第一章 黒バットに見られたもの(1)
白藤 民汰はドアが開く前に起きた。
階段を跳ねながら上るこの足音を立てる人物は、見た目十歳の女の子にしか見えない未華以外にいないからである。
3・・・2・・・1・・・
「み〜くん」
ドアの開く音と同時に、白い髪、白い肌、白いワンピースの真っ白の物体が先ほどまで僕がいた布団にダイブして、鼻を床にぶつける。
「み〜くん痛いよ」
そして、床に大きい音が響くとまた階段を今度は掛ける足音が近づいてくる。
足音で誰が来るか分かるぐらいに今日は目が覚めているらしく、体を伸ばしてみても気持ちが良い。
今日の体調は良好だ。
足音が僕の部屋まで来ると、妹の白藤 泉が現れる。
今日から高校1年になる妹は俺と同じ学校の制服に身を包んでいる。
「未華さん!何やってるんですか、いいかげん兄さんの部屋に飛び込むのはやめてください。今日から学校なんですから」
「えー、だってみ〜くんの布団あったかいんだもん」
「理由になっていません。わたしだって・・・」
後半は良く聞こえなかった。
「と、とにかく早く二人ともしたに降りて朝食をとってください。早くしないと遅刻しますよ。」
時計を見ると少し時間があぶない。
おそらく遅刻しない程度だろう。
未華と席に座ると泉が目玉焼きとスープと餃子が運ばれてきた。
他愛も無い話が続く。
ニュースで熊が射殺されたこと、泉の制服のこと、両親がまた海外へ行ったこと、中国産の餃子に変な薬が入っていたこと・・・
「あ、この餃子今食べてるのだ」
泉がそういうと俺と未華の全神経が箸に掴んだ餃子に向かった。