3.違う、ノエルじゃないから!
くっ、敵が弱すぎる!(最初だから)
冷静にならないと死ぬ。
けれど、冷静になるのは簡単なことではない。僕はナイフを見る。すると、不思議なことに狭まっていた視野が広がるのを感じられた。
ナイフ。FPS的には一撃で殺せる最強の攻撃。当然、近距離でしか当たらないので使うことは多くない。
それに、これは現実だ。
敵が一撃で死ぬなんてことはありえない。
とにかく、現状の確認をしよう。
ノエルは敵から離れている。
敵を挟んだ反対側に居て、敵がこちらを向いているから一先ずは安心。
次に僕の体。いつの間にか傷は塞がっているし、痛みも無くなっていた。考察は後にして、ステータスを確認するべきだろう。
ついでに職業もセット。
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名前:ユキ
種族:精霊《愚者Lv1》
第一職業:平民Lv1
第二職業:魔術師見習いLv1
ソウル:52/80 (50+20+10)
マナ:101/130 (100+10+20)
身体能力:H
〈筋力:4〉(1+2+1)
〈敏捷:7〉(3+2+2)
〈防御:4〉(1+2+1)
〈器用:8〉(4+3+1)
〈体力:5〉(2+3)
〈再生:5〉(3+1+1)
魔法性能:H
〈精神:12〉(9+3)
〈操作:10〉(7+2)
〈制御:12〉(9+2)
〈抵抗:11〉(7+1+2)
確率系統:H
〈ドロップ:10〉(8+1+1)
〈レアドロップ:16〉(14+1+1)
〈クリティカル:21〉(19+1+1)
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ダメージは28。
ステータスが若干上がっているのを考慮するならもう二発はいけるはずだ。上手く防げれば三発かもしれないため、常に把握している必要がある。
敵は狼、のように見えなくもないけれど、片目が変に潰れていて、全体的に真っ黒。現在は唸りながら僕の隙を窺っている。
気を抜けばさっきのように吹き飛ばされるだろう。
覚悟を決めよう。
軽く息を吸って、吐く。
そして、前傾姿勢になって駆け出した。
「っ……!」
予想外の速さに目を見開く。
確か、学校での成績はクラスで下から数えた方が早かったはずなのに。ステータスの恩恵はしっかり出ているらしい。
狼は僕よりも明らかに速い。
ただ、冷静に見てみれば避けられないほどではないと思う。地面を蹴って跳んでくる狼を紙一重で躱し、すれ違いざまに足を一本だけ切り裂いた。
「―――」
言葉にならない呻くような声。
それを見ながら意外と普通なんだな、と僕は思う。痛みを無視して攻撃くらいはするものだとばかり思っていたけれど、現実は怯えながら三本の足で後ずさる狼の姿。
そうだ、現実なんだ。
ゲームじゃないのだから、痛みも、恐怖も、無いはずがない。……でも、生きる為に殺させて貰おう。
ナイフを振り上げ、逃げようとする狼の頭に突き刺すと、肉を貫く妙な感触がした。
引き抜いて一歩後ろに下がる。
【精霊《愚者》のレベルが1上がりました】
【平民のレベルが5上がりました】
【魔術師見習いのレベルが4上がりました】
【スキル:火魔法Ⅰを取得しました】
【火魔法Ⅰ『トーチⅠ』、『アギⅠ』を覚えました】
【職業:剣士見習いが解放されました】
【職業:狩人が解放されました】
【職業:木こりが解放されました】
「ふぅ……」
録音したかのような音声を聞き、深く息を吐く。倒せた……殺せたことは間違いないからだ。
狼の死体は消えている。そこに残っているのは半透明の石と鋭い牙だけ。
「ご主人様、怪我は平気っ? ……ない?」
「無いね。精霊ってすぐに怪我が治るみたいでさ。そうじゃなかったら危なかったかも」
「……何も出来なくてごめんなさい」
「あー、いや、ノエルを責めてるんじゃないよ? 僕が武器を渡し忘れてただけだし」
「……わかった」
武器があればこの世界の住人だったノエルが倒せたかもしれないのに。あ、経験値ってどうなったんだろう。
剣を使うらしいので、鉄のショートソードをマナ50で仮作成する。ちょっとくらっと来た。使い過ぎは良くないらしい。
「レベル上がったけど、ノエルは?」
「ううん、経験値は戦闘で頑張った人しか貰えないから。……回復とかでもいいんだって」
