12、無くすべきもの
12話目です。
この辺からクソになっていきますが詳しくは反省会で言います。
バディの助けを借りて今日もまた勉強をする。その中でいきなりドアが開けはなたれる。
「グロン君か、遅刻書は書いてもらったかい?」
しかしグロンは何も言わずに一枚の紙を差し出す。
「はい、寝坊ね。次からは気をつけるんだぞ。」
これにもグロンは答えずに自席に座る。本当にここの教師はどれだけ無能なんだ。グロンが遅刻理由を偽った事なんて見ればわかるほどに彼の顔には絆創膏などが貼られていた。それによく見れば服の裾とか制服に僅かだか土も付いている。というかグロンみたいな柄の悪い人間に手を出す奴なんているんだな。そんなことを考えている間にも授業は進む。
「それではここで授業を終わりにします。」
授業は終わり昼食休みになったのでグロンを昼食に誘う。
「おい、グロン。飯食いに行こうぜ。」
「なんだトカゲか、誘ってくれたことは嬉しいが実はもう飯を食ってきててな。腹は減ってないんだよ。」
そういうとグロンは弱そうな笑顔を見せた。全てに仕方がないと区切りをつけて、ただ何も起きませんようにと願う弱者の笑顔は初めてみたような気がする。
「そうか…無理、するなよ。」
「…あぁ…。」
彼の選択を否定したくない。その思いは正しかったのか、間違っているのか。それは誰にもわからないことだと思う。
食堂にはやはり多くの人が並んでいて、その中から黄月を探し出す。
「よぉ、黄月。お前いつもここで飯食ってんのか?」
「はい、ここは生徒会専用の場所なので僕はいつもここを使っていますね。」
「専用の場所まで用意されてるとは、さすが生徒会って感じだな。」
「こんなところ用意されても困るのですがね…」
「それは平等、不平等的な意味でか?」
「そうゆうのもありますが、ここに僕がいるだけで周りの空気が悪くなるといいますか…」
「まぁ、生徒会は恨まれ役だからしょうがないけどな。」
別の意味でも、といいかけたが関係ない人を巻き込むことになるのでやめた。
「さすが余の好敵手…余よりも早く行動に出るとはなかなかだ。」
いきなり声をかけられ振り返るとめんどくさい奴がいた。どうやらよほどほっぺたをつねって欲しいらしく痛々しい構えまで決めている。
「しかし!それくらいのことで余に勝ったと…ひたい!にゃんでひょっぺたちゅねるの!」(いたい!なんでほっぺたつねるの!)
「言っただろ。慈悲はないって。」
ぶんぶんと腕を振ってだいぶ痛そうにしているが、やる方が悪い。
「きょーつきしぇんぱーい!たちけてー、たちけてー!」(黄月先輩!助けて、助けて!)
黄月に助けを求めるのは間違いではないな。あいつ優しいし。
「トカゲ君、そろそろ並ばないと食券売り切れますよ。」
普通に助けるかと思ったが食券の心配半分かと思うと哀れに思う。
「んじゃ、並ぶとしますか…」
「ご飯よりも私の心配してよ〜!せんぱーい!」
あんなの無視だ無視。
「それより、今日こそは赤夏の力の制御を完璧にするぞ。」
そう聞くと赤夏のテンションが一気に下がる。
「あれをまたやるの?」
「当たり前だ。あの方法が一番確実で安全だ。」
この世界では安全と言い切れないかもしれないが、不安にさせるといけないので言い切っておく。
「あの方法以外ないの?」
「どの方法も同じだ。トラウマ見せられて、乗り越えるところから始まる。」
「なんでそんなものを見なきゃいけないの?」
こいつさっきから質問ばっかだな。
「強さを求める理由なんてみんな一緒さ。自分の弱いところをなんとかしたいんだよ。その弱いところを改めて認識することで力への執着が強くなる。その執着心こそが強さへの第一歩になる。」
「…だったら見たくないな。」
さすが、いいとこの出と自分で言っているだけありわがままばっかりだ。
「うまくいったらなんかしてやるよ。」
