第6話 馴れ合い
俺は今あまりにも疲れ果ててしまって机に突っ伏している。もちろん水晶の色はほんのり青い。
「おいシュミー…まだ何か聞きたいことあんのか?」
「まぁまぁ!それはとりあえずおいといてさー、君みたいな面白いこと言う人は久しぶりに見たよー!もしかして芸人さん?」
「なわけ無いだろ…」
シュミーはジロジロ水晶を見つめる。そして嘘じゃないとわかった瞬間ニンマリと笑顔を浮かべ、
「じゃあ、やっぱり馬鹿なんだ!」
などと言うもんだから腹が立ってしょうがない。そして否定もできないので切ない。
「まじでヘコむからそういう質問はやめてもらえないか…?」
「否定できないんだ。」
「うぐっ…」
こいつうぜー。超うぜー。なんか動けるようになってるし、めちゃくちゃぶん殴りたい。けどまた力がコントロールできずに頭でもふっ飛ばしてしまいそうだから迂闊に手が出せない。
「お前なぁ…いくら外見がフィールだからって中身はほぼ初対面の別人なんだぞ…もうちょっと気を使えよ。」
「お断りだね!」
そう言ってシュミーは膝の上に飛び乗ってくる。顔が近い。
「うわっ!ちょっと…やっ、やめって、くだ…さい…」
「えー!なにー?照れてるのー?困っちゃうなー。」
当たり前だ。照れるに決まってるだろ。相手がいくらちょいロリだからって一応女の子だ。俺にはそんな耐性ついていない。
いや?別に?俺がロリコンだから照れてるわけじゃないよ?ホントだよ?うん。
「ちょっと…お婆さん、お願いします、この子どうにかしてください…」
「わしゃ知らん、ちょっと二階におるでな、あとは二人で仲良く楽しんでおくれな。」
「え?なにを楽しむの?ねぇ、何を?」
お婆さんは悠来を見捨てて、階段をギシギシ言わせて二階に行ってしまった。
シュミーはかなりニヤニヤしているが…どうしよう。
「嘘でしょ…」
「二人きりだね!」
「いや!まだバルバスがいる…っていない!?」
「リアスと一緒に出てったじゃないか。」
なんということだ。あいつ、図体でかいくせに影うすすぎるだろ。ってかそれより。
「あのー…すいません、顔近いよ?」
「知ってる!」
「あのなぁ……スピカもそうなんだけど君たちボディータッチ激しすぎない?」
早くリアス達に戻って来てほしいところだけど、このままじゃ俺の精神が持たなくなる(いやらしい意味ではなく)。自分でなんとかしてみよう。むりやり押しのけてもいいんだけど一応…女の子だし。
ちょっとこの手を使うのは抵抗があるが、仕方ない。
「おいシュミー。」
「なになに?!」
「ふっふっふ…あのなぁ、俺も男なんだよ、わかるだろ?」
「そうだね!」
「忘れてるかもしれないから教えてあげるけど…俺もう縛り付けられてないんだよ。」
「ほうほう。」
「そして今君は一応、一応男である俺にこんなにも密着している。俺も男だからさ、欲望の赴くままに行動してしまうことだってあるかもしれない。この状況…どうなるかわかるかな?」
「もしかして、襲われる?」
よしよし、これでちょっとぐらい警戒してくれるだろう。
「物分りがよろしいようで結構。だから早くそこをどいてくれるか?」
よし、警戒して…
「は?」
「へ?」
「なんで?」
「何が?」
「僕のことを襲うんじゃないの?」
何だこいつ。襲ってほしいのか?いやいやいかん!何を考えたいるんだ俺は!ちょっと叱ってやらないとこの子の将来が危ないことになりそうだな。
「あのなぁ、お前も女の子なんだからもう少し警戒したらどうなんだ?」
「そうだねぇ。」
シュミーはニコニコしている。
「なんだ?」
「そうだね。確かに警戒したほうがいいかもしれないね。」
「だから早くどいてくださいよ。」
「ふふふっ、確かに警戒したほうがいいかもだけど…本当に僕が“女の子”ならの話だよね。」
部屋に静寂が走る。そして悠来の思考回路は一時停止して魂が抜けたような顔をする。
悠来の思考回路はようやく動き始め一瞬で物事の処理を始める。
「だぁー!降りろこら!」
悠来はシュミーを押しのける。
「うわぁ!」
「おめぇ!おめ男かよ!」
「その通り!」
「くそー!ったく…ちょっとドキドキしちまったじゃないか!」
「ごめんねユーキ…僕…そういう趣味ないんだ…」
「こいつ…」
