14、死んでからがモテ期
14日目です。
地獄の始まりです。
楽しめるところなんてないと思いますがよろしくお願いします。
数日後。二人とも毎日来てくれていたがいつまでたっても顔に当たりそうにない。しかし動きは良くなってきているので妥協点ということで次のステップに進むことにする。
「動きも良くなってきたから今度は逆だ。俺の攻撃を避けろ。」
「やった…やっと解放される…」
「いや、もっときつくなると思っていた方がいいかも…」
「そうだな。では少し休憩してから再開するぞ。」
「その前に確認したいんだけど、私と出かける予定って覚えてる?」
「あ。」
「完全に忘れてるじゃん。よかった、言っといて。明日、トカゲの家に来るからよろしくね。」
(「ちっ、めんどくせぇ…」)
「何か言った?」
「いや、なんでもない。」
全くなんで今になって思い出すのか。とりあえず今日は土曜日にあたる日だし絞りに絞ってやりますか。なぜかリンから冷たい視線を感じるが視線を送られる理由がわからないので知らんふりをしておく。
翌日唯一持っている私服に着替える。上下黒の半袖のシャツとジーンズは仕事着としても私服としても使えるのでなかなかに便利。ちなみに女子と二人で出かけるのは初めてだが師弟みたいなもんだし別に気にしてはいない。問題はどこに連れて行かれるかが気になる。が、それにしても遅い。もう昼近くになるがもしかして道に迷った?いや、昨日は二人だけできたからそんなことはないんだけど…
「お待たせ。ごめん時間かかっちゃって。」
「遅い。しかもなんだよその格好は。もしかして前世のやつか?」
散々待たされた相手は明らかにこの世界観に合っていない服装をしてこられた。
「そうだけど、なんか問題でも?もしかして可愛すぎて見ていられないくらい眩しいとか?」
「そういうことじゃない。個人的にあまり前世の物を使うことを良いと思ってないんだよ。」
まぁ、いいとは思うけれども。リンにも合いそうなので今度着せてみたりすると面白いかもしれないと思ってしまう。
「まぁいいじゃん。細かいことは気にしない気にしない。」
「気にしないことにするが、とにかく飯にしよう。腹減った。」
「そういえばもうそんな時間ね。どこで食べようか?」
「適当でいいよ。」
「だったら私のオススメの店にしましょう。」
「オッケー。んじゃそこに行くか。」
大通りに出るといつも通りの人の多さで賑わい相変わらずの活気の良さを感じる。
「ところで、お前が力をもらう理由って何にしたんだ?」
「なんでいきなりそんなこと聞くの?」
「いや、中途半端な理由だと失敗するからどんな理由なのか気になった。」
「教えない。」
「なんでだよ。」
「トカゲだから。」
なんだそりゃ。相変わらず女子が考えていることはわからない。しばらく歩いているといかにも豪華そうなレストランが見えてくる。
「ついた、ここが私のイチオシの場所。」
「ここって結構いい値段する店じゃん。お前いつもこんなとこで食ってんのかよ。」
「一度しか行ったことないけどここの料理すごく美味しいから一緒にどうかなって。」
「別にいいけどお前の懐事情はどうなってんだよ。」
「ギルドで稼いでるから大丈夫。」
よくもまぁ基本的な知識がないのにギルドに入れたものだ。多分天使からの力に物を言わせて入ったと思うが。
「じゃ、ここにしよう。」
中に入るとそこは俺たち一般人が気軽に利用できる場所ではない高級感あふれるところであった。
「…俺らが気軽に使えるようなとこじゃないな。」
「ん?何が?」
あぁ、そうだ、こいつ自分でいいとこの出と言えるくらい金とか持ってんだった。俺ら庶民と感覚が違うことを今更ながら思い知らされる。接客の仕方は今の日本のファミレスに近い物を感じたので日本の接客技術ってすごいなーと初めて思った。異世界に行ってこそ気づくことが沢山あってそれを知るのは楽しい。とりあえず注文は取れたので待ってる間はどうしようかと思っていると。
「ところでずっと気になってたんだけどトカゲって変な名前だよね。もしかして偽名?」
向こうから話しかけてくれた。内容もそろそろ聞かれるのではと思っていたので答えやすい。
「当たり前だ。前世の名前がトカゲなんて恥ずかしくて死にたくなるわ。」
「じゃあ本名はなんていうの?」
「その名前は前世で死んだ俺の名前で、今ここにいる俺の名前じゃない。それよりお前らのその奇抜な髪色の方が気になる。」
少々強引だが話題を変える。
「え?悪魔から何か聞いてないの?」
「全く。聞いていることといえばここの言葉と日本語は違うってことぐらい。」
「だったら説明するけど、私達の中にあるもっとも使いやすい属性を象徴する色になってるらしいよ。」
「属性っていうと火、水、土、風の四属性か。でもそれだと黄月の髪色は金じゃなくて緑とかになると思うんだが。」
「それなんだけど、属性だけじゃなくて別の要因も絡んで来てるらしくて。それがなんだかはわからないんだけど、トカゲは何か変化あった?」
「いや、前と同じく黒だが、変わったといえば少し色が濃くなったような気がする。なんとなくだけどな。」
そんなことを話していると注文したものが運ばれてくる。店の見た目どうりの豪華さなのでちゃんと食べる時の作法を知っておけばよかったと後悔する。この後悔も異世界に行ってこそだと思う。料金はお互いに食べた分だけ払い店を出る。
「そういや今更だけど厨二的な発言しなくなったけど、どうしたんだよ。」
「強くなったからかな。」
どっかで聞いたような台詞で返される。
