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この瞳で見渡すセカイ  作者: カメスケ
~第1章·謎の呪い~
9/10

第8話 見下し

ちょっと長いです

「もう杖から手を離して大丈夫だよ。」


悠来は静かに杖から手を離し、うつむきながらまず何を言えばいいかを考えた。


「ちょっと見苦しい所を見せちゃったね…」


「あぁ…」


悠来はうつむいたままだ。


「ユーk…」


「なぁシュミー、君はなんで僕にこれを見せてくれたんだ?」


「うん……理由はいくつかあるんだけどまず一つは、フィールがユーキと入れ替わったのは確実にこの事件のあと。で、この映像を見てもらってなにか心当たりがないか確かめる為。」


「いや…全く心当たりがないぞ…」


シュミーは感情玉をまじまじと見つめる。水晶は微妙な灰色に染まっている。


「な、なんだこの色…でも嘘ではないのか…?」


「嘘じゃないよ。」


シュミーは堂々としている悠来を見つめ『う〜ん…』と唸り始める。が、突然ケロッとして、


「まぁいっか、」


と次の理由を述べ始める。


悠来は、『まぁいいのかよ!』と心の中で突っ込んだ。しかし何というか、今は実際に痛快な突っ込みを入れられるような空気ではなかったので、心の中で押さえた。


「あとは…ほら…映像で見てもらった通り、僕…フィールやスピカに酷いこと言っちゃってたでしょ?」


「あぁ、あれは確かに酷かったな…ごめん、正直に言うと、引いた……」


「本当に正直に言うんだね。でもまぁ、正直に言ってもらったほうが気が楽な気もするけど…」


二人の目が合わない。


「なぁ、その事と映像を見せた理由になんの関係があるんだ?」


「あぁ…実はあのあとリアスとしっかり話しまして…」


「腐った性根を叩き直すのがどうの…とかの事か?しっかり話したって…喧嘩じゃないよな?」


「うーん。それもちょっと混じってた…かも。」


「転移したのはあの花畑だったんだよな?」


「そうだよ、あのあとね?あの花畑で…」


いやー…あのときのリアスは優しかったなぁ…仲間を見捨てようとした仲間にもあの対応、もうあれは天使だよ、エンジェルだよ、僕のラブリーエンジェ…待て、待て待て。俺にはスピカというエンジェルがいるではないか。あの黒髪ロングの美少女を差し置いてなに目移りしちゃってんだこの大馬鹿者。今の今までいろいろあってあの娘とはあんまり喋れてないけど、この異世界においてNo.1ヒロインはスピカ一択だろ?いや、待て。なにも黒髪ロングで可愛いくてタイプだからって目の前にいる優しいミステリアスガールを放っておくことができるであろうか?果たしてできるであろうか?否、できない。やってはいけない。してはいけないのだよ。つまり今ヒロイン暫定1位は…


「ねぇ、聞いてる?」


「え?」


二人の目がようやく合う。


「ごめん、一切聞いてなかった。」


「もーう…なんで聞いてないかなぁ…」


シュミーはほっぺをプクリと膨らませる。


「なっ…」


待て、やめろ。こいつは“一応”男なんだぞ?ヒロインってそんな…しかし今不覚にもカワイイと思ってしまったことは事実であるわけで…うん、候補として入れておくのもいいか?っておい松尾悠来!今なんの候補に入れようとした!お前はとうとう可愛ければ男でもオッケーな体質になってしまったというのか!?ここでこれを良しとしてしまった場合…この先、ゆくゆくは、あぁ!そんな!そんなぁ!(←バカ)


「おーい!さっきから何考えてるの?バカなの?」


「言うな!」


「否定はしないのね。」


なんか似たようなやり取りをさっきもやったような気がするが…


「はぁ…で、今俺が聞いてなかったところもう一回頼む。」


「だからさ?あの後リアスとしっかり話をして、フィールとスピカに謝ろうってなったんだよ。で、スピカも優しいからすぐ許してくれたんだけど…フィールが1日目覚めなくて、その……伝えられなくて…」


「ふむ。」


悠来はシュミーを見つめてボーッとしている。


あぁ、こいつよく見たらかなりカワイイぞ?ちょっと…ヤバイ…かも…


「それで…目覚めたかと思ったら、なんか言動がおかしくて…」


「ふーむ。」


こいつ…唇プルプルしてるな。本当に男か?嘘ついてないか?


