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17、真実

地獄四日目です。

痛すぎて死ねます。

 

 メイドの後を三人でついていく。

「人を救い続ける責任か…でも納得いかない。救えるのに救えないのは気分が悪いよ。」

「王妃を救ったって同じことだ、救われない人っていうのは必ずいるんだよ。ただその責任や自覚、または悲しみを理解できない人が多すぎるだけで。」

「そんな言い方ないじゃん。なんかトカゲって冷たいところあるよね。なんでそんな辛い思いしてる人に冷たくできるの?」

「赤夏さんそれ以上は良くないと思います。」

「でも、同じ人としておかしいと思わない?トカゲは人に優しくない、自分だけのことしか考えてない。だからそんなに冷たいんだよ。」

 少し強めの口調で言われる。自覚していることを今更言われてもしょうがないし、相手にしていると赤夏を殴りそうなので相手にしない。

「黙ってるけど本当は自覚してるんじゃないの?だったらどうして人に優しくしようと思わないの?ねぇ、ねぇってば!」

 うるさい。これが俺が学んだ生きる術だ。何を言われようとも変わらない。

「そんなに気に食わないんだったら夜、俺のとこにこいよ。少し昔話でもしてやる。気になるなら黄月も来ていいぞ。」

「昔話と言うと前世の話ということですか?」

「さぁ、どうだろうね。」

「それでトカゲがなんで冷たいかわかるっていうの?」

「少なくとも今回の件に関してはな。」

 しばらく何も喋らずにメイドの後についていく。

「もうすぐで合流できると思います。」

 場所的にはどこになるのか見当がつかないが今の俺にはどうでもいい。

「行かないのですか?」

「それよりトカゲの尻尾ってうまいと思うか?」

「反応に困ります。」

「んじゃ、強いと思うか?」

「強いとは思いませんが、本体を守るために敵と戦うのは勇ましいと思います。」

「じゃ俺のこともそう思う?」

「遠回りに聞く人はあまり好きではありません。」

「そう。で?なんでヒトミがこんなところに?」

「そのお話は人のいないところで。」

「はいはい。」

 誰にも見られないように気をつけながら誰もいないところに向かう。

「ここなら誰にも見られる心配はありません。」

「そうか、じゃさっきの続きだけど、」

「その前に一ついいですか?」

「ん?なんだ?」

「なぜ私がヒトミだと気付いたのですか?」

「その目だよ。なんとなくだけどヒトミの目って見てると違和感を感じるんだよな。」

「多分鑑定魔法や観察魔法が原因でしょうね。しかしそれらは微々たるものに気付くなんて、さすがはトカゲといったところかしら?」

「そうなのかもな。で、本題だが、なんでここにいる。」

「もちろん間近に迫った王都転覆のための準備です。間取りなど色々と調べることがありますし。」

「そりゃご苦労さん。で成果は?」

「これを見たらからには計画に参加してもらうことになりますが本当にいいんですか?」

「これを見てから決める。どうせボス以外に俺を殺せる奴なんていないしな。」

「ならばここで結論を決めてもらいます。死ぬか協力するか。」

「わかった、それで行こう。」

「ではこちらを。」

 そう言ってどこから取り出したのか一枚の地図を広げる。

「これは?」

「王都の間取りです。ここが現在いる倉庫になります。」

「この道は?」

「ここまでの侵入経路です。中と外から同時に攻めることになってます。」

「ガバガバすぎんよここの警備。堀みたいなものもなかったし、ここまで警備の兵士を見たことがないぞ。」

「そのおかげでここまで掘り進めることができました。」

「全く平和ボケもここまでくればもはや芸術だな。」

「今まで王都を襲おうというバカなどいませんでしたからね。」

(『マスター、文字の翻訳をしますか?』)

 俺が文字を読めないのはわかっているのに何を今更。いや、その確認をするほどエグいことが書いてあるのかもしれない。だが全てを見なければきちんと判断することができない。

(「頼む。」)

 そこに書いてあることに驚愕する。王都の中でも最も北にある屋敷の地下。大きな空間がありそこには拷問部屋と書かれていた。しかしそれだけではない。別の屋敷の地下にはいくつもの部屋に分かれた空間がありそこには全ての部屋にベットが一つだけ置かれている。そしてそこに書いてあるのは、性欲処理室。見ているだけで吐き気がする。別のところを見るとさらに気分を最悪にすることが書いてあった。奴隷飼育施設。馬鹿げているにもほどがある。人を飼育する?ここの貴族どもはどれだけ自分が偉くなった気分でいるのか。

「突然だがこの国には大臣はいるのか?」

「当たり前でしょう。」

「そいつらはここにいる貴族か?」

「それも至極当たり前のことです。」

「この施設って貴族はみんな使えるのか?」

「はい、だれでも使えます。」

「そうか…そりゃそうだよな…こんな腐った奴らがいたらクソみたいな法律ができるに決まってる!」

 怒りをあらわにしたのは何年ぶりだろう。しかしこれほどにも怒りを感じたことはない。

「いいぜ…協力してやるよ。お前らの計画、絶対にやり遂げてやる!」

「トカゲであるあなたが協力してくれるとありがたいです。今後ともよろしくお願いします。」

「こちらこそだ。」

 メイドと二人で握手を交わす。

 その後、どこをどうやって通ってどうのような説明をされたか、全く覚えていない。ただ自分の感情を殺すことに全力を尽くしていた。王の間で感じた悲しみを、1人のメイドと交わした決意と怒りを隠すために全神経を使っていた。学園では遠足と言っていたが夕食や寝る場所まで用意されていると遠足というより修学旅行といったほうが近い。しかし奴隷飼育施設などといった話を聞いた後では飯は不味く感じてしまうし、ベットですら気持ち悪く思えてしまう。要するに気の持ちようなのだがここまでくるのに疲れ切ってしまった。少し椅子に座って休むことにする。一人一部屋という贅沢をしていることに嫌気がさすが、いまはこの1人の静寂が荒れた心を落ち着かせてくれる。そのまま何も考えずに天井を見ているとノックをする音が聞こえてきた。黄月と赤夏だろう。ドアを開けると予想どうりその二人が立っていた。

