10、2人目
10話目です。
2桁に突入しました。
今日もよろしくお願いします。
「なぁ、こんないっちゃってる奴が二人目なのか?」
「まぁ、そうゆうことになりますかね…」
「まじかよ…こんなやつに教えるとか頭痛くなるわ。」
なんでよりにもよって俺の苦手なタイプばっかり選ばれるんだよ…と心底うんざりする。しかも力の使い方に関しては黄月よりもひどい。人を殺すかのようなオーラを出している。
「なんだ貴様、この大悪魔を愚弄するというのか。よかろう!地獄の煉獄で肉体はおろかその精神まで焼き尽くしてやる!」
「どうぞ存分にやってもらって結構ですよ、俺に当てられるんだったらな。」
「ならば喰らえ!深淵の底より来れ!地獄の煉獄よ!愚かなる愚者の身を焼き滅ぼせ!」
なにやらそれっぽいことを言ってチンタラ魔法陣を構築しているが、その隙に後ろに回り厨二病感染者の頬を全力で引っ張る。
「ひゃ、ひゃひほふる!くさまぁこにょひょほぐろふふるくぁ!」(な、何をする!貴様この余を愚弄するか!)
「何言ってるかわかんねーよ!この厨二野郎!」
相手も反撃しようとするが何せ反撃する手段がないので両手をバタバタと空中で泳がせる。
「ひゃめへふははい!わはひふぁふぁるははへふー!」(やめてください!私が悪かったですー!)
涙目になりながら俺になんか言ってくる。
「誰が悪いとかそうことじゃない。俺がムカつくから引っ張ってんだ。」
「ひょんなー!」(そんなー!)
悲惨な悲鳴が午後の学園に響いた。
「うー…私のほっぺたこんなになるまで引っ張って…責任とって…責任取ってよ、この悪魔!!」
引っ張られすぎて通常の1.5倍くらいに膨れている。少々やりすぎた感もないがこういうタイプには1番の薬かもしれない。あとすっきりしたし俺的には大満足である。
「でも深淵を守護する大悪魔(笑)さんはなんで低位の悪魔の攻撃でピーピー言ってんすかね?あぁ、そうか、本当は大悪魔じゃなくて一般人だからかー(笑)」
「その話を笑いながらするなぁぁぁ!」
半分ベソをかきながら追いかけられる。全く、このタイプはいじっていて楽しい。
「はい、それじゃ本題に入るけど、まずお前らには力の制御をしてもらう。気付いてなかもしれないが、力の制御が全くできていないせいで、剣を持っていても振り回している、あるいは剣に使われている状態だ。力の制御を正しく行うことでキチンと剣を扱える状態にしていく。」
まずは簡単そうな黄月から教えていく。
「まずは自分の中に力を集中させて…そう、いい感じ。」
やはり黄月は剣道をやっていたせいかすぐに力を抑えることができた。
「完璧だ。その状態で待っていてください。」
「このまま…でですか?」
「常にこの状態を維持してもらいたいからな。初めはきついと思うが、やってくうちになれるはずだ。」
「はい…」
辛そうだなと思う。まぁ、俺も最初はそうだったからわからなくもないが。で、問題なのが次だが…
「お前にはちゃんと手順を教えるからその通りにやれ。」
「なぜ余が下等な存在に指図されなくてはいけないのだ。全くもってわからん。」
「ほっぺた。」
「…まぁ聞いてやらないこともない。」
どうやらほっぺたをつねられるのが本当に嫌になったようだ。
「まず目を閉じろ自分だけに集中するんだ。コツとしては呼吸をいつもより意識してやること。」
こいつも筋がいいのかここまではわりかし順調にできている。
(俺、ここで結構苦戦したんだけどな…なんか悔しい。)
変な対抗意識を燃やしていたが次第に厨二の様子がおかしくなる。変な汗が出てきてふるふると小刻みに震えている。
まずいなトラウマに引きずり込まれそうになってる。
とにかくこうなったからには集中してを切らなくては。厨二の背筋に手を当てつーとなぞる。
「ひやぁぁ!い、いきなりなにするんですか?!」
不意打ちだったからか変な声を出して飛び上がる。
「お前がトラウマに引きずり込まれそうになったからだよ。」
「え?あ、いや別にそういうわけじゃ…いやそうなんですけどね?」
なんだか随分と素直になったもんだと思う。
「まぁ普通にあることだ。きにするな。でもおまえはこれ以上は無理だから今日は休んでおけ。」
「わかった…」
「おーし黄月!つぎの段階に行くぞ!」
♦︎♢♦︎
ベンチに一人座りながら二人が特訓しているのを眺める。
(まただ…また思い出しちゃった。)
前世での嫌な記憶が不意に蘇ってくる。深淵を守護する大悪魔とか言ってるけど本当は自分すら守れない弱虫なんだということを思い出させられる。家にも学校にも馴染めなくてこんな設定作ってなんとか自分を守ってきたけどそれでもあのトラウマだけはなんともできない。