あまり物で釣るのはよくないとは思し、もう高校生なのでそんなものに釣られないかと思いきや。
「本当に?」
乗ってきた。
「本当だ。約束するよ。」
「うん…わかった。」
「なら、よし。」
また一つ女子の生態を知れた気がする。
午後の授業を終え、昨日と同じところに集まる。するとそこには昨日いなかった人がそこにいた。
「遅いよトカゲ。待ちくたびれて帰るとこだったよ?」
「なんでリンがここにいるんだよ。」
「トカゲが変な気を起こして赤夏先輩を襲わないよう見張るため。」
「変な気なんて起こさないし、黄月生徒会長もいるから大丈夫だって。」
「それでも危ないことはするかもしれないでしょ?」
「うっ…それは、あるかもしれない。」
「止められないにしても、何もできないよりはいいからさ。」
「はぁ…わかったよ。同席してもいい。」
小声でやった、と聞こえた気がするがあまり深く言及しない。
「じゃ、赤夏始めるぞ。」
しかし相手は大分しょげており返事一つ帰ってこなかった。調子が狂うので調子を戻す。
「ひたい!ちょきゃげひたいって!にゃんでひょっぺたちゅねるのひまわはひにゃんにもひてないひゃん!」(いたい!トカゲいたいって!なんでほっぺたつねるのいまは何にもしてないじゃん!)
「暗いイメージを持ってやると自分のトラウマに引き込まれるから少し気分を良くしてやろうと思ってな。」
「だからってつねることないじゃん…」
「元気出た?」
「さっきよりかは…」
「それじゃ早速やるぞ。手順は前回と同じだ。だが今回は何があっても止めない。存分にやってこい。」
赤夏は前に言った手順を踏み自分の世界に入っていく。
♦︎♢♦︎
どんどん自分の意識が沈んでいく感覚。黒い沼の中一人でぶくぶくと沈んでいくと前世での記憶が鮮明に思い出させられる。あれは母親だ。たしか、この時は勉強してなくて怒られたんだっけ。懐かしいな。また沈んでいく。今度は高学年での記憶。自分は一人ぼっちで窓の外をぼんやりと眺めていた。白くのしかかった灰色の雲をみていたが、何を考えていたか。もう思い出せない。また沈んでいく。次に見えたのは前の記憶とそんなに時間差は開いていない。が、コマ送りのようにパラパラとめくられて見せられていく。ボロボロになった筆箱、片方だけないくつ、落書きされた上履き、殴られる音、痛い、痛い、痛い。また沈んでいく。水をかけられる音、冷たい、痛い、寒い、もう自分の流した涙かかけられた水かわからない。窮屈だ。苦しい。窒息死しそうになる。家族の重圧、求められてる自分を演じ、仮面の奥に隠した顔がどんな顔をしているかもわからない。さびしい。つらい。いたい。いやだ。こんなせかいきらいだ。なくなれ、なくなってしまえ。きえてしまえ、きえろ、きえろ、キエロ、キエロ、キエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロキエロ…
『なかなかに酷な人生を送ってきたようだな。』
キエロ。
『心を閉ざしてしまっているようだが構わずに失礼するよ。』
キエロ。
『さて、君は力を得るためにここまで落ちてきたわけだけど、いまどんな気分だい?』
キエロ。
『世界を憎んでいるって感じだね。それとも自分かな?』
キエロ。
『君が望むのならば僕は君に力を与えよう。なに、危ない力じゃないさ。求めた願いにもよるが、僕が制御できるように調整してあげるからね。』
チカラ…ソウダ、チカラガアレバクルシマナイ。ヨワイジブンジャナクナレル。チカラガホシイ。ホシイ。ホシイ…
急に頬を全力でつねられる感覚に襲われる。なぜここでこんなことを思い出したかわからない。でも彼は弱い自分を認めてくれた。褒めてくれた。久しぶりに人の温もりを感じた。そうだ、これが終わったら彼に何か命令できるんだ。何にしよう。三回回ってワンと鳴かせるのもいいかもしれない。
『もしもーし。聞いてますかー?』