「でも格好はフィールだし…だから、その…」


「ふーーむ。」


あっ、もじもじしてる。かわいー。駄目だ頭がボーッとしてきた…


「謝ろうとして、ドキドキしてしまった時間を返して?」


「ふーーーむ。…え?えぇ?おま、嘘だろ?酷くない!?」


「危うく君に謝っちゃうとこだったよ。」


「えぇー!なんだよ!それは酷いぞ!すっごいもやもやするんだけど!もう少し申し訳ないという気持ちを持ったほうがいいんじゃないの!?」


しかしそんな人を馬鹿にするような顔をしたシュミーもまた可愛かった。


駄目だな……このままここで二人きりだと理性が飛びそうだ。頭を冷やさねば!


「ちょ、ちょっと外の空気吸ってくる!」


「君に申し訳ないという気m、え、ちょ、どうしたのそんなに慌てて!」


悠来は老婆の家から飛び出す、が


「待って!」


シュミーはすかさず悠来を引き止める。


「なんだよ!っう!?」


うっ、上目遣いだとぉ!?この上目遣いで歩みを止めない男がいるか!?いや、これは下手をすると女も…この顔、待受にしたいくらいなんですけどぉ?!


「ど、どどど、どうしたのかね?シュシュシュシュミー君よ。」


悠来はシュミーが男か女かをしっかり区別するためにあえて「君」をつける。


しかし上目遣いにときめいたのも束の間、シュミーの表情は一瞬で豹変し、蛇が蛙を睨むような目つきになる。


シュミーは悠来の腕を思い切り掴み強引に引っ張る。そして耳元で、


「どうもこうもないんだよ、君はユーキなんだろ?フィールの格好で迂闊にうろつき周られたら困るんだよ。これはフィールの信用の問題にも関わってくるんだよ。」


と呟く。


え、なに、怖い。どうしたのこの子。さっきの上目遣いは何だったの?俺をときめかせておいて、叩き落とされたんだけど。ツンデレ?じゃない。デレツン?って…


そういえばこいつ、こういう性格だった。


「それにまだ話も終わってないし。」


「ごめん…我に返った…ごめん…」


悠来はどんどん縮こまる。


「とにかくほら、座ってよ。」


「おう…」


「映像を見せた理由についてだけど、後はフィールがどんな喋り方をするのか分かってほしかったのと…」


「と?」


「君は()()()()()被害者に見えるし…状況をわかって欲しかった。」


「なるほど?」


「いや、まだあの事件について全く分かってないっていうのが現状なんだよ。そんな中で手がかりをたくさん持っていそうな被害者という立場にいる君が何も状況を理解していないんじゃ駄目だでしょ?だから君なりに気になった事があればどんどん言って欲しい、つまり助言がほしいってとこかな。」


「おいおい、俺はこの世界について全然分からないことだらけなんだぞ?そんな人間に助言なんて…」


「だから…今は猫の手だろうと犬の手だろうと“チキン”の手だろうと、借りれるものはなんでも借りたいんだよ。」


「おいいまチキンって…」


「あれれぇ〜?僕はただチキンって言っただけで“君が”だなんて一言も言ってないんだけどなぁ…自覚があるのかな?」


この野郎、少しずつ嫌味がエスカレートしてる気がするんだけが…


「チキンなのは認めるけど…」


「認めるんだ!君は本当に正直だな!」


これは…正直というのだろうか。自分で言うのもなんだけど、チキンであるが故にチキンを認めたんじゃ…?


