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挫折、そして借金


最初は順調だったんだ・・・。眼鏡の可愛い受付嬢のおねーちゃんが

規約とかを笑顔で説明してくれたりな・・・。


その時の俺のほどガチガチに装備を固めてくる初心者は冒険者ギルドでは珍しかったらしく、

有望株として見られたらしい。


ほとんどの駆け出しがやるような薬草採取とかをパスした俺は、最初から討伐依頼を受けることを勧められた。

俺もそれは望むところだったので、何も考えずに討伐依頼を受けた。


一人だと危険だからとギルドから紹介されたパーティーメンバーも、俺と同じように装備を固めた

そこそこの経験を持つメンバーで、俺はそこでも大いに歓迎された。


気になるメンバーの性別も、僧侶と魔法使いがちょっと可愛い女の子で実にグッド。


この娘達に良いところ見せて好感度稼ぐぞー!!  

なんて呑気に考えてたもんさ・・・、モンスターに出会うまではな・・・。




結論から言うと俺は何の役にも立たなかった。




襲いかかってくるスライムやウルフなどの雑魚モンスターを前に、俺の足はガタガタと震え一歩も動けなかった。


考えてもみてくれ・・・。

平成の平和な日本に暮らしていた俺が、いくら装備を固めたからって、モンスターと戦えると思うか??


