第2話 スキンシップ
呪いって…なんのことだろうか。
「の、呪い???」
「ええ、呪いです。それも、私が見たこともないもなのですから…少し不安です。」
何を言っているんだろう…そもそもこの人“達”は、一体俺のなんだと言うんだ?
悠来はキョトンとする。
しかし、悠来は今の『呪い』という言葉で、辻褄のあった答えにたどり着く。
なるほど…さっきから、見たことのない鳥だの、呪いだの、それに太陽が3つもあるなんて、俺がどんなに馬鹿だとしてもこれが普通の世界でないことはわかる。
「これは、夢だな。」
全く、気づくのが遅すぎるぞ、松尾悠来。時々あるじゃないか。これは夢だなーってわかる夢が。そう、さっきからこの体は熱を感じない。ほっぺたをつねろうが、勢いよく岩に衝突しようが痛みを感じなかった。これが夢でなくて、なんだというのか。
「それも異世界の夢だ。」
そうだ、それしかない。それにしても夢にまで異世界が出てくるとは。まぁ、最近異世界物のラノベしか読んでいなかったし。無理もないさ。
「さっきから何をブツブツ言ってるのですか…?」
「いや、気にしなくていいよ!」
そうだよ!憧れの異世界だし、これは夢だ!コミュ障なんて発動させるな!
そう思って、俺はミステリアスガールと強引に肩を組んでみた。
「なっ!何をするんですか!やめてください!」
「いいじゃないか!堅いこと言うなって〜!」
「ちょっと、どうしたんですか!頭おかしくなったんですか!それにこんなところスピカに見られでもしたら…はっ!」
「え?スピカ?なんでスピカが出てくるんだ???」
「とぼけないでくださいよ!見られてます!」
「へ?」
そう言われて、俺はミステリアスガールが向いている方向を見てみた。言っていたとおりこっちを見ている。しかも、泣いてる。
「え…なんで泣いてるんだ?」
「なにを、今更!」
ミステリアスガールは俺を突き飛ばして距離を取った。
「もうそろそろ出発しましょう…とりあえず一番近い、この丘をすぐ下ったところにある町に行くのが良いかと思います。こんなことしてないで早く出発しないと、どうなるかわかるでしょう?水を汲むならさっさと汲んでください。」
ミステリアスガールはそそくさとシュミーのところへ向かっていく。かと思うと、歩みを止めて振り返り面倒臭そうに
「それと、スピカの事、出発までに戻してくださいね…」
「へ…?」
そう言ってみんなのところに戻っていった。
「はぁ……どうなるかわかるでしょうって、わかるわけ無いだろ。」
それより、あのミステリアスガールは照れていたのか?顔が真っ赤になっていたような…まさかの脈アリ???まぁ、そんな訳無いか…
ってか、スピカを元に戻すってどうやってだよ…泣いてる原因もわからないのに。
悠来は、こっちを睨んでいるスピカと目を合わせてみた。すると、スピカは全力疾走でこっちに向かってきた。
「うわぁ!」
「ちょっと、フィール!!どういうつもりなの!?リアスと何を話していたの!?あんなにイチャイチャくっついて仲良くお話してるところなんて、あたし初めて見たよ!?……は!?濡れてる!!うわぁーん!なんでこんなにビチャビチャなのぉ!?二人で何してたのぉ!?」
もう…大号泣。こいつは確かに面倒くさいことになったな。どうしたものか。
「ねぇ!なんで何も言わないの!?何かやましいことでもあるの!?それともしたの!?」
質問攻めだな……とりあえず誤魔化そう。
「待ってくれ、スピカ!勘違いだよ!えっと…」
と、悠来が言った瞬間スピカはピタッと止まって驚いた表情を見せた。
俺、なんか変なこと言った???
「今、私の事スピカって言ったの?」
何だ何だ…嘘だろ、まさか名前違うの???
「違ったっけ?」
「いや、別に…違わないよ……けど、その……」
え、なんで大人しくなっちゃったの?大いに構わないのだけれど…
「何か俺おかしい事言いました?」
スピカはまた驚いた顔をしてこちらを見つた。
なに、怖いんだけど…
「いやっ!なんでもない!先行ってるね!」
「は、はぁ…」
何だったんだろう、なんかよくわからないけど丸く収まっちゃった…勘違いだって言ったら、割りと素直に信じてくれたとか?そういう雰囲気ではなかったけど。
よくわからないのはそこだけじゃないんだよな。この世界のこともう少し深く掘り下げてみなくては。この世界の俺の特殊な能力とかあるのかな?俺の夢の中でどれだけ細かく設定付けがされているか、矛盾しているところはないか。これは俺自身の想像力が試されるなぁ!
悠来は水を汲みながらまた妄想を膨らませる。
…あっ!
「今スピカが、あのミステリアスガールの名前を言っていた……なんだっけ……あ、そうだ!リアス!思い出した!リアスだ!」
スッキリした!いつもならこういう事があった時は大体思い出せなくてイライラして終わるんだけど。久々にスッキリだ!
よーし。これでとりあえずここにいるキャラの名前は分かった。
ミステリアスガールの名前はリアス!
町へ出発とも言っていたな…まさかの冒険物?!流石にそれは安直すぎるだろ。でも、嫌いじゃない!
この夢、毎日見たいな。毎日物語が進んでいって〜…みたいな!
「あー、ダメだ。妄想が止まらない。」
悠来は水汲みを終え、立ち上がる。
すると頭についていた水滴が泉に落ちて水面を揺らす。
悠来はなぜかそれに引き込まれ、凝視する。
すると、さっきまで心地よく吹いていた風が静まり、水面の揺れも収まる。
水面は鏡のようにあたりのものを反射している。
そこに映ったのは悠来の顔ではなかった。
「誰だ…このイケメンは。」