第一章 黒バットに見られたもの(3)
今まで使っていた2階の端っこの教室の一つ上の階、2−Aが僕の教室らしい。教室にはもう9割くらい来ていて何人か顔見知りの生徒もいる。
「おはよっ、民汰君、りゅうちゃん。相変わらず仲いいねっ」
去年から同じクラスになった千曲かのこが大きい鞄を背負ったまま挨拶してくる。
「おはよう、かのも変わらないね相変わらず長い髪だよ」
「りゅうちゃんみたいに綺麗じゃないんだけどねっ」
「話す前に鞄おろしたほうがいいだろ。」
そう言うと、千曲はそうだねっと言って髪をなびかせながら鞄をおろす。
大きな音と共に床が少し揺れた事には触れないでおく。
あの中はなんでもはいってるらしく。
竜文がよく雑誌を借りたり、僕もよくお菓子を貰う。
五分前の予鈴と共に聞き覚えのある声が聞こえる。
「うちのクラスに転校生が来たぞー!!」
高校生にもなってこんな騒がしいのを僕はこいつぐらいしか知らない。
煙を吐くような大きい深呼吸に微量の汗、本能でしか動いてると思えない坊主頭、偏幅 虫明である。
しかし、高校のこの時期に転校なんてあるものなのだろうか?
「親の事情とかかもね」
なぜかうれしそうに僕が適当に鞄を置いた席に座ってる竜文は僕の考えを読み取ったのかそんなことを言ってくる。
僕もその近くに座って会話を続ける。
周りがひそひそとこっちをみて話してるのがばればれで困る。
これもしばらくの辛抱なのだが、竜文はどこに行っても注目の的なので困る。
ここに入ってこれるのは、去年のことを知ってる数名で虫明はテンションが異常なくらい上げたまま会話に入ってくる。
少し経つと廊下側の扉が開き、中年で少し太り気味の男の先生が少し早めに入ってくる。
確か去年は数学の担当をしていた客家先生だ、時々雑学を入れてくれる先生向けの人だったと思う。
教壇の上にまでいくと軽く挨拶と一年間よろしくと話を進める。
「そういえば今日から転校生が入ります。」
後ろで虫明の「おっしゃー」と言う声が聞こえた。
「彼女も父親の仕事の関係で急に環境が変わったのでとまどうことばかりだと思うから仲良くしてあげてくれ、隣のクラスだから体育とかで合同になるだろう。」
人も空気も時間も一瞬止まったように感じられた。
「まあ、虫明だしねっ」
千曲が一瞬不機嫌そうな顔をした後笑顔で言ってくる。
クラスが‘どっ’とわく。
「クラス仲は問題なさそうだな、じゃあ1時間目使って自己紹介してもらうぞ。男子はここでしっかりアピールしとけよ。じゃあ相池から」
そういいながら客家先生は席に座り、代わりにどこいってもおそらく名前の順で最初であろう相池君が立ち自己紹介が始まる。