16、救われなかったもの
地獄三日目です
そろそろ自分が辛くなってきました。
しばらく、その場で待っていると真っ青な顔をして3人が出てきた。
「おいおい、三人揃って何情けない顔してんだ。トイレなら向こうだぞ。」
そう聞くと三人は一目散にトイレに駆け込み、聞きたくない音を出した。出し終わるとげっそりした表情で俺のとこまで来る。
「リンは別だが、後の二人は似たような経験あんだろ…」
「僕は転生した時もダメだったんです…」
「言いたくないけど同じく…」
「俺は別に平気だったぞ?天使の送り方が雑だったんじゃないか?」
「トカゲが特別だからだよ…」
「言い訳すんな。まったく、そんなんでよく世界救えると思ったよな。」
「トカゲに言われると言い返せない…」
リンは立つのがやっとという状態で今にも倒れそうになっている。
「大丈夫か?ダメだったら言えよ、おぶってやるから。」
黙って俺の背中にもたれてきたところを見るとおぶってほしいらしい。集合場所の広場前までおぶっていくと同じ制服の学生が真っ青な顔をしてベンチや地面に座り込んでいたり、中にはぶっ倒れている人もいて軽い地獄絵図のような空間になっている。その横を通って点呼確認の教師のところまで行く。
「中等部2年、リンナ・ハーデントと高等部3年のトカゲです。」
「同じく高等部3年の黄月 龍です。」
「高等部2年、赤夏 鈴です。」
「はい、四人とも出席確認しました。時間になるまで待っていてください。」
まだ半分くらいきていないのでゆっくり休む時間はありそう。三人で座れそうなベンチで三人を休ませる。
「まだ人が来ると思うとこりゃ相当やばいことになりそうだな…」
常にエチケット袋みたいなものを片手にみんなぐったりとしている中で一人だけピンピンしているのは少し居心地が悪い。あと臭い。あちこちから吐いた匂いがしており休むどころではない。逆にこっちが気持ち悪くなってくる。こうなることを知ってか近くを通る人は全くいない。
「なぁ、匂いを消す魔法とかないのか?」
「ありますけど…この状態じゃ使おうにも使えない状態で…」
「はぁ、使えねぇな。」
ボサーっと突っ立って転移魔法の門のところを見ていたが結局俺以外に生存者はいなかった。
「時間になりました!集合してください!」
やっと時間になったようで集合の合図がかかるがみなぐったりとした状態で歩いてくるのでゾンビ集団と言われてもしょうがない状況。毎年恒例のことなのか養護の先生が黙ってクラス一つ一つに回復魔法らしきものをかけていく。本当養護の先生大変だな。みんなの気分がよくなったところで城門が開く。城壁内は金を散々かけたであろう豪勢な貴族の屋敷が何軒も連なっており、金持ちオーラで気分が悪くなってきそうになる。しかし周りの反応はまるで少年が戦隊ヒーローを見るかのような憧れの目で見ていた。そんなにいいものなのかと首を傾げそうになる。
「遠いところからよくきましたな、生徒諸君。」
いかにも裕福そうなおっさんが何人か従者を連れてきた。
「これから国王陛下直々に未来を担うみなさんにお話があるようなので早速ですが大ホールまで来てください。」
何かしら話があってから見学が始まると思っていたがまさか国王がその役をやるとは思わなかった。まぁお堅い話をされると思うので寝ないように気をつけないといけない。大ホールは王城の中にあり入るとその広さに驚かされる。この学園の生徒は500人以上いるというのに全員が中に入ってもまだ余裕がある広さ。その大ホールの舞台上には赤いローブを羽織り王冠を頭に乗せた人物が立っていた。
「ようこそ、みなさん。我が王城へよく来ました。ここは今から1000年前に北方の国からの攻撃を防ぐ砦として作られた街でして…」
国王の話が始まって少ししたが、あぁ、ダメだ、行く、夢の中へ導かれてしてしまう。何故こうも偉い人の話は長く、そして人の眠気を誘うのか。起きようと思っても眠気は言うことを聞いてくれず夢の中へ引きずり込もうと意識の袖をぐいぐい引っ張る。こうなったら最終手段しかない。
(「バディ、代わりに話を聞いておいてくれ。俺はもうダメだ。」)
小声でバディに代わりに聞いてもらえるよう頼んでみる。
(『ダメです。』)
まぁ、そう言われると思っていた。最終手段も失敗に終わったので頑張って聞くしかない。
「…ということでみなさんは我が国を背負って未来へ羽ばたく希望の羽です。これからも勉強を頑張ってください。」
