3話 初めて狩りをした剣
ようやく『複製』を覚えることが出来た。もう感無量だったよ、意味もなく使いまくった。
5歳ということは狩りに出かける年齢ということで、今日は人生初の魔物狩りだ。
アイリスも初めてだ。アイリスは槍を持っている。最近合同稽古する機会があったのだが、突きが鋭く、躱しきれず肩に刺さってしまった。
急いで母さんに回復魔法を使って貰った。その時のアイリスの慌て用は酷かった。
稽古が終わった後、怪我は治っているが看病といって側から一切離れず、寝る時も同じ布団に入って来た。
いくら5歳とはいえ、プロ族のため体はもう成熟された大人の体。つまり、色々気になってしまうのだ。
ただでさえアイリスは絶世の美女であり、スタイルも抜群だ。そんなのと同じベッドで寝るのは我慢が必要だった。
強固な理性で耐え抜いた俺に言った一言が、
「ヘタレ」
だ。酷くないか?こっちは我慢したのに。いや、地球の知識もあって邪魔したのだろう。生まれて5年、肉体は大人でも精神は子供。
きっとそういうことなのだろう。
俺の武器は弓と長剣、魔法だ。
プロ族の魔法というのは、攻撃魔法を使えることを意味する。なぜなら肉体強化の魔法は皆が当たり前に使うから、魔法と認識されなくなった。
弓は自称狩人のサザナミに教えてもらいながら、大体は自主練で形になった。
その時思ったのはVRゲームはバカに出来ないということだ。
前世ではFPSとMMOを中心にしていた。MMOは剣と魔法のファンタジー世界が舞台で、俺は弓を主武器で使っていた。
その時俺はスキルの力もあったが、中々自在に闘えていたと思う。
弓は点で攻撃するのではなく、多面的に攻撃していた。
放つ時間、強さ(速度)、角度が異なれば敵を誘導することも難しくはない。
これを対人戦でやったらフレンドに「えげつない」と言われたのも、今となってはいい思い出だ。
数年ぶりとなったが、それを思い出しながらやると思った通りに飛んでいく。
やはりプロ族の体は素晴らしいものがある。
だが、精神はダメだ。遺伝子レベルの戦闘狂はダメだ。
ちなみに弓は練習し放題だった。矢は自分で作り過ぎた程だし、使う人が俺とサザナミしかいない。サザナミは練習しないし、そもそも自作する。つまり作った分だけ使えたというわけだ。
サザナミに教わった通りに森を歩き、『隠密』を意識しながら進んでいく。
俺は5歳になり、稽古では父さんに勝てたので一人行動が許可されている。
村では親に稽古で勝てたら一人で行動する許可が出るそう。他にも結婚するには女性の父親に勝たなければならないとか、揉め事があったら広場の中心で闘って決めるとか、『闘い』が全ての中心にある生活を送っているのが、プロ族だ。
ちなみにアイリスは昨日ようやくお父さんに勝てたようで、明日初狩りだそうだ。
獲物の痕跡や、自分の振動などに気を付けながらある程度森を進んでいくと、獲物を見つけた。
「大物だな、父さんでも一人で狩れるか分からないやつだ。「大トカゲ」と呼ぶが、おれはそうは思わない、だってどう見ても「ドラゴン」だもの」
『穿牙竜』
『年齢』「5歳」
『種族』「竜種」
【スキル】
『穿突Lv4』『低位魔法無効』
『威圧Lv3』『竜鱗Lv5』
「同い年か、見えないな」
見つけた獲物の大きさはトラックほどあり、一つの牙が異常に発達している。
魔物は魔力溜まりから生まれた場合、古竜0歳がありえるのだ。ちなみに村の周りの森の古賢木は樹齢千年を超えた魔物である。
矢を指の間に挟め弓を引き絞る。
2本の矢が穿牙竜の両眼に直撃する。その後、間も置かずに3本の矢が眉間に刺さる。
ズシンっと、重たい音立てながらゆっくりと倒れた。
動かなくなったのを確認すると、『隠密』を解いて亡骸に近づく。
全ては当然持ち帰れないので、牙と鱗、魔宝石、肝臓と少しの肉を持ち、後は魔法で地面に埋める。
埋めないと血の匂いに反応して、多くの魔物が集まってしまう。
「土葬」
無詠唱でも発動できるが、少ないながらも言った方が魔力効率がいいのだ。
しっかりと地面の奥深くに埋まったのを確認すると、村の方面に向かって歩き出す。当然『隠密』を使いながらだ。
普通は竜の鱗にこうも簡単には刺さらない。しかし俺の弓矢は普通のものとは違う。
まず弓は村で「御神木」となっている木の、折れた枝を貰い弓にした。
プロ族の村の「御神木」なのだから、と思い『鑑定』したところ、案の定『世界樹の枝』と表示された。ちなみに「御神木」本体は存在感が普通の木(古賢木)と全く違った。この世界に来て一番圧倒された。
更に鏃は神鉄を用いているため、竜の鱗でも弾かれることなく突き刺さる。
初めて一人で狩った獲物は大部分を家族に、一部分を何かかしらの形に加工して、生涯大切にする。プロ族の伝統の一つだ。
今回の場合、立派な牙は短剣に、鱗と魔宝石は御守りにでもして肉と肝臓を家族に収めよう。肉と肝臓だけでも20キロほどあるから十分だろう。
村に帰るとちょっとしたお祭り騒ぎになった。
「ランドルフの倅、リオンが初めての狩りで「大トカゲ」を狩った」と。
だから「大トカゲ」じゃないって……と言いたいところだが、意味もないのでなにも言わない。
村で年に2回ある祭りでは、メインとして「大トカゲ」の丸ごと一匹が振舞われる。
頭は広場の中心に飾られる。ハンティングトロフィーだな、ドラゴンの。
家に帰ると両親に褒められ、アイリスに抱きつかれた。
肉と肝臓を上げて、牙と鱗、魔宝石を見せる。
牙は真っ白で光沢のある逸品とも呼べるものだ。
鱗は深緑色で磨けば艶が出るだろう。
魔宝石は白味がかったピンポン球ぐらいで、プロ族ではまあまあだが、アベル大陸では国宝級だと思う。流石にそこまではいかないか。
村唯一の鍛冶屋を営むシャム爺さんに、牙を短剣にと頼む。立派なものができるだろう。
御守りは母さんが作ってくれるそうだ。魔宝石と竜鱗で作られる御守りは、さそがし御利益がありそうだ。
ちなみにその日、アイリスと同じベッドで寝ることになり、寝たのは深夜遅くになってからだった。