無理に決まっている。


俺を情けないと思う奴はとんだラノベ脳だ。その日の朝までの俺と一緒だ。


狼が集団で俺達を食い殺そうと牙を剥いて襲ってくる、その意味と恐怖を俺はこれっぽっちも理解していなかった。



幾ら周りが声を掛けてくれようとガタガタと震えてピクリとも動かない俺に、

戦闘後の仲間達の目は一瞬にして冷たくなった。



それでもリーダーはまずは慣れようと、スライムにまでレベルを落として討伐を続けてくれたんだ。


だが、スライムすらも俺には無理だった。



スライムは最下級のモンスターで、駆け出しが薬草採集で手に入れた、

オモチャのような武器でソロで狩るような楽勝の相手の筈だ。


だが、そのスライムといえども中身が液体でパンパンに詰まったバスケットボールが、

高速で急所を狙って体当たりを続けざまにたたき込んでくる。


一撃一撃が重量級のプロボクサーの様な威力なのだ。鎧を着込んでいるといっても相当のダメージを食らう。


ただの雀荘のメンバーに過ぎない俺には、到底立ち向かうことの出来ない相手だった。



スライムにすら無様に逃げ回る俺に、パーティーメンバーの視線は極限まで凍り付いた。


リーダーも諦めたような表情で俺から目を背け、それからは相手をしてくれなくなった。


女の子二人も俺の存在など無いように無視し始め、俺を覗いたメンバーだけで黙々と狩りを続けていた。


俺は一人で帰るわけにもいかず、また狩り場から戻れる訳もなく、ただ所在なげにその横に立ちすくみ、

ほかのメンバーがモンスターを狩るのをただ見ていただけだった・・・。



当然、そんな俺がパーティーにそのまま在籍出来る訳がない。街に着くなりメンバーから外されて、

それ以来二度とそのパーティーに加えられることは無かった。



俺はまたソロに戻ったのだった。



そして、そんな俺の惨めで情けない情報がギルドに出回ったのか、

俺をパーティーメンバーに入れてくれるパーティーなど、どこにも存在しなくなった。


パーティーで行って無理だったのに、ソロでモンスターが狩れる訳がない。


すっかり心の折れた俺は討伐任務を諦め、駆け出しの子供がやるような薬草採取でその日の宿代を捻出する

生活に墜ち、そのまま日々を重ねる事になった・・・。




そんな情けない俺に最初は優しかった眼鏡の受付嬢の視線も次第に冷たくなっていく。


それもそうだろう、戦うための武器はあるのに、駆け出しの子供がやるような薬草採取を真っ先に持って行き、

それだけで生活しようとしているのだから・・・。



でも無理だよ、俺にはモンスターなんてとても狩れない・・・。

俺はそんな受付嬢の視線から逃れるように、薬草採取を受けてギルドから飛び出す。


チクショウ、こういうのは最初にチートとかあるんじゃないのかよ・・・、言葉と文字だけなんてとんだクソゲーだ・・・。


俺は最初の喜びなど何処へやら、もうひたすら俺をこの異世界に飛ばした存在に恨みの愚痴をぶつけながら、

薬草を摘む毎日を続けていた・・・。




それでもその時は生活出来てただけマシだった。



だが、今まで平成の平和な世の中で美味い飯を三度以上食べていた俺には、

異世界の二度の食事はあまりに質素すぎたのだ。


勢い、宿の食事だけでは無く外食が増える。当然、酒も飲む。


そんな生活が薬草採取だけで賄える訳がない。どんどんツケが溜まっていく。


娯楽も必要だった。元の世界とは違い、麻雀もパチンコもゲームもアニメもラノベもない。


何より一日中イヂっていたスマホが無い。


俺は次第にその暇に耐えきれなくなり、

持て余した時間を潰すかのように盗賊ギルドが運営している賭場に出入りを繰り返していた。




こちらの世界の博打はルールが複雑な割には奥行きが無いモノばっかりで面白みがなかった。


幸いにもこっちの世界にもサイコロは存在したので丁半やチンチロリンを教えたら喜ばれ、

賭場での扱いも結構よくなった。


俺はその扱いに居心地の良さを覚え、居場所を見つけた様な錯覚を起こし、

ますます賭場通いにのめり込んでしまったのだ・・・。



最初こそは教えた経験の差で教えたサイコロ博打で勝ててたものの、そんな運任せの生活が長く続く訳がない。



三ヶ月も経つと、少なくない借金を賭場に抱えていた。



そんなツケと借金が見逃せないレベルに溜まった結果、持っていた虎の子の装備も借金のカタに取り上げられて、

宿からも追い出され、今現在、こうして路地裏で膝を抱えて座り込んでいる・・・、と言う訳だ。



まったくもって自業自得である。言い訳のしようもない。



だが俺に何が出来るというのか。平成の平和な世の中でケンカもろくにしたことの無い雀荘のメンバーである。


モンスターなど倒せる訳がない。


異世界知識で稼ごうにも、ロクな知識もなく、大学も勉強などほとんどせず雀荘に通い詰めていた時間の方が長く、

単位なんて全然取らずに遊びまくり、親に留年がバレる寸前になって家出して退学、そのまま雀荘の寮に飛び込んで

メンバーになり現在に至る。



異世界で無双出来るような知識や経験など何も無い。



料理などを作ろうにも自炊とかはほとんど出来ないし、なんとマヨネーズとかはこの世界にも既に存在するのだ。



要するに、俺は何も出来ない屑だった。この世界で生きていけるわけが無い。



空腹で目が霞み、意識が朦朧としていく。


ああ・・・、俺は異世界の路地裏で、一人寂しく餓えて死んでいくのか・・・。



そう思って虚しさと情けなさで涙で曇る俺の目の先に、ある光景が目に入った。


通りの向こうの路地裏でストリートチルドレンの子供たちが積み木を道のように積んで並べて遊んでいたのだ。


その積み木を囲んではしゃぐ様子に、俺はどことなく働いていた雀荘の牌が詰まれた麻雀卓の光景を思い出した。



ああ・・・、せめて最後に麻雀を打って死にたかった・・・。


いや、そもそもこの世界に麻雀さえあれば、金も稼げて飢えることもなかったろうに・・・。



だが、麻雀の無い異世界ではそれも叶わない。



ああ・・・、麻雀・・・。 ・・・・・・麻雀??



その瞬間、俺の脳裏に稲妻が走った。


確かに異世界には麻雀が存在しない。


だからこそ俺は麻雀で稼ぐことを諦めた。



だが、この世界でも『麻雀を布教』すればどうだろうか??


麻雀には多数の道具が必要で、複雑なルールを覚える必要がある。


だから俺もこの異世界で麻雀を布教するなんて発想は出てこなかった。



確かにルールは複雑だ。だが、それさえ乗り越えれば決して飽きないゲーム性がある。

単純なルールのチンチロリンや丁半でも喜ばれたのだ、麻雀も喜ばれない筈は無い。


そして麻雀というゲームは飽きると言うことが無い。

ウチの雀荘にも若い頃覚えた麻雀を今でも飽きずに打ち続けてる老齢のお客さんが何人も居る。


まさに一生モノのゲームなのだ。

一度根気よくルールを教えることが叶えば、二度と卓から離れさせない自信はある。



確かに道具は必要だ。

だが、道具のサイズや寸法、必要な数などは長年の経験から頭に入っている。

困難ではあろうが作れない事はないだろう。



俺はそんな事を熟々と並べて考えた。そして結論、イケる!と踏んだ。


麻雀は異世界でも布教出来る!!



となれば後は行動だ。

俺は倒れていた路地裏に手を突いて体を起こし、フラつく体を壁に預けながら、ヨロヨロと歩き始めた。



目指すは通い詰めていた賭場の表玄関――――  



泣く子も黙る盗賊ギルドの本部である。

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