「制御できたぐらいで強くなった気になんなよ。」
「言ってみたかっただけだよ。それよりこれからどこに行こうか?」
「んー別に決めてないけど、どこか行きたいとことかあんの?」
「じゃあこの世界の服とか見たい!」
やはり女子はどこに行ってもオシャレしたいらしく服屋を所望した。自分のことをよく見せようとする心理は未だに理解できない。
「ここら辺だとどこになるんだ?」
「知らない。」
「行きたい人が知らないってそれなんて冗談だよ。えっとここから近いのは…大通りに何軒かあるらしいな。それと古着屋が大通りを抜けるとあるな。」
バディが調べてくれたので、それを読み上げる形になる。
「リサーチ済みとはなかなかやるね。早速行ってみよう。」
リサーチ済みというかリサーチしてもらったんだがな。この二人だったらバディを見せても問題ないと思うがバディの気分次第だろう。目的の店では赤夏は興味津々に店内を歩き回り、いろいろ手にとってはぶつぶつ何か言っている。完全に自分の世界に入ってしまっていて周りに迷惑がかからないか少し注意して見なければならない。
「トカゲ、ちょっとこっち来てもらっていい?」
「なんだよ。欲しいったって買ってやらんぞ。」
「そうじゃなくて、この服トカゲに似合いそうだと思って。着てもらえる?」
「なんで俺の服をお前が決めてんだよ。」
「だって、誰かに言われなきゃずっとそのダサい服しか着ないでしょ。」
「だってこれ楽だし。別に何着あっても邪魔になるだけだから俺はいいよ。お前が見たいの見ろよ。」
「せっかく服を買いに来てるんだから試着ぐらいいいじゃん。」
「買いに行きたいっていったのお前だけどな。」
「いいから、着てみてよ。」
相手の押しが強いのでしぶしぶ服を着てみる。好みの色ではないがべつに不似合いというわけではない。あいつなりになかなかいいセンスだとは思う。
「どうだ。満足か?」
「うん。似合ってるよ。買って行ったら?」
「余計な出費は控える主義でね。まぁ、このネックレスぐらいならいいけど。」
十字架の形をしたネックレスを選ぶ趣味はまだあるらしいが、俺もこういうものを嫌いというわけではない。
「それだけでも気に入ってくれてよかった。会計済ませてくるから待っててね。」
「いいよ。俺が払う。」
「付き合ってくれたお礼くらいさせてよ。というかそれぐらいわかってよ。」
そういうと勝手にレジまで行ってしまった。服がどこにあったとか全くわからないのに一人で置いてかれてしまう。女子というのはなぜこんなにもせっかちなのか。とりあえず元の服に着替え、試着室から出ると会計を済ませた赤夏が待っていてくれた。
「はい、欲しかったやつ。」
「悪いな、ありがとう。」
綺麗にラッピングされた小包を受け取り店を出る。
「で、この後どうする。」
「次の服屋に行くに決まってるじゃん。」
「その後だよ、何にもないなら解散することになるが?」
「とくにないけど…トカゲは?」
「一人でこの街を見て回りたいかなと。」
「だったら一緒に回ろうよ。私もこの街のこと知りたいし。」
「好きにしろ。断ってもどうせついてくるだろ。じゃ、次行くぞ。」
「ちょっと、待ってよトカゲが居ないと道わからないんだって!」
♦︎♢♦︎
ようやく全ての店を回り終わるとなぜか両手に荷物を抱えさせられていた。このまま街を見て回れるわけがない。
「よくもまぁ、こんなにものを買おうと思うな…」
半ば呆れ気味に何も持たずに楽しそうにしている赤夏に話しかける。
「だって見てるとあれもこれも欲しくなっちゃったから…」
「もっと計画的に買い物をするべきだ。じゃなきゃ破綻するぞ。」
「そこまで無計画じゃないよ、全くひどいこと言うねトカゲは。」
「どうだかね…」
このまま街を歩くにも疲れるので街を一望できる高台を目指して階段を上っている。
「どっはー!やっと着いた…」
「うわぁ…」
高台にたどり着くともう日は沈みかけ夕焼けが寂しげに街を赤く彩っている。何軒かには灯りがともり煙突から煙が出ている。夕食の準備でもしているのだろうか。
「こうしてみるとこの街も綺麗だな。」
「そうだね、法律のことには腹がたつけど、こうしてみるとこの国もなかなか悪くないって思えるよ。」
しばらく何も言わずに眺めていると段々暗くなり家々の明かりが街を明るく照らし始める。
「そうだ、ネックレスここでつけてみてよ。」
「どうした唐突に。そして両手が塞がってる相手に提案することじゃないと思うぞ。」
「だったらつけてあげるから、ネックレスどこにあるか教えて。」
「ズボンの右ポケットの中だ。膨らんでるからわかるだろ。」
「怒ることないじゃん。」
別にそんなつもりで言ったわけではないが赤夏にはそいう風に聞こえてしまったらしい。しかしそんなことよりも重大な問題が起こった。赤夏の手がポケットの中に入ってきたのだが、これがなんとまぁこそばゆいこと。女性らしい細くて柔らかい指が太ももでもぞもぞと動いているから変な気分になってくる。しかもネックレスを後ろからではなく前から首の後ろに手を通して結ぼうとしているので顔がかなり近くにくるし、女子特有の甘い匂いもしてくるのでいやでも相手を意識してしまう。
「んっ…ふっ…んぅ…」
耳元で喘ぎ声を出されて気がつくが俺がちょっとしゃがめば少しはマシになるのでは、と思ったが実行する前につけ終わってしまった。
「出来たよ。」
「あ、あぁ、ありがとうな。わざわざ。」
「どういたしまして。」
その時の赤夏の頬はぼんやりと赤かったような気もするが暗かったのでよく覚えていない。それよりも俺の方がもっと赤かった気がする。