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ホストなきブルーオーシャン

俺にとって夜道って無いんだよね、俺が歩けばそこは暗闇であろうと真昼のように輝くからね。

俺レベルの人間になると太陽なんてなくても光を生み出せる。

ちなみに俺は生まれてこのかた夜を経験したことがないんだよ、なぜなら俺が住むここ日本でも俺の半径1キロ以内はずっと白夜だからさ。

俺の光り輝くオーラは釈迦の後光のように闇を照らし出し、幾万の女性を虜にしてきた。

いままでもこれからも。


club glory

歌舞伎町の中でも屈指の集客力と売り上げを誇るホストクラブ。

この俺、常夜光常夜光(つねやひかる)はそのホストクラブのNo1に君臨し、今も売り上げを伸ばし続け、今や伝説のホストと呼ばれている。

しかし、俺は現状に満足はしていない、たしかに、歌舞伎町で俺を知らない女性はいない、おそらく東京中でも5割くらいの女性は俺のことを知っているだろう。

だが、他国の女性で俺のことを知っているのはまだ1割にも達していないだろう。

正直、俺は疑問なのである、どうして世界は俺ほどの男のことをまだ知らないのだ!

まぁだいたい察しはつく、俺が光を放ちながら光速で前を進みすぎるもんだから、世界が追いつけないでいるのだ。

少しスピードを落としたいのだが、光の速さというのは落とすことが出来ない、だから俺の出来ることは世界が光の速さに追いつくことを待つことのみ。

この世界の民たちが俺という帝王を認識するまで辛抱するしかない、いや、帝王ならそれくらいの器量を持ち合わせて当然だ。


「光くん、何ボーッとしてるの?でもそういう姿も神々しいよ」

薄暗い部屋の中にシャンデリアの光だけが灯され、高級感溢れる机の上には一本数十万円は下らない酒が山のように並べられている。

俺を神でも崇め奉るように見つめる女性は歌舞伎町のMo1キャバ嬢であり、俺のもっとも愛する信者である。

どんな太客が大金を出そうとも落ちることはなかった高嶺の花が、今俺の腕の中で恍惚の表情で酒を嗜んでいる。

俺に手に入れられない女性はいない、そもそもこの店に来て俺に指名を入れない客は潜りとしか考えられない。

例えるなら東京観光に来てスカイツリーを見ずに帰るのと同じくらい愚かな行為である。

「今日は来てくれてありがとう、また夜に光を浴びたくなったらおいで、太陽なんかより君に元気を与える自身があるからさ」

「うん、ありがとう!今月も光くんがNo1取れるように私頑張るからさ」

彼女は高級ブランドのバッグから十数束の札を取り出し、会計を済ませ、出口へと歩き出す。

俺は彼女より数歩さきを歩き出口のドアをゆっくりと開け、お客様を外へお連れする。

「今日は当店、いや、俺に会いに来てくれてありがとうございました。帰り道は気をつけて、一応俺の力で夜道だけは明るくしとくからさ」

彼女は満足そうに、酒で少しふらつく足で帰路につく、今日も最高の時間をお届けできたようだ。


「光さん、今月も間違いなくNo1ですね!もう、誰もNo1を取ることを諦めてますよ。」

俺の後輩がまるで自分のことのように嬉しそうに褒め称えている、これだからコイツは大好きだ、いや、俺は従業員全員大好きだ、なぜなら俺が唯一嫌いな人間は俺よりかっこいいやつで、つまりはこの歌舞伎町のホストのことは全員大好きなのである。

「俺がいる限りNo1は取ることは出来ないよ、つまり、この店でNo2を取れば実質No1なんだからみんなには頑張ってNo2を目指してほしいな」

「言ってる意味わかんないすけど、頑張るっす!」

コイツはいつも一言余計だな、まあ大好きだから許すけど。


俺は閉店作業が終わると身支度を済ませ、ガレージに停めてある高級車アヴェンタドールに乗り込みクラッシックを流し、少しの間エンジンを掛けずにリラックスする。

帝王にはこういう時間も大切なのだ、接客中は他の従業員の下品で五月蝿いシャンパンコールのせいで精神を落ち着かせる暇などないのでこういう時に落ち着かせないと1日もたない。