「入るよ。」

「あぁ、いいぞ。」

「お邪魔します。」

「電気…というか灯りつけたら?暗いよ。」

「今はこっちの方が落ち着くんだよ。」

 窓からの月明かりでぼんやり明るい室内。その窓辺で月を眺める。

「適当に座っていいぞ。ま、ベットとそこの椅子ぐらいしか座るところはないがな。」

 2人は何も言わずに座り俺の言葉を待っている。

「それじゃ、話をしよう。話といってもただ単に長いだけのクソくだらねぇ話だがな。」

「いいから、初めて。」

 いつもはしないような真面目な顔で言われた。あまり言いたくない話をそんな顔で聞かれたくないのだが、約束は約束だ、あまり語りたくないが仕方がない。

「あれはある春…いや、ギリギリ冬だったかな?そんな曖昧な日に俺は1人のジジイに拾われた。橋の下でギャーギャー助けを求めるように泣いていたんだと。」

「それって、要するにトカゲは捨て子ってこと?」

「あぁ、そうだ。そしてその捨て子はそのジジイの元でボロボロになりながらも育ち、やがて自分を捨てた親を、大切そうに育てられた子供を、そんな社会を、世界を憎むようになりました。」

 相手からの反応はない。二人ともきちんと俺の話を聞こうとしてくれている。

「そんなゴミにも大切なものはきちんとありまして、それは血も繋がっていない、鬱陶しいだけの4つ離れた一人の妹です。その妹も同じ橋の下で拾われ、雪のように白い髪の毛から『雪』と名付けられました。」

 影の中でバディが動くのを感じる。多分の髪色のことだろう。

「雪はいつも俺の周りをちょこまかと走り回るのが好きな奴で色々と手を焼かせられたけど、あいつといるときは楽しかった。散々振り回されたけどそれでも雪といるときは世界を恨むとかどうでもよく感じたこともある。でもこんな日常って長く続かないもんなんだよな。」

「そこで転生したの?」

「いや、死んだのは雪の方だ。あいつ産まれながらに重い病気を抱えてて、入院できればもう少し一緒に入れたかもしれないけど入院する金もないし、入院できたとしてもどっち道死んでいた。」

「大切な人…無くしちゃったんだ…。」

「あぁ、あれは悲しかった。でもさ、あいつ死ぬときどんな顔してたと思う?笑ってたんだぜ、自分が死ぬっていうのに。理不尽な世の中に対してか俺に対してかはわからないがそれでも笑って死んでいった。」

「死ぬのがわかってるってどんな気持ちなんだろう。怖い…のかな。」

「少なくとも雪は残り少ない俺との時間を大切にしようとしていた。」

「雪ちゃんにとっても、トカゲは大切な人だったんだね。」

「あぁ。でも、これが国王の願いを断った理由でもある。」

「え?なんでそういうことになるの?」

「天使から何から何までもらってる奴に魔法とかそんな意味不明なもので絶対に治らない病を治されたく無かっだけだ。要するに、俺は救われなかった側の人間なんだよ。救われなかったから治らないものを直そうとしてる国王に腹が立った。諦めろって言いたくなったんだよ。」

「…事情はわかったし、あの時救われなかった人を指していたのはトカゲだってこともわかった。でも私はトカゲの判断は間違ってると思う。」

「誰が正しいとか、誰が間違ってるとか、俺には関係ないね。それが俺の判断だ。」

「またそうやって自己中心的になってる。自己中心的になったところで何も生まない、誰も救えないよ。」

 ふと、前の自分の名前を思い出す。

「まさかお前にまでそんなことを言われるとはな。」

「何が?」

「俺の名前の由来、名前をつけたジジイによると何の源にもならない無の塊。」

「ひどい理由。拾ってきた子供にそんな意味の名前つける必要ないじゃん。」

「でも俺にはこれしか名前がなかった。だからこの名前を名乗るしかなかった。」

「その名前って?」

 少しためらう気持ちもあるがここまで喋ってしまった。もう言うしかない。

「無源。冬目ふゆめ 無源むげん

「意外とあっさり言ったね。前は死んだ人の名前だどうだとか言ってたけど。」

「勢いで言っちまうことだってあるだろ?」

「勢いなのかな。今のって。」

「ま、俺はどう転がっても今のままだし変わらない。それだけは確かだ。」

 タイミングがいいのか悪いのか、消灯の10分前を知らせるアナウンスが流れる。

「だってよ。二人とももう戻れ。」

「うん…納得はいってないけど、無源の考えはわかったよ。じゃあね、おやすみ」

 名前を呼ばれたことは少し気にかかったが名乗ってしまったものはしょうがない。そう呼ばれることに慣れるしかない。

「おやすみ。」


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