「もっ、もうこの話はいいだろ!」


全く…こいつと話していると本当に疲れる。


「あはは!からかいがいがあるなぁ!」


「くぅ…」


こんな年下っぽい子にからかわれるなんて…俺この先どうなっちゃうんだろうか。

…ん?本当に年下だよね?異世界ものに限らず数ある物語の中には、とってもちんちくりんなのに実は年齢500歳超えてましたみたいなことがたまぁ〜にある。特に、バトル物とか、剣と魔法の異世界ファンタジーみたいなのには付き物と言っていいだろう。もし年上ならいいけど、年下に弄ばれるなんて俺のプライドは保たれるのか…?まさか…


「あぁ…その、気になる点っていうか、教えてほしい点があるんだけどいいかな?」


「ほう。して、その教えてほしい点とは?」


悠来はなぜか若干緊張気味に質問する。


「君は、今何歳なのかな?」


「…」


「…」


「はぁ?」


あ、キレた。


「ひぃぃ!ごっ、ごめんなさいごめんなさい!」


悠来は椅子から転げ落ちる。シュミーが放った、『はぁ?』のトーンがあまりにもドス黒すぎて腰が抜けてしまったのだ。


「別に謝ることはないよ、その情報がなにかに使えるとか、理由があるなら教えてあげてもいいけど。いや、でも、なんの取り留めもなしに気分で聞いたとか、ただの興味本位とかだったらキレるけど…」


《キレるんですね!》


「いやいやいや!理由はあるよ!うん!」


ヤバイヤバイヤバイ…なにか適当に理由を見繕え!えぇ…と、、、


「あのぉ、ほら!あの事件でさ!人間が飛び散るのを見たりさ!重症をおっちゃったりしたでしょ?シュミーって俺より年下っぽいしさ!よく頑張るなぁと思ってね!はははは!」


うん、まぁパッと思いついたにしては上出来な嘘だな。これでなんとか…


「ユーキ…」


「ど、どうしたんだい?」


悠来の額から汗が垂れる。


あ…そういえば今…


「水晶が透明に見えるのは気のせいかな?」


感情玉クソッタレをつけてるんだった。



『ガッコーン!』



わずか10畳ほどの面積の中で頭蓋骨に思い切り握り拳をぶつけた様な鈍い音が響く。うん、多分合ってる。


「なっ、殴ることないじゃないか!」


「いいや、ユーキはこの話がどれだけ深刻かわかってないもん。絶対真面目に話聞いてないし。」


「どれだけ深刻かなんて分かるわけ無いだろ!そもそもこの世界のこと自体よく分かってないんだから!それに仕方ないだろ!ちょっと年が気になっちゃったんだよ!」


数秒2人の睨み合いが続いた。その睨み合いを制したのは“もちろん”シュミーだった。


「…ごめん。」


「はぁ、なんで年齢が気になったのか知らないけど、僕はピッチピチの14歳だよ。もうこれでいいでしょ。」


年下だったー!あぁ年上であって欲しかったー!もう俺のプライドはズタズター!…って、俺元々プライドなんかあったっけ?


あぁ、自分で言ってて悲しくなってきた。言ってないけど。


「だよね、年下だよね。うん、もうこれでオッケーです、はい。」


「はぁ…なんだか君と話してると疲れるなぁ。」


こっちのセリフだ!


