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りんごの怪談記録メモ~怪談話の謎を解け!~  作者: たかしろひと
第1章
31/91

プールの中の白い手3

軽く内出血を起こしている。物凄い力で掴まれたのだろう。

 梨郷も青い顔をしている。


「あ、あの、それ」


「え?」


 相変わらず無表情な女の子は自分の足首へ視線を落とした。

 じっと観察する。


「ああ、これですか。プールの中で誰かに掴まれたんですよ。でも大丈夫です。痛みはありませんし、経験上痕は残りません」


 さらりと怖いこと言わなかったか? 本人はあまり気にしていないようだけど。


「誰かに掴まれたって、あのあの、もしかしてジャングルプールですか?」


 女の子は首を傾げる。


「よくわかりますね」


 ヤバい、体験者に遭遇してしまったようだ。ただの噂だと思ってたのに。


「梨郷、この子にも連れがいるんだから、あまり引き留めちゃ」


「いえ、今日は一人プールです」


「え……」


 僕は思わず女の子の顔を見やる。


「今度、友人達と来る予定なのですが、個人的に下見をしに来ました。だから連れはいません」


「だったら、詳しい話を聞きたいんですけど!」


 言うまでもなく、梨郷のスイッチが入ってしまったようだ。そして女の子も即答レベルで頷く。


「構いませんよ」


 構わないのか……。見知らぬ小学生の頼みを二つ返事で了承って、この子、ちょっと変わってるな。

 

 さて、僕達は近くのベンチに移動した。その場所からジャングルプールがよく見えるのだ。水深が2メートルほどあるらしく、監視員の数は多めで周りを柵が覆っている。入口は一ヶ所だけ、そこに監視員が三人もいる。 そして、入口の近くにテントが張られ、何やらモニターを見ている監視員の姿も。

 小さい子が入らないように、また溺れた客がいた時に対応出来るように、徹底しているようだ。


「プールの形は円形です。中心にここから見える岩場があるのですが、あそこまで泳ぎきったところで、足首に違和感を覚え、次の瞬間には水の中へ引きずりこまれていました」


 そう話してくれているのは秋野奈々姫(あきのななひ)さん。一人プールを堪能していた中学二年生だ。

 それにしても今の話。自分の立場だったら恐怖でしかないな……。泳げたとしても、そんなことをされてはすぐに溺れてしまう。

 梨郷もビビり顔だ。


「ほ、他のお客さんのイタズラだった、とか?」


「かもしれません。感触は……人間の肌ではないかも。ゴムみたいな感じです」


 完全に梨郷の表情が引き攣っている。そういえば、こいつ泳げるのかな。


「それで、大丈夫だったんですか?」


「ええ、暴れていたら手に蹴りがスマッシュヒットしまして、さすがに離してくれました。痛覚はあるのかもしれません」


「幽霊の手を蹴ったんですか!?」


 まだ幽霊かどうかわからないだろ……。


「で、秋野さんは自分の足を掴んでたものを見たのか?」


「ちらりと白いものが見えた気がしましたけど、すぐに岩の陰へ消えてしまいましたね」


 はっきり見ていないなら、手かどうかわからないと言いたいところだが、彼女の足首の跡は明らかに掴まれた跡だしなぁ。


「どう思う? 尚」


「まずは現場を見てみないと」


 すると秋野さんが不思議そうに僕を見た。


「現場って、茅部さんは事故調査委員会とかそういうお仕事の方ですか? 失礼ですが、未成年に見えます」


 僕は、はっとした。ヤバい、梨郷に毒されて、自主的に白い手の調査を始めようとしていた。どうせ強制されるのは目に見えてるけど、これはまずい。


「尚もやる気満々ね!」


「いや、そういうわけじゃ」


「一人プールに飽きてきたところなので、ご協力しますよ」


 この子、顔にでないけどノリが良いのかも知れない。


「良ければ、ご案内します」


「ありがとうございます!」


「後、敬語はいりません」


 秋野さんは微かに微笑んだ。

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