数十分後、俺は車にエンジンをかけ、ヘッドライトを点ける、その瞬間俺は少し違和感を感じ、目を凝らす。

ヘッドライトで明るくなったガレージの隅に人影らしきものを見つけたからである。

もう、従業員は全員帰ったはず、ガレージにも俺の車一台残るだけで、他には誰も停めていないから、ここに人が来るはずがない。

「んーよく見えないな、あれは....女性か?」

俺はエンジンをつけたまま、ドアを開け車から降り、隅で佇んでいる女性の元へ歩み寄る。

「君、もう閉店だよ、僕に会いたかったらまた明日おいで」

「.....しの.....と......たの?」

俺が声をかけると女性ははっきりしない声でボソボソと返事をし、肩にかけているカバンの中でもぞもぞと手を動かしている。

だんだん目が慣れてきた俺は女性の顔を覗き込んだ、その直後、その姿を見た俺の背筋は瞬時に凍りついた。

女性はひどく痩せ細り、顔色も青白くまるで病人のような容姿だったのである。

「ど、どうしたんだ?その顔色は医者でない俺でも良くない状態だとわかる、すぐにでも病院へ行くべきだ、いま救急車を....」

俺が携帯に手を伸ばした時だった。

「..たし....こ....わ.....?」

また声にならない声で女性は喋り始めた。

「良く聞こえないよ?どこか痛むのか?」

「わ....の...わす...の?」

ダメだ聞き取れない、俺は聞き取るために耳を彼女の口へ近づける、ほとんど触れそうな距離だ。

そして、女性は再び口を開く、今度はハッキリ聞こえた。

「ワタシノコトワスレタノ?」

俺は膝から崩れ落ちる、その言葉のせいではない、俺は腹のあたりに目を落とした、そこには微かに光沢を帯びた物が俺の腹に入りこみ、徐々にそれは赤く染め上げられていく。

「わた...ひかるのために..がんばっ....自分の身体も...ひかる...めに...汚い...おっさ...に売った」

あぁ.....思い出した....真紀か...

でもどうして?突然消えたあの日から、そんな変わり果てた姿になって。

俺の意識が次第に薄れていく...ここには明日まで誰も来ない、俺....死ぬのか...まだ世界中の女性を幸せにしてねぇぞ....


「うぅ......キース....こんな若さで死んでしまうなんて...」

知らない女性の泣き声が聞こえる。声からして40代後半か?

「正義感だけは強かった....俺はお前を誇りに思っていたよ、我が息子よ...」

今度は男の声まで聞こえてきた、いや、2人だけじゃない、まだ数人はいる、しかも全員もれなく泣いている。

「うるさいな....大丈夫だ、まだ意識はある、俺は生きてるよ」

流石に耳障りなので、俺は自分が生きていることを、周りで仲良く泣いている人たちに知らせる。

知らせた後、普段より段違いに重く感じる身体を起こし、辺りを見渡す。

「え?」

俺は目に映る光景に驚きを隠せず思わず声が出てしまう。

「誰ですかあなたたち?」

状況整理だ、まず俺は現代ではなかなかお目にかかれない、全て木で設計された古びた部屋にいる、そして、目の前には人間の目はこれほど丸くなるのか、というほど目を丸くした人達が口をポカーンと開け俺の顔を見ている。

目の前の人たちは東京ではあり得ない、まるで中世時代の演劇に出てくる村人のような服を着ており、しかもその服を俺までもが着ているのである。

俺のオーダーメイドのスーツはどこに行ったのだ?

上下合わせて50万もしたのに....

もしかしてこいつら追い剥ぎか?

いや、雰囲気的に絶対違う、そんな悪どいことをしそうな人たちではない。なんなら優しそうだ。

「キースが生き返った......」

生き返った?大袈裟な、死ななかっただけだろ?

「神父様をお呼びするんだ!」

神父?普通医者だろ。

「あ、あの、ここはどこですか?感じ的に都内ではなさそうですが」

「トナイ?なんだ?」

都内を知らないほどど田舎なのか?

俺は目の前の、おそらくさっきまで泣いていた40代後半の女性に状況を訪ねてみる。

「あのー、俺は一体どこに運び込まれたのでしょう?それとあなたたちはどういった方達なのでしょうか?」

女性は見るからに絶句した表情で、俯き、その頬に一筋の雫を流していた。

しまった....どうやら女性を泣かせてしまったようだ、なんたる不覚、ホスト失格だ、今すぐに自害したい、刀はどこだ?

すると、女性は涙をぬぐい、悲しみと安堵の感情を織り交ぜた声で俺に優しく話しかける。

「いいの、生きてたから、私たちの事は忘れてしまっても、生きてさえいれば、まだ取り返せるかもしれない」

忘れる?取り返せる?頭の混乱がより一層激しくなってきた、下積み時代に他のホストの客が入れたリシャールを無茶振りで一気飲みさせられた時くらい頭がガンガンする。

俺は耐えられなくなり、彼らがいる逆の方向へ顔を背けた。

そこには窓があり、俺の姿をうっすらと反射し映し出していた。

そこには目を、さっき泣いていた人たち以上に丸くした青年の姿があった。

いや、目の丸さなどどうでもいい。

「誰だお前?」







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