やっと終わってくれた。何度か夢の中へ入ってしまったので全て覚えてはいないが大体のことは覚えてるのでよしとしよう。王都内の見学をするために他の生徒と一緒に大ホールを出ようとすると、
「黄月 龍さん、赤夏 鈴さん、トカゲさん。この三名はこのまま大ホールにお残りください。」
そうメイドに言われた。なんだか面倒なことが起きそうな予感しかしない。三人だけで大ホールで待っているとさっきのメイドに案内される。他の生徒とは別のルートを通り別の部屋に案内される。待合室のような場所でお菓子まで出されているのでまだ時間がかかるよう。
「なんで俺らだけこんなとこに呼ばれたんだろうな。」
「なんででしょう。あれから何も言われませんし、お菓子まで出されてしまいましたし…」
なんか高価な感じのお菓子なので逆に食べていいのか不安になってしまっているのにこの女ときたら、食べ尽くすような勢いでお菓子をパクついていた。
「さすが、お嬢様は容赦ないな。」
「今はお嬢様じゃなくて一個下の可愛い後輩だよ、トカゲ先輩。」
「イタイの間違いだろ。」
「それは過去の話で今は違うもん。」
「変わんねぇよ。深淵を守護する大悪魔さん。」
「なんでまだ覚えてんのよ…」
「一回あったことは忘れないタイプの人間なんで。」
話してる間に黄月もお菓子を食べていたので俺もお菓子をもらおうと思い手を伸ばすと、ドアが開きさっきと同じメイドが立っていた。
「用意ができましたのでこちらへお願いいたします。」
狙ったかのように入ってきたのでお菓子を食べ損ねてしまう。メイドの後についていくと豪華なレッドカーペットが敷かれた廊下に連れて行かれるので自分の中で不安がだんだん大きくなってくる。人生の中で最も面倒なことが起きそうと思うと発狂しそうになる。その廊下の奥には大きな二枚の扉がありその両端には何人か騎士が立っている。薄々感付いてはいたがこの扉の先にいるのはもしかしなくても国王だろう。二枚の扉は観音開きになっており二人の騎士が息を合わせて開くとやっぱり国王が玉座に座っていた。
「三人とも急に呼び出してすまない。まずは何も言わずに呼び出したことを詫びよう。」
さすがにこんな大勢いる中でいうのは王族侮辱罪とか言われそうだから言わないが詫びるのであれば呼ばないてほしい。
「詫びる必要などありません。私は国王様のお力になれるのであればどんな時でも飛んで参ります。」
そう言って忠義を誓うような態度をとったのは黄月だった。お前いつの間に国王の犬になったんだよ、偉い奴に尻尾振りやがって。今度からイヌッコロって呼んでやろうかな。
「私たちのような庶民に協力できることがあれば何なりとおっしゃってください。」
それに赤夏まで続いてしまっている。お前ら権力に弱いとかただのイキってる奴らじゃねぇか。今度からは力を持つものとしてその根性を叩き直す必要がありそうだ。
(「ほら、トカゲもやって、ほら。」)
「嫌だね。」
赤いイヌッコロに小声でなんか言われるが拒否する。
(「なんでよ!この国の王様よ、無礼のないようにするのが普通でしょ?バカなの?」)
「バカなのはそっちだろ、相手は交渉しに来てんだぜ?屈服して無償で条件を飲むような態度をとってどうすんだよ。」
「貴様ら何をコソコソと話している!国王様の前で失礼だとは思わんのか!」
いかにも頭の堅そうな騎士に注意を受けるがそんなこと全くと言っていいほど気にしない。隣の犬は気にしたようだが。
(「トカゲ君、ここは失礼のないようにするのが普通だよ。」)
「だから交渉するような距離じゃないだろ?そんな思いっきりへり下った態度は。」
「さっきから交渉という言葉が聞こえてくるが貴様は誰を相手にしているのかわかっていないのか?」
「わかってますよ、ただし交渉となれば話は別です。交渉はまず最初にお互いが対等な立場でなければなりません。私はこの2人の態度がその対等な立場に適していないのではないかと考えているだけですよ。」
「お前はさっきから失礼なことばかり言って!王族侮辱罪で牢屋にぶち込んでやる!」
「まぁ、待たれよ騎士長。確かにこの少年のいうことには一理ある。これは命令でもなければ彼らが慈善でやってくれるわけではない。ここは対等な立場で物事を判断することが大切だ。」
「しかし国王様…」
「お話を理解していただき感謝いたします、国王陛下。」
ここで初めて国王に向かい頭を下げる。
「それで私たちをここに読んだ理由とは?」
「その事はまず順を追って説明しよう。」
「失礼に当たると思いますが結果だけで十分です。」
「まぁそう焦るな少年よ。何事にも順序というのが大切だ。」
