げなくはないが、得意でもないのだ。
「もお、なんで私だけこうなのっ」
「文句を言うな、小学生」
プールの縁に座った僕は静かに飛び込んだ。体が一度沈み、浮力で水面へ上がると、水中へ引っ張られるような気がして、秋野さんが持ってきていた浮き輪に掴まる。足がつかないくらい深いプールに入るのは初めてかも知れない。
「じゃあ、あの岩場まで行きましょう」
同じく浮き輪を掴んでいる秋野さんがばた足で真ん中へと泳ぎ始めた。
「梨郷、大丈夫か?」
僕は大きめの救命胴衣に着られている梨郷の手を取った。
「大丈夫よ。沈む気がしないもの」
「だろうな」
プール中央の岩場には数人の中学生が上っていた。岩と言っても本物ではない。素材はプラスティックだろう。浮マットの類ではなく、プール底から生えて水面に顔を出している……つまりこのプールは設計の段階から真ん中に岩場を置く予定だったのだろう。頑張れば十数人は乗れるのではないだろうか。
「えーと、ここの岩場に手をかけていたら、引っ張られたって感じですかね」
秋野さんは話の通り、浮き輪から離れて岩場に手をかけた。
僕は少し考えて、
「プールの底に垂直に引っ張られたのか?」
「垂直?」
「水の中に引っ張られたのは確かなんだよな? わからなかったら良いんだけど、感覚的にどの方向へ引っ張られた? 右? 左? 真っ直ぐ?」
「えーと……右方向ですかね。岩場に足が当たったので間違いないです」
「なら、引っ張ったやつは岩場の陰に潜ってたのか」
「あっ、なら、引っ張られた後に、顔を出した人がいたんじゃない?」
「いえ……見てないです。岩場に上ってる方は数人いましたが、この近くにいたのはわたしだけです」
「じゃあ、潜って逃げたのね……」
「潜水の達人……なんでしょうか。わたしならすぐに苦しくなって顔を出してしまいます。水圧もありますし」
苦しくなる、か。いや、待てよ。人間は普通浮くものだから、何かに掴まっていないと厳しいんじゃないか。それに……秋野さんの話に違和感がある。何か見落としているような。
「ちょっと潜ってくる。二人はここにいてくれ」
「あっ尚っ」
僕は息を吸い込んで、そのまま水の中へ。
水の中の岩の質感は柔らかめで足をぶつけても怪我はしない程度だ。潜って近くで見てみても、特に変わったところはない。しかし、
ん?
岩の一ヶ所が窪んでいて、穴が空いているようだ。そこまでどうにか潜水して、穴を覗き込む。
あ……そうか。これは。
そこで僕は空気を吐き出した。慌てて水面へ顔を出す。
「ぷはっ」
あまり息が続かないので、底の方を調べるのは少しきつそうだ。それにどうしても体が浮かんでしまう。
「尚、どうだった? 何かわかった?」
梨郷の問いに僕は秋野さんの浮き輪に掴まる。
「この岩の表面にカメラがつけられてた」
僕はそう報告した。




