第一章 黒バットに見られたもの(6)
「はじめまして、私、伊波心縁っていいます。」
季節的に一時間目の体育は少し寒い。
そんな中で、僕は転校生に話しかけられた。
隣のクラスで男女のペアを作れといわれた時にいつもなら竜文目当てでそれのオマケみたいな感じで声をかけられる僕に対して向こうから話しかけられるのは少し新鮮だった。
「僕は・・・」
「白藤民汰、新しく学会に登録してきた魔法使いの弟子ですね」
「なんでそのことを?あと弟子?」
「気にしないでください、学会の偉い人が新しい登録者をそう呼ぶだけだから」
「じゃあ伊波さんも偉い人なわけだ」
伊波さんが一瞬驚いたように目を見開くがその顔は一瞬にして元に戻る。
美人の定義などはしらないが、ブロンドの長い髪に、細長い手足、モデルのような身長なのだから噂どおりの美人といって問題ないだろう。
左右の目の色が異なり片方は真っ黒なのに、もう片方が少し青みを帯びている。
オッドアイとかいったような記憶がある。
「じゃあペアも出来たようだし、柔軟はじめろ」
筋肉がいかにも体育教師といわんばかりの先生が指示をする。
伊波さんが指示するとおり座ると、いきなりすごい衝撃とやわらかい弾力が俺の背中を襲う。
そして顔を近づける。
普段の竜文のスキンシップのせいか、僕は普通の対応が出来る。
「やっぱ魔法使いと違って、運動してますね、野球かな」
当たっていた。
僕は中学時代は虫明に誘われて野球をしていた。
それなりに上手かったとは思うが、高校だと坊主にしなきゃいけないのでそれ以来やっていない。
だって坊主だよ。いやだよね?
「野球はしてましたね、もうやってませんけど、伊波さんは何の‘マホウ’が使えるんですか?」
「心縁がいいな、学会だとそう呼ばれてるから、私のはねちょっと特殊でして・・・ちょっと失礼します。」
そういうと一瞬頭に痛みが起きる。
髪の毛を抜かれたらしい。
彼女が更に僕の体を倒すようにして近づくと、手を僕の体の前に持っていき僕に抜いた髪の毛を見せるようにする。
そして、一瞬言葉が聞えたかと思うと、髪の毛が薄く光ったと思った瞬間に髪の毛が消えると同時に僕の‘マホウ’である風が発生する。
「これがあなたの‘マホウ’か、いいねこういうの好きです。ちなみに私の‘マホウ’は人の‘マホウ’を借りることが出来るんです。」
そういいながら心縁は次の柔軟のため僕の腕をとる。
「学会からあなた達を監視する名目で転校扱いでこの学園に来ました。よろしくお願いします。」
その監視と言う言葉がみょうに印象に残った。