こいつが自分の事を『僕』って言っていたのは、てっきり時々いるそういう系の女キャラ、つまり『僕っ娘属性』かと思っていたが、普通に男の子だったとは。あまりにも女の子みたいだったから…
「シュミー、じゃあお前なんでそんな格好してんだ?スカートみたいな…女の子っぽいぞ?」
「これのどこがスカートに見えんのさ…これは教会の制服だよ。」
「教会?ってあのお祈りとかする教会か?」
「まぁ、おもにお祈りと、勉強をするところなんだ。」
「ってことは俺の世界で言う学校みたいなものってことか?」
「いや、学校とはまた別。学校は、『もう本当に勉強がもっとしたい!もっと学びたい!勉強しないと死ぬぅ!うぁーーー!』って人が行くところ。」
シュミーは全力でその勉強厨の真似をした。その真似を見る限り、だいぶクレイジーだ。けどこれは…
「おいシュミー、ちょっと、いや、かなり盛ってるだろ。」
「いや、それがねー。冗談を抜いてこういう変人の巣窟なんだよねー。あまり関わらないほうがいいよー。学校に行ってるやつ皆がそうというわけではないけど。」
話を聞くと、そもそもこの世界ではあまり学校に勉強をしに行ってまで頭を良くする必要がないんだそうで、平民なんかは子供の頃から教会に通って言葉とか常識とか生活していく上で必要な知識とか、一般教養的なことは自然に覚えてしまうらしい。それに貴族とかも専属の家庭教師的なのが常に居るらしく知識には困らないし、貴族特有の仕事なんかも、親や兄弟なんかがやってるところを見れば自然に覚えるらしい。
それより、やっぱり貴族と平民別れてるんだ。流石異世界。
「ところで学校に行って何勉強するんだ?」
「いろんな学校と科があるんだけど…人気なのはペリパトロイス学院の植物学科とか、あとコンワルジーロ学院の建築科とか生活魔法科とかかな。」
「へぇ…生活魔法か…」
「人気なところはあまり危ないのはいないんだよねー。特に危ないのがいっぱい集まるのは魔法科学学科があるところだねー。」
「へぇ…魔法科学って何やるんだ?」
「僕も詳しくは知らないけど…魔法科学学科があるところはだいたい科学信教っていう宗教と関わってるっていう噂があってね。何が目的か知らないけど、過激な思想とかを叩き込んじゃってるーみたいな…まぁここのつながりは“最近まで”都市伝説みたいなものでしかなかったんだけどねー。」
「“最近まで”?ってまさか。」
「あ、察した?そうなんだよ、その噂も最近確実なものになり始めてる。実際、最近良からぬことを吹き込まれた学生さんが過激な思想を持って事件を起こすーなんてことが増えてきていてね…何をする気だろうな〜科学信教……」
まぁ、そうだよな…どこの世界でも思想のぶつかり合いなんかはあるんだ。宗教問題か…いろんな人間がいるからな。
「まさかテロとかやんないよね?」
シュミーは一度ため息をつく。
「残念ながら、たまにある」
「そうは言っても…別に人殺したりすることはないんだろ?」
「…」
「おいシュミー?今とんでもなくアホみたいな顔してるけど大丈夫か?」
「ユーキにアホなんて言われたくないよ!」
「あぁん?っていうか…人殺しあるの…?今の顔は何なの?」
「あるね。たくさん。つい一昨日もあった。」
シュミーはうつむいて話す。
「ほえー、怖いな。」
悠来は他人事のように愛想なく返す。
「誰が殺されたと思う?」
「知らないよ…偉い人?すごい人?」
シュミーの目はじっくりとこちらを向いている。
「誰…?」
「フィールの両親だよ。」
「へぇ…って、えぇ!?」
悠来はどう反応したらいいのか戸惑っていた。誰に、何を言うべきなのか。そしてしばらく考え、
「可哀想に…」
と言った。しかしその言葉には全く感情が入っていなかったらしい。
「思って、ないでしょ。」
「思ってるよ…。あっ…」
悠来は玉を見る。玉はキレイに透き通っていた。
「嘘は……つかないでよ。」
少しくらいは心から同情できていると思っていたが…いきなり知ない人間と入れ替わって、その人の親が殺されたなんて言われても、そんなの普通の世界ならまだしも、異世界という夢の中のような状況下ではできなかったようだ。
「…」
悠来は目線を落として黙っている。
「ねぇ…君、自分の両親の事どう思ってる?」
「…」