「で?なんにも気付いたことはないんでしょ?ただボーっと見てただけなんでしょ!本当に役立たずだなぁ。チキンだし。」


「チキン今関係ないだろ!ってか待て、気になる点、教えてほしい点いくつか思いついたぞ!今度は関係ある話だ!」


「ほんとぉ〜?」


「ほんとだよ!」


シュミーは感情玉をジーッと睨みつけて、


「良かろう、話せ。」


と、態度大きめに言う。


「はい。話します。」


あれ、なんで敬語?この状況…


殴られた後正座をしたまま話をしようとする俺、足を組みながら見下すようにして椅子に座って話を聞こうとするシュミー。


相手が年下であると思い出すたびに泣けてくる。


「はぁ…まず一つ目なんだけど、あの島は消えちゃったんだよね?」


「うん、おそらくね。」


シュミーは今までの一連がまるでなかったかのように受け答えをする。


「だとしたら俺達…っていうかこのチームの皆の事とか?それと、フィールの両親の事とか?お偉いさん方が捜索してるんじゃないか?」


シュミーはそのセリフを聞いて呆れた顔をする。


「当たり前じゃん?だって僕たちのチームは騎士団でトップなんだよ?それにフィールの両親だって国の相当上の方の人間だし…ね…」


シュミーの眉間にシワが入る。なんとなく、考えていることが、わかる。


「なぁ…やっぱりあの黒い奴らに殺されちゃったのかな…」


場の静けさが肌に沁みて、痛い。


「多分……ね。」


シュミーはフィールの両親を見捨てようとした。見捨てようが見捨てまいが、存在ごと忘れていようが、結果的には変わりはなかったかもしれない。しかし、そこに関しての罪悪感はかなり大きなものだろう。


「そりゃ、助けたかったさ…あの時は僕もおかしくなってた。普通じゃなかった。フィールの愛する人達を、守れなかった。」


「…」


やめてー!このシリアスな空気ホントやめてー!さっきのとはまた違った意味でこの空気耐えられないからやめてー!


あぁもう…ここは慰めたほうがいいのか?良いんだろうなぁ…


「そのぉ、シュミーさん?しょうがないってあんな絶望的な状況で。そ、その、俺だって多分あの場にいたらおんなじ事しちゃうと思うよ?いやぁ、も、もしかしたらそれ以上に酷いことしちゃうも、はははは…」


「だから…だから気にするなって言いたいの?」


あれ?


「だから気持ちを切り替えてポジティブに考えろとかいうのかい?」


おやおや?


「君とは違うんだよ…君がその異世界とやらでどんなところに住んでるとか、どんな立場だったとか全然知らないけど、君とは何もかも違うんだよ……なんにも分かって無いくせに無責任なことを言うな。」


シュミーは立ち上がって淡々と怒る。


しかしシュミーの目には雫が溢れ、その顔は見捨てようとしたときの顔と同じだった。


聞いてきたのはそっちじゃないか。そっちだって俺の事よくわかってないくせに。でも、


俺があの状況に放り出されたとしたらどうなっていただろうか。どう判断していただろうか。こんな目の前で人が消し飛ぶかもしれない世界とは程遠い生活を送ってきた俺が、最善を尽くせていただろうか。


多分俺はシュミーより酷いことをするだろう。しっぽを巻いて逃げるだろう。俺は自他共に認めるチキンだからな。


「相手の事が分かってないのはお互い様。けど、ごめん無責任なこと言ったよ。空気読めてなかった。」


「そりゃそうだけど…あー、もう…馬鹿なんだから空気読もうとしなくて良いんだよ。君には空気を読まず思ったことを口にして欲しい。」


「馬鹿って言うなよ、フフッ」


俺はシュミーに微笑んだ。そして、ちょっと俺らしからぬ事をしてみた。頭を撫でてみた。それはもうめいっぱい撫でた。多分同じ事を元いた世界で誰かにやったら全力で拒まれて、その上引かれていただろうなと思いながら撫でた。


でもいま俺は…一応、気持ち的には、フィールになったつもりで撫でている。自分でやってて不思議な気分になってくるけど。まぁ最初は驚いてるようだったけど、今はなぜか喜んでくれてるみたいだし、これは正解だったかな。