「そう…ですね。失礼いたしました。」
あー、面倒クセェ。どうしてこうも偉い奴らは自分語りをしたがるのか。面倒くさくて本当に嫌になる。
「あれは私が国王になってしばらくした時のことだった。貴族の勧めで食事会を開いたのだがその勧めた貴族が私のことをよく思っておらず、料理に毒を盛られてしまった。しかも私の妻の料理にだ。そんなことを知らずして妻はその料理を口にしてしまった。」
いや、馬鹿すぎるだろ。なぜ自分の敵となる人物の誘いに乗ったのか。訳がわからんがその貴族に国王を騙せるだけの力量があったからだろう。そう思う方が現時点では自然だろう。
「あの時は危険な状態だったが、幸運にも一命を取り留めた。しかし毒が神経毒だったせいで後遺症が残ってしまったのだ。今では歩くどころか食事することもままならない状態になっている。頼む、どうか妻の体を直してくれ、そのためならなんだってしよう。」
ん?今なんでもって?それはできたらとても美味しい話だが、俺は論外だとしても黄月や赤夏がなんでもなおしのような万能魔法を使えるという話は聞いたことはない。
(「バディそんな万能魔法こいつらに使えるのか?」)
(『はい、マスターはともかくこの二人はすべての魔法が使えます。』)
一言余計だが使えるということか。国王の真意がわかったところで今度はこっちからの質問に答えてもらう。
「お話はわかりましたが後遺症を治せるほどの強力な魔法などあるのでしょうか?また、あったとしてもなぜ私たちが指名されたのですか?」
「ある。その魔法は私が探し出した。しかし王国の魔術師は誰一人として使えなかった。しかし、わずか17、8歳にして白銀等級に値する魔法を使える君たちならばいつか必ずこの魔法が使えると信じている。」
「そうですか…ではお答えいたします。」
軽く息を吸い、間を空けてから冷たく言う。
「お断りいたします。」
一気にその場の空気がざわめく
「ちょ、ちょっとトカゲ、何言ってるの?あなたには上の立場の人間に対する礼儀もなければ人としての善意もないの?」
「そうだトカゲ君、君はともかく僕たち二人は今すぐにでもその魔法が使えるんだ、断る理由なんてどこにもないじゃないか、ここはさっきの発言を取り消して喜んで受けるべきだ。」
一番に言い寄られたのは距離的にも近い犬二人に言い寄られる。善意がないだの自分たちにはできることだの色々と御託を並べられるがそんな軽い思考でこの魔法を取得しようなんて馬鹿げている。
「何か不満なことがあるのか。だったらいくらでもいいたまえ、報酬ならきちんと出す、なんだったら上級貴族の位だって与えてあげよう。」
「僕が言いたいのはそういうことじゃありません。この魔法を取得する責任を理解しているから断ったのです。」
「その責任とは。」
勘弁してくれよ。自分の胸の内を晒すのは得意じゃないんだ。
「この魔法を取得できればすべての状態以上、不治の病とされていた病気や、どんな怪我すらも治せるでしょう。しかしその魔法はすべての魔術師が使えるわけではありません。必ず救われる人と救われない人が出てきてしまいます。だからこそ、救い続けなければならない。それが人としての最大の善意であり最大の責任です。その責任を負わせるにはこの二人は若すぎます。」
そこまで言うともう誰も文句を言うものはいなくなった。
「それに救われなかった人たちはどうすればいいんですか?一度は立ち直ったかもしれない、それでも可能性があった。あったのに救われなかった。自分も死んでしまったその人も。そんな状態になってしまったらもう…泣くしかないじゃないですか、だったらそんな可能性ないほうが楽です。」
一度吐き出してしまったら最後まで吐き出すしかなくなって、したくない表情をしてしまう。胸の中にずっとしまっていた、いや、ずっと目をそらしていたものが感情となって込み上げてくる。悲しい、辛い、息が詰まりそうになる。
「ならば私たちはどうすればいいのだ…可能性が目の前にありながら、悲しみ続けなければならないのか…」
「ある偉い人が言っていました。幸せの扉が閉まるともう一つの幸せの扉が開くそうです。しかし私たちは閉まった扉ばかり見ているのでその開いた扉に気づかないことが多いと。」
「私はその扉を見つける努力をするべきだというのか。」
「そういうことです。それでは失礼します。」
王の間を出るとまた同じメイドが何も言わずに立っていた。
「あの二人待ちですか?」
「はい。お二方が来次第同じクラスの人と合流してもらいます。」
「お願いします。」