「大好き?嫌い?面倒くさい?」
「…」
何も喋らない悠来を見てシュミーはため息をつく。
「…この質問はやめとくよ。」
「どうも。」
二人の間に気まずい空気が流れる。それでもシュミーは静かに話し始める。
「あのね…僕達、王宮護衛隊の神風の盾って言うチームをやってるんだ。王宮護衛隊って今は数百チームに別れてるんだけど、うちのチームはその中で一番少人数でしかもランクはいつも一位ってかなり優秀でさ。」
「少人数なのに最強?!」
「そう…でその最強チームを立ち上げたリーダーがフィールなんだよ。」
「リーダーってことはやっぱり一番強いのか?」
「当たり前じゃん!本当にかっこいいんだよ…チームの誇りだね!」
シュミーは胸をポンと叩く。
待てよ?俺はそんな最強人間と入れ替わったのか?
「王宮護衛隊って何するんだ?」
「はぁ?そんなことも知らないの?って…やっぱり君バカって言うより記憶、いやもっと何か厄介な呪いとかにかかったりしてるのか?」
「それだったらあの婆さんかリアスが気づくんじゃないか?ってもうその話はいいよ…で、王宮護衛隊って何するんだ?」
シュミーは面倒臭そうな顔をしている。
「はぁ…王宮護衛隊って言うのは、その名の通り王宮の人達を守ったりその他諸々細かい仕事手伝ったりと面倒くさいことを沢山やるんだよ。この間なんて第三王宮長と第二王宮長のお食事会の経費やらなんやらを計算させられた挙句、旅行の計画までやらされて…あー面倒くさかった!」
「おいおい、それ護衛隊の仕事かよ。」
「そう思うだろ!でもまぁしょうがないんだけどね。最近は護衛隊の質がかなり高くてさ、王宮の人を狙おうなんて人は何年もいなくってさ…ほんと…つまらな…」
え、つまらない?
「違う違う!あはは!もちろんいないほうがいいんだよ!?うん!」
シュミーは慌てて補足する。その慌てぶりをみた悠来はやっぱりこいつ性格悪いと確信する。
「ははは…。最近はものすごく平和でさ、戦争とか争い事もないじゃんか?」
「知らないよ。」
「うぐっ…でも、そういうのが無くて暴れ足りない人のためにあるのが、あの有名な『栄都平和祭』だよね!」
「知らないけどね?」
シュミーは水晶をまじまじと見る。
「やっぱりおかしい…この世界にあの祭りのことを知らない人間なんていないはず…」
「いやいや、知らない人ぐらいいるでしょ。で、君は暴れ足りないから楽しみにしてるの?」
「もち…え、いや別に暴れ足りないなんてことはないよ!」
「目がそう言ってるけど。」
「僕の話はいいよ!」
シュミーは強引に話を元に戻す。
「っていうか祭りで暴れるって、その祭りって何やるんだ?」
「ああ、つまらねぇ余興とか、つまらねぇ踊りとか…やっぱり一番面白いのは自分の実力が試される『バトルトーナメント』だよ!」
おぉ…漫画やアニメにありそうな展開かな!?入れ替わった状態で戦ってどうのとか。これは楽しみだ。
「他の企画を掃き溜めに捨てるような言い方するなよ。今の言葉の、『ああ』の所から『踊りとか』までの顔がまるで死体でも眺めるかのような顔だったぞ。委員会的な人たちだって頑張ってるんだろ?」
悠来はニヤケが止まらない。少し力を入れただけであれだけ吹っ飛ぶフィールの体でどれだけ暴れることができるのか、この最強人間の体でどれだけ俺tueeeができるのか、気になったのである。
「いや、実際他企画はゴミだね、うん、ゴミ!」
シュミーは勢い良くつばを吐く。
「お、おう…」
「…」
「…」
「…」
「…?」
「どうしてこんなに話がそれるのさ!ちょっと黙って聞いててよ!」
「うわぁ!わかったわかった!」
今の間は何だったんだよ、と思いつつ悠来は聞く姿勢をとる。
「その祭りは五年に一度、二周期行われる。」
なるほど、ホントはフィールが出場する予定だったのに、俺が出場することになり『やばい!』と言うことか……
悠来は任せろと胸を叩く。
「安心したまえシュミー殿、私にはフィールの力が有り余っている。ふふふ…ついに、本格的に私の出番が来たというわけだね?」
「栄都平和祭は四日前に終わったんだけど…」
「うん……え?」
「フィールはその大会で今回初めて優勝したんだ。」
終わったの?俺…どんだけやることないんだ?俺はなんの為に入れ替えられたんだ?