「大変だったな…」


「ユーキのくせに、ユーキのくせに!」


シュミーの目から涙がボロボロとこぼれ落ち、フィールの服が濡れる。そして服が濡れるたび、シュミーはフィールのことが大好きだということが伝わってくる。


「いつまで…」


「え?」


「いつまで撫でてんだよー!」


「ぐはっ!」


シュミーは頭に乗っていた右腕を払い、杖で悠来を殴る。


「お前さっきからボカスカ俺の事殴ってるけど体はフィールなんだからな!」


「わかってるよーだ。」


二人は笑った。


別に図ったわけじゃないけど空気は良くなったな。


「で?もう気になっこたとはないの?」


「いいや、まだある。あの黒い集団の手首の紋章がどうのとか言ってたじゃん?あれは何なの?」


「あ、あれが魔法科学信教だよ。アイツらは体にあぁいう感じの紋章をつけてる。」


おお、ここで出てくるのか。


「でもそんなの付けてたら自分が危ない人間だって周りにバレちゃうんじゃないか?」


「普通なら服で隠れてたりするんだけど、自分の強さに自信があったり信仰心が強かったりするほど、見えやすい所に付ける傾向があるらしい。」


「そっか…」


うーん、魔法科学信教の人間全員が見えやすい所につけていてくれればなるべく避けれたんだけどなぁ…そんなに甘くはないか。


ふっ…しかし今俺はこの世界で一番の宮廷護衛チームの、またその中の一番の人間だ!異世界ファンタジーでよくあるトーナメント形式の大会という俺tueeeがわかりやすく出来そうなイベントに参加できなかったのは残念だったが?これから先もしその魔法科学なんちゃらに出くわした時?フィールの力で?ギッタンギッタンに?してやりますとも?


「何またニヤニヤしてるの…フィールのイメージ壊れるからやめてほしいんだど。」


「おっと失礼。」


シュミーはため息をつく。


「で?まだある?」


「あぁ、あとは…そうだ!シュミーが行動不能になった時に誰かに担いでもらって、自分たちからフィールのところへ行ってあの転送装置を使えば、あんなスリリングな事にはならなかったんじゃないか?」


「は?本気でいってんの?」


またキレた。


「キレるなって…」


「キレてないし。あの状況でそんな事できないでしょ。あの屋敷内のどこに黒いのがいるかわからないんだよ?それに…フィールが戦ってるすぐ近くまで行って敵に僕の存在がバレたら、どうなると思う?」


「あ…弱ってるシュミーが狙われる?」


「その通り、足手まといになるだけなんだよ。こんな事もわからないなんて本当に馬鹿だなぁ。」


「いやこればっかりはしょうがないよ…世界が違いすぎる。」


悠来はシュミーに聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で呟いた。いやボヤいた。


この世界の常識が分からない。この先何聞いても自分の思ったことと違う答えが帰ってきて『バカなの?』と罵られるのだろう。


そう思うと聞く気が失せてくるな。


悠来はシュミーを見てみる。するとなぜか目が合う。


「あ……」


「君が居た世界とやらは、争いが無かったのかい?」


「え…?」


シュミーは目の奥に悲しみを浮かべている。


「あっ、いや特に俺の周りでは……無いかな?うん。」


「…………いいね。平和で。」


「うぅ…」


全く二人きりだというのにこの子は何回このイヤーな空気にすれば気が済むんだ!毎回毎回空気を良くしてるこっちの身にもなれってんだ!


「…」


「…」


あぁもう…わかったよ。俺がどうにかするんだろ?すればいいんだろ?


「あ、あのぅ…そうだ!あの転送装置にはめてた石は何なんだ?」


「ん、あぁあれか。現石げんせきって言って、転送したい場所で取れた現石をオーガポーター用に加工したものだよ。」


「へぇ。へぇ…へぇ?」


「え、今ので理解できなかったの?はぁ…だから、あの時は宮廷護衛騎士本部に向かおうとしてたの。本部があるのはセンターバールって所で、そのセンターバールで取れた現石をオーガポーターにはめて発動するとセンターバールのポータルにテレポーテーションできるってわけ。意味わかる?」


シュミーは早口でやる気無さそうに説明した。


「あぁ、知らん単語がいきなり出て来て頭パンクしそうだけどなんとなくわかったよ…」


俺はわかっている。また少し空気が良くなった、しかしそれと代償にまたあの言葉が飛んでくるのだろう。


「馬鹿というか…無知?ん?無知ってつまり馬鹿?」


ほら言った、また馬鹿って言った。君たちにはわからないだろうね。俺だって普通に馬鹿って言われたら傷つく。でもね?普通に言われるだけなら、何度も何度も言われてるうち次第になんとも思わなくなってくるんだよ。それに、その程度の悪口で腹が立つってどんだけガキなんだよとか思うかも知れない。でも、何が腹立つって、顔が本当に腹立つ。