「へぇ、そうなんだ……やっぱりノエルが居ると助かるよ。ありがとう」
「……えへへ」
抜き身の剣を持った女の子が笑う。
可愛いけどちょっと怖い。鞘も作れたら良かったんだけどね。暫くは扱いに気をつけながらって感じで。
「あ、これって?」
戦利品を拾ってノエルに見せる。
牙は分かるけど、石の方が分からない。
「魔石。色んなアイテムの材料に使えるから売れる。色が濃いのは高いけど……それはあんまり高くない」
「そっか、魔石なんだ」
ファンタジー小説とかではよく出てくる。
けれど、文字として見ただけだからこうして実際に見ると感慨深いものがある。本当に異世界なんだ、みたいな。
少しの間そうしていると、ノエルに袖をくいっと引っ張られた。
「ご主人様」
「ん、なに?」
「ここ、神代遺跡だと思う」
「遺跡、なのは分かるけど……神代って?」
「んと……神様が作った場所って言われてて、魔物がいっぱい出てくる。原因は分からないけど、奥に強くていい物を落とすボスが居るし、みんな大事にしてる」
ほほう、神が作った、ね。
ダンジョンコアとか、ダンジョンマスターみたいなのは居ないんだ? ゲームみたいな世界の神が作ったのに。
疑問を抱きつつも、移動を始める。ここに居ては先程のように襲われてしまうかもしれない。
どの方向に行けばいいか分からないけど、進まないことにはどうにもならない。ついでに平民を剣士見習いに変えておく。
ふと気になって質問してみたけど、ノエルは狼に親近感は湧かないそうだ。向こうは動物で自分は人間だから、と。
「尻尾も耳もふさふさで可愛いと思うけど」
「……えへへ、ありがと……」
「あ、そこは嬉しいんだ」
「うん。……撫でてもいいよ」
「それじゃ、遠慮なく」
ノエルが撫でて欲しそうにこちらを見ている。
……と表示して欲しくなる状態なのに、さも僕が撫でたそうにしてるから仕方なく、みたいな言い方。しかし、もふもふの誘惑には逆らえない!
「GURURU………」
「寄るなクソ狼」
声が聞こえてきた方向にアギを放つ。
ちょっとイラッとして「アギ!」 と念じたら炎が狼を包み込んだ。暫く転がり回った後、追加で二発ほど食らわせると肉を残して消えた。
【精霊《愚者》のレベルが1上がりました】
【剣士見習いのレベルが4上がりました】
【魔術師見習いのレベルが2上がりました】
【スキル:剣術を取得しました】
【スキル:スラッシュを取得しました】
ふむふむ、ステータスの伸びがいい。
最低値だからかあんまり差はないけど。
「じゃあノエル……って、どうしたの?」
振り返ると、ノエルが5メートルほど離れてしゅんとしていた。耳もペタっとなっているし、怯えているようにも見える。
「ご、ご主人様が『寄るなクソ狼』って……」
「え? あ……ち、違う違う! 狼って言ったのは魔物の方だけだから! ノエルには言ってないよ?」
「……ほ、ホント……?」
「ホントだってば。ほら、こっちおいで」
手招きすると、涙目のノエルが不安そうに近づいてくる。保護欲をそそられる可愛さだ。
頭を撫でてすぐ、ひしっと抱きついてきた。
「わぅ……捨てられるのかと思った……」
「よしよし、怖がらせてごめんね」
ここはへたれずに抱き締め返す。
暫く頭を撫で続けると、段々耳が起きてきて尻尾も元気に揺れてきた。うん、これくらいで大丈夫かな?
そう思って離れようとしたら捕まった。
「やだ、もっと……」
くっ、この可愛さには抗えない!
それにしても、どうしてこんなに怖がるんだろうか。捨てられたと思うほどではないはずなのに。過去になにかあったのかもしれないけど、聞くのはもっとお互いのことを知ってからだ。
「……もういい?」
「だめ」
「もう少しだけ、だよ」
匂いと柔らかさでどうにかなりそう。
ここに魔物が出なければ理性さんがログアウトしていた自信がある。
あ、これはフラグ?
「GAUUU――」
「だからって来るんじゃない狼め! 「ひっぐ……」あっ!? 違うよっ!? 違うから待って! 泣かないでよノエル!」
この後、めちゃくちゃ撫で撫でした。
元々は普通のダンジョンにしようと思ってたんですが、それじゃ面白くならないしストーリーも展開できないかな、と。
神代遺跡は最重要施設(?)です。
よければこれからもご覧頂けると嬉しいですね。
ブクマや評価、ありがとうございます!