第一章 黒バットに見られたもの(9)
「まあ、こんな感じだ。」
「みー君かっこ悪い。」
そのあと倒れた僕を病院から近いロリ先輩の家に運んだのだろう。
もしものことを考えて美華を呼んだのだろうが、白いワンピースは相変わらず寒そうに見える。
病院に残ってるであろう三人を待つために昨日の話題になっていた校内新聞を読んでいたわけだが
「こういう事もあるんだな」
「なにが?」
ロリ先輩のベットの僕の座ってるところの隣に座る。僕はさっきまで見ていた校内新聞の野球の記事の一部分を読む。
「甲子園の常連校に勝利!甲子園も夢じゃない。先日野球部が練習試合でこの地区では常勝で五年連続夏の甲子園出場している羽裏学園と戦い。12対5の勝利をおさめました。初回に5点を取られたあとからの逆転勝ちで、その時に羽裏学園のエースを含めた三人の投手へピッチャー返しがあり、その打球が向こうの投手に当たり引っ込めさせました。私達の学校の八家監督は『いつもセンター返しを意識させてる結果です。相手投手には悪いと思いますが、これが野球です。』また羽裏学園の監督は・・・」
「なにがおかしいの?ピッチャー返しは普通にあるよね?」
確かにピッチャー返しは実際にもよくあり、メジャーリーグで日本人投手が頭へのピッチャー返しを受けてシーズンをぼうにふったこともある。
しかし、プロならともかく高校球児の打球だ、避けられないとは考えにくい。
ましてや三人もの投手を怪我させたというのは、信じにくく。
もう一つ昨日の虫明の対応が頭からはなれない。
ちょうど正午になるかならないかの時にロリ先輩達は帰ってきた。
「みー帰ってきたよ。さっきの写真見る?」
「いや、遠慮しとく。」
「大変だったんだよ。警察の人とかも女の子三人が平気だったのに、男一人倒れるとは情けないって言われて、それを弁解したんだよ。」
まあ竜文は男なわけなんだが、倒れたのは事実なので反論しない。
そして、竜文とロリ先輩が床に座ると、昨日の放課後と同じような状態で心緑が説明を始める。
テレビドラマでよく見る警察の会議みたいに思えた。
「二人には言ったんだけど殺されたのは加藤勇気二十六歳ってことが先ほど学会から連絡がありました。おそらくこの後テレビで放送されると思います。殺されたのは昨夜と見て間違いないです。正確な時間はまた連絡があると思います。」
「あの〜、質問なんだけどいいかな?」
心緑は僕の方を見て頷く。
「こういうのって警察の仕事だよね?僕がロリ先輩に教わったのは‘マホウ’関係のことで依頼が来るってきいたんだけど」
「みー君みー君、きっとこれは‘マホウ’関係なんだよ。」
美華が僕の膝に両手を置き、上目づかいで見てくる。
「そちらのこの言うとおりです。これは学会で扱うべき仕事です。源さんにも確認してもらいました。」
ロリ先輩は頷く。
しかし、僕はこの加藤勇気という名を知っている気がする。
珍しくない名前かもしれないがどこで聞いたのだろう。
「これも後で調べてみるのだけど、死体の体に変な傷があったの、あざみたいな感じなんだけど、民汰君分かるかしら?」
その傷は青赤く丸型になっていて、腹の辺りにあった。
僕はこの傷がすぐに野球のボールが当たったものだと確認できた。
その傷を見たときに僕はこの人の事を思い出した。
これは、高校野球好きの人なら覚えている人も多いだろう。
何年か前の甲子園の準優勝投手である。
虫明に聞いた話だと、昨年自由契約つまり解雇となった選手だ。
そのことを心緑に話すと
「分かった、少し調べてみます。とりあえず源さんの部屋で休んでてください。あなたは一応気絶したんですから」「みー大丈夫だった?僕も一緒にいようと思ったんだけど、あの子に止められたの」
「はくとうもかっこ悪いよね、女の子は平気だったのに」
「まあこういうのは逆に男の方が苦手ですよね」
心緑がいなくなって僕達は(主に僕以外の三人が)普通に雑談したりする。
美華も以前に比べてロリ先輩とも普通に話せているように思いほっとする。
しかし、男:女が二人ずつとは思えない状況で、僕一人なんか除け者にされているようでいやなので、少し布団を借りて寝ることにする。
「みー君起きて、起きて」
目をぼんやり開くと目の前に美華がいる。
時計を見ると一時間ぐらい経ったらしく、上半身には服がなくなっていた。
「おはよう、みー。結果が出たみたいだよ。」
「おはよう、竜文」
「この状況でよく普通にいられますよね、ある意味大物です。」
服が脱がされるくらいならまだいい、過去に竜文と一緒にいたことでとんでもない誤解や誤解や誤解が・・・
僕は頭を切り変え心緑に話しかける。
「それで心緑、なんか分かったのか?」
「ええ、あなたのおかげでね」