こいつ顔はかなり可愛いと思う。さっき待ち受けにしたいとか言ったけど、男が10人いたら1人か2人何かに目覚めてしまうかもしれないくらい可愛らしい顔をしている。それなのに。人を下に見るっていうか、見下し方がえげつないというか、その可愛さが一瞬で雲に隠れる。それはもう本当に腹が立つ表情なのだ。これはもしや精神操作的な魔法?もし魔法じゃないとしたらこいつ人を苛つかせるスペシャリストだよ。まぁ、その…なんだ…


馬鹿なのは否定はしないけどね!(できない)


それにしても…本当にこれは夢じゃないのか?最初は異世界だと思って興奮してたけど、こいつと過ごしていくうちに『オモッテタノトチガウ』と感じ始めている。せめてこれが入れ替わりでなく、転移とか転生だったらもっといろいろ違ったのかもなぁ…そこの所はどうなるかわからないけど、


はっきり言って、もう帰りたい。そのオーガポーターとやらで帰りたい。現石ってのが家の庭の石で良ければなぁ。あ、今持ってないからだめか…


ん?持っていない?


「シュミー、2回目オーガポーターを使おうとした時その現石ってやつ入れてたっけ?」


「いや、入れてないよ。」


「入れなくても使えるものなの?」


はい、出ましたこの顔。


よし、決めた。この馬鹿にするような表情のときはなるべく顔を見ないようにしよう。


「使えることには使えるけど。どこに飛んでくかわからないんだよ。ポーターが無いところでも平気で飛んでっちゃうことあるからさ。最悪の場合活火山の噴火口内とかに落ちることも…あったりなかったり…」


「マジかよ…うぉっ。」


顔を見るのを避けてることに気付いたのだろうか。


近い。顔が。


「あぁもう鬱陶しい!近いよ!」


「フィー…ユーキひどいー。僕を邪険にするぅ。ユーキのこと嫌いになっちゃうー。」


もともと好いてもいないくせに。棒読みだし。ってか今名前言い間違えたな?


「ん…?なぁ、なんでスピカはもう一つのオーガポーターを持ってたんだ?」


「その事なんだけどさ、僕たちもまだよくわかってないんだよ。スピカは僕が言った通り部屋までオーガポーターを取りに行った。けどもうリアスが取ってきたあとだったんだよ。だから仕方なくフィールの助太刀をしようとしたらしいんだけど、」


「ほう。」


「フィール、もう戦い終わってたんだって。」


「は?」


まて、どういう事だ?あんな緊急事態に…


「フィールは何をしてたの?」


「それが…」


なんだよ、溜めるなよ。


「ただポーターを持って突っ立ってた…らしい…」


「な、なんじゃそりゃ」


おいフィール!何突っ立ってんだよ!お前がそこでちゃんとしてたらもっとなんとかなって…って、結果は同じか。


「じゃあなんでフィールはポーターを持ってたんだ?」


「なんで持ってたとかなんで突っ立ってたとか、その辺りは本人に聞かないとわからないんだよ…」


「えぇ…」


シュミーの口から、なんで入れ替わっちゃうかなーって言う声が聞こえてくる気がする。


もうやめて!そんな目で見るのやめて!俺だって不本意中の不本意なんだから!


「なんか腑に落ちない…」


悠来が喋りかけたそんなとき、扉がガチャりと空いた。扉の向こうから現れたのはリアスだった。


「あ!帰ってきたんだね!…っあれ?スピカは?」


「そ、その…お恥ずかしいことに…」


「見つからないの?」






リアスは頬を赤らめて言う。


「路地で迷子になってしまいまして…」





はい?






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