この村、本当に緑以外何もないな
三日後
俺は無事動けるようになり、ついに家の外を歩きまわれるようになった。
マーガレットが玄関のドアを開け俺を外に連れ出す。
「ヒカル、今のあなたは村のことは何もわからないでしょ、ちょうどさっきお隣さんのクレアが街から帰ってきたから案内してもらいなさい、事情はもう説明してあるわ」
クレア?隣人か、まぁ村の案内をしてもらえるのは助かる、自分の住んでる場所もわからないようじゃ何もできない。
「ほら、家から出てきたわ、挨拶しておきなさい」
マーガレットの視線の方にある家のドアが開き1人の女性が現れる。
俺は目を見開いた。
着ている服はこの村でよく見る地味な色合いで、髪さえも若い女性なのにあまり手入れされておらず、ぱっと見は芋女そのものなのだが、俺はその女性にダイヤの原石の如く隠れた輝きを見出した。
雰囲気こそ地味だが、前髪から時折みせる瞳は大きくそしてサファイアのように美しく、まつ毛もとても長く美しい曲線美を描いている。
そこからの俺は職業病に駆り立てられたかのように無意識の内に身体が動いていた。
「どうもお嬢さん、はじめまして、僕は常夜光、あなたはとても美しい女性だ、なんなら俺を指名することを許してやってもいいよ」
俺は颯爽とクレアと呼ばれる若い女性の元へ駆け寄り、両の手を取り握りしめながら、彼女の瞳をジッと見つめ自己紹介をはじめる。
「へっ?!き、キース!?じゃなかった!ひ、ヒカルさんだっけ?....」
クレアは突然俺に詰め寄られたのに驚いたのか、前髪でほとんど隠れてしまっている瞳を大きく見開き、頬を紅潮させている。
「うーん、どうして前髪で顔を隠してるの?もったいない、こんなに綺麗な瞳をしているのに」
俺はそう言い、右手でクレアの前髪を持ち上げる。
クレアはさらに動揺し、目をまるで捕食者に追われる小鰯のように激しく泳がしている。
顔はさらに赤くなりもう爆発寸前のようだ。
しかし、見れば見る程このまま放っておくにはもったいない女性だ、前髪をすいて全体的にアイロンを当ててほんの少しナチュラルメイクすれば、それだけで歌舞伎町ならナンパの嵐だろう。
それほどまでに希少で美しさを秘めた原石なのだ。
「ほら、クレアが困ってるでしょう、ヒカルがどういう人か少しわかったから、一度落ち着きなさい」
「でも、マーガレットさん!この子はここで腐らせておくにはもったいなすぎる!磨いてあげないと!」
俺を咎めるマーガレットに俺は必死の主張をぶつける。
「ヒカル、それは前々から私も思ってたわ、正直1人の村娘として生涯を終えるにはあまりにも惜しい女の子だわ」
どうやらマーガレットも俺と同じことを思っていたらしい。
「もう!マーガレットおばさんまで!からかわないでください」
クレアは長い髪を小さく振り乱し、若干目を潤ませながら叫んでいた。この姿でさえ小動物のようで可愛らしい。
「さぁ!ヒカルさん、この村を案内しますから付いてきてください!」
動揺を隠すようにクレアは俺の手を掴み、家から遠ざかるように引っ張っていく。
「日が落ちるまでに帰ってくるのよー」
マーガレットの声が背中に呼びかける、しかし、こんな綺麗な女の子と2人きりで出かけてしまっては、日が沈んでも帰ってこれる気がしないな。
俺とクレアは家を出てひたすら西へ進んでいた。
辺り一面は、家の窓からも見えていたように、ひたすら緑が広がっていた。
そして、村の周りは山に囲まれ、村がある土地だけが平野となっていて一般的に盆地と呼ばれる地形を形成している。
「あそこの畑では馬鈴薯や人参を育てているの」
クレアは畑の一つを指差し説明をはじめる。
そこには栄養がとても詰まっていそうな土が縦方向に伸び、それぞれが一定の間隔を保ちながら並んでいる。
土の盛り上がった場所からは緑色のツルが伸びており、おそらくそれらの下に作物が収穫されるのを待ちながら育っているのだろう。
しかし、これだけ広大にも関わらず、畑を耕すための工作機械などが一切見当たらない、一度テレビで見たことあるのだが、米や野菜などを収穫するにしてもどデカイ車を使っておりその車が米や野菜を刈り取っていた。
しかし、そんなものは影も形もない。
ここには機械文明というものが無いのか?
考えてみればキース家の中にも機械らしきものは一切なかった。
そんな環境で生活などできるのだろうか。
それにしても、さっきからずっと同じ景色だな、さすがにうんざりしてきた、よく言えばのどかな場所だが、少し刺激が足りなさすぎる。
「なぁクレア」
「ひゃい?!」
声をかけられたクレアは瞬時に俺から距離を取り怯えた表情でこちらを見つめる。
「もういきなり詰め寄ったりしないから、そんなに怖がるのはやめてくれ...さすがに俺でもメンタルが傷つく」
「わ、わかりました....なにもしないでくださいね?」
基本的に内向的でおとなしい子のようだ。
「りょーかい、で、少し聞きたいんだけど、クレアは今日街から帰ってきたと聞いたんだけど、街まではどれくらいでかかる?」
「ここから街までですか...私たちは基本的に荷馬車を使いますが、それでも半日はかかりますよ」
荷馬車?あのドラクエとかでみる、いかにもトロそうな乗り物か。
「うーーーん....」
俺は少し考え込み、思い立ったようにクレアの腕を掴み
「よし!今から街行こう!村はもう飽きた!」
「え?えぇぇぇぇ?!今から行ったら帰ってくるのが明日になっちゃいますぅ...」
クレアは子ウサギのように縮こまり、今日1番の困惑を見せた。
「大丈夫だ!いい考えがある、遅くても今日の夜には帰ってこれる」
太陽はちょうど俺たちの真上で輝き、今が昼頃であることを自らの位置で教えてくれている。
「大丈夫!クレアは俺が守るから安心して街までナビゲートしてくれ!」
俺は彼女の肩を掴み、自信満々な顔で言い放つ。
すると、クレアはゆでだこのように顔を赤らめその後諦めたようにため息をつく。
「わかりました。どうやって街まで行くか知りませんが、そんな自信満々の表情で言われたら疑う気力すら失せますよ。」
ようやくこの緑オンリー、草オンリーの場所から抜け出せる。
俺は安堵と期待の気持ちのこもったため息を漏らす。