(ここに来れた時は本当に嬉しかったな…)
やっとすべての呪縛から解き放たれ新しい自分としてやっていけると思っていた。でも現実は違って。人との関わり方を大悪魔以外忘れてしまったのだ。そのせいでここでも一人でハブられるし、ほっぺたつねられるし。でもつねられたところはジンジンと痛むがなんだか暖かくも感じた。
♦︎♢♦︎
「よーし今日の訓練終わり!さーてかーえろ帰ろ。とっとと帰ろ。」
黄月は疲れてぶっ倒れているがそのうち自分で起きるだろう。それよりあの厨二のメンタルケアしてあげなければここから先うまくやれるか心配になる。
「おい厨二、帰るぞ。」
「へ?えっとそれって一緒にってことでいいの?」
「それ以外に何がある。」
そういうと厨二の表情はだんだん明るくなっていく。
「うん。帰ろ!」
二人で歩幅を合わせて歩く。
「人と一緒に帰るのって何年ぶりだろうな〜。」
「俺もそういや久しぶりだな。てか厨二状態じゃないけどやめたのか?」
「うん?して欲しいならしてやるが?」
「いや、しなくていい。」
「えぇ〜?してもいいのに〜?」
「迷惑だやめろ。それより、深いとこまで踏み込むようで悪いが、お前のトラウマってなんだ?」
厨二は楽しそうな表情からだんだん暗いものになっていく。
「えっと、話さなきゃダメかな?」
「別にそういうわけじゃないが、人に話すことで楽になることもあるからさ。」
「うん、そうだね…なんか君になら話してもいい気になってきた。」
「お?それって惚れてるってことか?」
「バカじゃないの?なんで初対面の相手にそんなこと…まぁいいや。」
厨二は重たい空気を纏いながら話し始める。
「私は前世ではいじめられてたんだよ。」
「ああ。」
「家柄もいいところだったしもともと人から恨まれやすい立場にあることはわかってたんだけど、厨二病を発症してからはもっとエスカレートしていって。それで余計大悪魔っていう設定の殻にこもるようになっちゃった。全く自業自得もいいとこだよね。」
悲しそうに話す。いきなり重たい話をしてくるが、多分それよりも辛いことがあったのだろう。と思う。慰めの意味も込めて厨二の頭を撫でる。
「頑張ってたんだな。」
すると厨二の顔が一気に赤くなり耳まで真っ赤になる。
「ば、バカじゃないの!なんで初対面の相手の頭撫でてくんのよ!本当にアホなの!」
「ああ、魔法構築論も何もわからないアホだ。」
「そういう話じゃなくて!」
「第一、そんなんじゃ誰にも褒められなかったし、認められなかったろ。だから俺が認めてやるよ。お前のそうゆうとこ。」
「うー…ありがと!」
やっぱりこのタイプはいじっていて楽しい。
厨二と別れて少しするとやっと我が家に帰ってこれた。
「ただいま。」
しかし返事は返ってこない。買い物かな?と思い自分の部屋に戻るとリンがいた。
「なんだ、いたなら返事してくれよ。」
「なんだじゃない。」
「ん?」
「なんだじゃないよこのバカ!バカトカゲ!」
いきなりひどい言われようである。
「おいおい、いきなりどうした。」
「それはこっちのセリフだよ!いきなり同じクラスの人に喧嘩売って!しかも火柱に当たったり雷に打たれたって聞いた時は本当に心配したんだよ!」
「悪かった、心配かけて。」
「悪かったじゃないよ!」
そこまでいうと強く抱きしめられる。
「本当に、生きててよかった…」
ふるふる震えている頭を優しく撫でる。
「悪かった、もう危ないことはしない。」
「約束だよ?」
「あぁ、約束する。」
我ながら守れない約束をしたと思う。
「落ち着いた?」
「もうちょっと…」
人に甘えられた経験は少ないのでこういう時何をしていいかわからなくなる。
「うん、落ち着いた。」
そういうと離れてくれた。
「まぁ心配かけてばっかりいるけど、本当に困った時は頼ってもいいんだぞ。」
「頼り甲斐ないよそうゆう言い方だと。」
「兄貴分は妹分の前ではカッコつけたいもんなんだよ。」
それを聞くとリンはニヤニヤし始める。
「妹…妹か。うん。悪くないかも。じゃあトカゲお兄ちゃんってことになるね。」
「別に無理しなくていいんだぞ。」
「じゃあトカゲ。」
「なんでもどんだよ。」
ただいま戻りましたという声が下から聞こえてくる。
「あ、爺やが戻ってきたみたい。下いってくるね。」
「いってらー。」
部屋を出て行く背中を見送る。なんとなく空を仰ぎみる。
「どうだ、クソジジイ。俺だって誰かのために尽くせたぜ。」
世界は違えど、同じ場所にいることを信じ、空に向かって一人呟く。