声が聞こえる方向を見る。しかしそこには何もない。
「力をあたえてくれるって本当?」
『あぁ、本当だ。だけど力を与えるために力を望む理由を聞きたいんだ。いいかな?』
「ええ、もちろん。私が力を望む理由はー」
♦︎♢♦︎
あれから何分経っただろうか。ようやく赤夏の目に意思が宿る。あれほど溢れかえっていた力は嘘のようにその小さな体に収まっている。
「うまくいったみたいだな。」
「うん。おかげさまでね。」
「じゃ、次の段階にー」
「待った。その前に言う事きいてもらおうかな。」
「おいおい、なんかしてやるとは言ったが言う事を聞くなんて言ってないぞ。」
「いいから聞きなさいよ。」
どうせロクでもないことだと思うが相手が何を言うかまつ。だが急にもじもじし始めてなかなか言い出さない。
「言わないんだったら次行くぞ。」
「あぁ、待ってよ今言うから…」
「じゃ、何して欲しいんだよ。」
「えっと…ずっと友達でいてほしいなって…だめ…かな?」
「そんなことを言うのにわざわざ時間をかけたのかよ。」
「そんなことってなによ!乙女のお願いかねえてよ!義務でしょ?」
「もうかなってることを言いだしたからそんなことって言ったんだ。別のにしろ。」
なんかそれを聞いて相手はこれ以上ない笑顔を見せる。こうやってみるとなかなか可愛い顔をしていると思う。
「じゃ、次の休みの日一緒に出かけようよ!」
「わかった。次の休みな。じゃ、お願いも聞いたし次の段階だ。まぁ、黄月はわかっていると思うが俺の顔を一発でもいいから殴れ。それができたら次の段階に移る。それと、二人掛かりで来てもいいぞ。」
「二人掛かりでなんて、余裕じゃない。しかも高等部トップの黄月先輩もいるし、楽勝よ楽勝。」
「いや、僕一人だけでも全然太刀打ちできないぐらい、師匠は強い。」
「まぁ、習うより慣れろってやつだ。とっととこい。」
「じゃあ遠慮なく!」
しばらくして今日最後の学校のチャイムが鳴る。
「おいおい、楽勝とか言っといてそのざまか?」
肩で苦しそうに息をする2人がいた。かという俺は息一つ乱していない。
「な、なんであんなに動いて息一つ乱れてないの…」
「強いから。」
「昨日といい今日といい、めちゃくちゃだ…」
「ま、しばらく休んでいてくれよ。」
コルはもう荷物などを運んでくれたようで隣に鞄が3つ置いてあった。
「おーし帰るぞー。」
「やっと終わった。相変わらずすごいよね、避け方とかいなし方とか。」
「師匠直伝だからな。」
「トカゲの師匠か…どんな人なの?」
「一言でしか言えないから一言で言うが、クソジジイだ。」
「クソって…師匠に向かっていうことじゃないでしょ?」
「師匠でもあり父親だからな。別に気にしてない。」
「さらに父親ってじゃあ、なおさらじゃない。」
「ガキにクソみたいな名前つけるから悪く言われんだよ。ほとんどあいつの責任だ。」
「もぉ、むちゃくちゃすぎるよ…」
そんなことを話しながら曲がり角を曲がると見慣れた人物が道の真ん中で倒れていた。
「グロン!」
しかし返事はなく、駆け寄ると顔は赤く染まり短く呼吸をしており苦しそうにしている。体の中の奥深くから怒りがこみ上げてくる。こんなことになるまで言わないグロンに対してもそうだが、やったやつに対しての怒りの方が当然大きい。
「きゃっ!大変、早く救護の先生呼ばないと!」
「悪い、グロンのことは頼んだ。」
「ちょっと、こんな時にどこに行くの?友達じゃないの?」
「その仇を討ちに行く。すぐ近くにいることはわかっている。」
「また無茶する気?このことは先生たちが解決してくれるから、まずは救護の先生を…」
「あんな無能どもに任せてたらいずれグロンは自分を殺す。それだけは絶対にさせない。」
「ちょっとどうしたのトカゲ?怖いよ…」
「悪い、でもここで俺が止めなきゃ誰も止められないと思うんだよ。」
そう言って会話を切りグロンを襲ったやつらの場所に行く。