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人畜無害なドクター

目が覚めたとき、そこはまた俺の知らない部屋だった。

「突然立ち上がるもんだから傷口がひらいてしまったんだね」

とても低くそれでいて温和な声が聞こえてくる、ブラウンやマーガレットの声ではない。

俺はゆっくりと首だけを横にむかせ、その声の主を探すように視線を泳がせる。

そこにはマーガレット、ブラウンともう1人白衣を着た、よく肥えたおっさんが椅子に座っていた。

「あなたは?また私の知らない身内の方ですか?」

俺はそのおっさんに問いかける。

「いや、血縁は無いし、別に仲のいい友達ってわけでもない、この村に住み着いたただの医者だよ」

自分の正体を優しい声でにこやかに答える。

おっさんは身体中から良い人をオーラを放ち、まるでゴキブリすら素手で優しく包み込み、外に逃がしそうなほど、優しそうな人である。

帝王と呼ばれたこの俺ですら、すこしこのおっさんの優しさオーラに気圧されている。

なにしろ俺が働いてた歌舞伎町周辺は、金、酒、女が三拍子で揃い、人間の欲望全てをかき集め閉じ込めたようなところであった。

そんなところにこんな温和で人の良さそうな人間が存在するはずがない、なんなら幻級の人間である。

あの街に毒されると普通という感覚が麻痺する、正直この医者もそうだが、この村やそこで会う人たち全てが、歌舞伎町といわれる街そのものが醸し出す雰囲気とは全く対極の位置にいるのである。

俺は改めて部屋を見渡す、見た感じだとおそらくここはこの医者の病院だろう、俺は意識を失った後すぐにここに運び込まれたようだ。

「そういえば、どうして俺は気を失ったんだ?」

俺はさっきキースの家でベッドから立ち上がったとき、急に頭から血の気が引き倒れ込んでしまったのだ。

キースという男、こんなに身体は鍛え上げられているのに貧血なのか?

「両親からは聞かせてもらったよ、君はキースくんではないそうだね?言うには君はツネヤヒカルという名で全く別の人格として、キースくんの中にいると....」

「ああ、俺はこんな村知らないし、両親もあんたも知らない」

おっさんは手を顎に当て、人差し指と親指で若干白毛が混じった髭をつまみ、チリチリとねじりながら考えこむ。

「記憶喪失ではない...人間の身体の中に全く別の人間の精神が入り込む....聞いたことが無いな」

そうだな、俺も聞いたことない、誰か教えてくれ。

おっさんは苦虫を100匹ほど噛み潰したような顔で考えていたが、突然考えるのをやめたのか、俺の方へ向き直る。

「とりあえず、もし君がキースくんに乗り移ってしまった別の場所の別の人なら、おそらく君も混乱しているだろう」

もちろん、当たり前だ、自分の姿が突然格闘家みたいな汗臭い人間に変わっているのだからショック極まりない、俺のあのエレガントでクールな容姿は一体どこに消えてしまったのだ。

こんな姿では女性のハートを掴むことができないじゃないか...

おっさんは俺の心配している様子を気にも溜めず話を続ける。

「ヒカルくん、キースくんの人格がまだその身体の中にいた時に死ぬ寸前の大怪我を負ってしまい、ベットの上で生死を彷徨っていたんだ。」

ふと俺は視線を自分の体に落とす、キースの家にいた時は服のせいで気づかなかったが、今俺の身体には包帯がミイラ男のように巻かれていた。

「これは、一体どうしてこうなったんですか?」

「キースくんはここ数日クエストの依頼を受け、この村のさらに向こうにある大樹林へ潜っていたんだ」

クエスト...高校生の時にやっていたモンハンで聞いたことがある、ここは歌舞伎町どころか日本でもない説が浮上してきたな。

「君はその大樹林の中でおそらくそこに住むモンスターに襲われて、傷だらけで倒れていたところを他の冒険者に助けてもらったんだよ」

このおっさん何を言っているんだ、もしかして医者なのに重度のゲーム依存症を患っているのか?

モンスターだと?冒険者だと?

ついに、ここは地球ですらない説が濃厚になってきた。

「正直、生命を維持し続けるのは不可能かと思われていた、今日までは...」

「なるほど、重症だったキースが突然意識を取り戻したわけだ、しかし、目が覚めたと思えば、キースの器を借りた別人だったと....」

まだモンスターや冒険者の存在は信じられない。

だが、ここが俺の知る日本ではないことはまず間違い無いだろう。

俺の今するべきことは、現状を知ること、今俺が置かれている状況を知らなければ先に進むことはできなさそうだ。

「俺はあと何日で動けるようになる?」

「うーん、死に瀕したほどの傷だったんだけどね...しかし、さっき身体を診させてもらったんだけど、かなり傷が浅くなっていたんだよね、僕もビックリしたよ、正直この様子だとあと3日ほどで動けるようにはなる」

「死にかけていたのにあと3日で治るんですか?」

この村にそんな高度な医療技術があるとは思えない、擦り傷を治すのさえ1週間はかかりそうな設備だぞここは。

「こんなことは異例だよ、なにか高品質ポーションでも飲んだのかい?」

ポーション、ゲームでいう回復薬のことか?

そんな物を口にした記憶は一切ないな、俺は首を横に降る。

まぁなにはともあれ、すぐにでも行動は開始できそうだ。まずは外の観察ともう少しキースについて知りたい。

「お医者さん、あなたの名前を聞いてなかった、お聞きしてもよろしいですか?」

さすがにお医者さんで呼ぶのは気疲れするし、おっさんというのも多分失礼だろう。

おっさんはこれまた温和で優しい低い声で

「私はアレキサンダー、この村の唯一の名医アレキサンダーだよ」

こりゃ圧倒的名前負けだ、それと自分で名医いうな。





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