「終わったのかよ……」
「もし今ユーキが言ってた様に入れ替わった状態で大会に出るなんてことが起こったら直ちに棄権させるから安心してよ。それはいいとして…」
「よ、良くないよ…俺は何のためにこの世界に連れてこられたんだ?」
「どうでもいいよ。とりあえず大人しくするためだよ。っていうか、大会で優勝って本当に凄いことなんだよ?」
「俺にとってはそっちの方がどうでもいいんだけど…」
「どれだけすごい事かって、この世界の長が直々に表彰してくれるんだよ?」
「だからなんだよー!」
悠来は机に上半身を打ち付けてべチンと音を立てる。
「いやいや、すごいことでしょう!今君の胸についてるバッチは優勝した時、長につけてもらったんだよ?」
「俺にゃーわからん!」
悠来はかなり脱力している。
でも世界の長か…どんな人なのか気にならないこともないけど…
「うーん…本当にこの世界の人じゃないのかなぁ…」
「お?ついに信じてくれるのか?!」
悠来はバサッと起き上がる。
「信じてない!それで!優勝祝いに第五王宮長であるフィールの父さんとその補佐をしていたフィールのお母さんと一緒にヴェルディアまで観光をしに行ったんだよ。」
ヴェルディアってどこだし。って…それより今、また俺の話流したよな。
「街を周ったり、ピクニックをしたり…本当に楽しかった。でも、旅行二日目の夜にあの事件が起こったんだ。事件の時の映像を撮ってあるんだけどさ…その…ちょっとだけグロテスクな絵があるけど…見る?」
「え、撮影?ビデオカメラとかあるの?」
み、見る?グロテスク?なんかよくわからないけど…見るべきなのだろうか。グロい映像なんて、ホラゲーで飽きるほど見てきている。でも、今はリアルな映像なんだよな…でもその事件と、俺がフィールと入れ替わってしまったことに関係が無いとも限らない…しかし、見たところでどうするつもりだ?俺に何ができるわけでもないだろう。
いや、どうするとかそういう話ではないのだろう。もしかしたら…俺がこの世界につれてこられたことに関係があるかもしれないし、見るべきなんだ。これは多分俺に課せられた一種の使命みたいなものなのだろう。これがもしかしたらフラグみたいなものなのかもしれないし!何もせず、何もわからず終わるのなんて嫌だしな。
「決めた。見るよ。」
「そっか。まぁ、見たくないって言っても見せるつもりだったけどね?」
「おう!……おう?」
そう言うとシュミーは間髪入れずに悠来の額に杖を当てる。するとたちまち二人は緑色の閃光に包まれる。
「綺麗な光だ…」
「あ、この光直接見たら次の日の朝目が開かなくなるから気をつけて。」
「おい!それ先に言えよ!」
悠来はぎゅっと目をつぶると浮遊感を感じ始める。
「うわぁぁぁぁぁあ!」
…………………………………………………………
「もう目を開けて大丈夫だよ?」
「お、おう…」
悠来はそっと目を開く。
するとそこには赤く染まった空と、一面緑色の草原が広がっていた。




