第1話 普通じゃない世界
うぅん…あれ、俺寝てたのか。
悠来はまだまぶたを閉じたままだ
あぁ、風が程よくて、太陽の光が当たって暖かく、花の香りもほのかにして、かなり心地良い。
これは2度寝のコースだな。そういえば今日からニート生活だったな。
ん?風?なんで風なんか吹いてるんだ?ここ屋外じゃないぞ。それに花の香りも?俺の部屋に花はないはず……ここどこだ?
悠来は恐る恐る目を開ける。
あーなるほどね。いつも通り太陽の光が1つ、2つ、3つあって…
「ピギャーーー」
いつも通り雀の可愛らしい鳴き声が聞こえて。
あたり一面は壮大な山々と雄大な自然と花畑。
そして、いつも通りのぷにぷにとした枕。
って、んなわけあるか。おかしいだろ、なんだピギャーーーって。
悠来が状況を整理できないでいると、
「あ!起きた!」
という可愛らしいこえが頭上で響く。上を見るとそこには女の子の顔があった。
まさか、このぷにぷにしているのはこの子の膝枕!?
「ダワー!!!」
それに気付いた瞬間、驚いて飛び起きてしまった。変な声出ちゃったよ。なにせ、女の子と話すのなんて半年ぶりぐらいだし(←話してません)、最近人と話すことなんて、親か、天部か、画面の中に限られていたし。コミュ力が下がるのなんて必然的だろ。まぁ、ただの言い訳なんだけど……
ってかコミュ力が下がるって言っても、元々コミュ力なんてもの持ってないし……それで膝枕って……
「だめだよ!いきなり立っちゃ!もうちょっと安静にして!」
その子は心配そうにこちらを見つめる。
「いや、待て待て、待って下さい、俺は大丈夫!です…はい」
ちょっと待って、ヤバイ、心臓がヤバイ…どういう状況???
「です?まぁいいや、ほんとに大丈夫なの?すごい動揺してるみたいだけど……何かほしいものはある?」
ちょっと、状況整理しないと……今俺の周りには見える限り俺を合わせて5人。
一人目は身長が2メートルは余裕で超えるぐらいの超ごっつい髯モジャおっさん、両手首に100キロは余裕でありそうな重りをつけている、いや、でかすぎだから。
二人目はそのおっさんと話している、小柄な女の子だ。服装は全身真っ青で何かの正装っぽいな。左手に杖を持ってる魔法使いか?わからん…
三人目は奥の方でこちらを見つめて…いや、睨まれてない?なんか怖い…ミステリアスな感じの人だ。なんで睨まれているのかはわからない。
四人目は、今まで俺に膝枕をしてくれていた美少女。黒髪、ロング、超タイプな感じの女の子だ…ヤバイ、よく見るとメチャクチャカワイイんだけど…頭には角が生えてて、尻尾が生えてる。角と尻尾は硬そうな甲羅に覆われていて、それらはなんとなく竜っぽい。
そして先程わけの分からない奇声を発していた謎の動物がそこら中にいて、周りには切り立った山脈。大きな森。一面の花畑…
状況なんて整理できるかよ!どこだよここ!
まぁ、とりあえず話を合わせよう。
「おーい!ねぇ!きこえてる?」
!!!
「えっ!あ、あぁ。聞こえてる」
「何も欲しいものはないの?」
彼女は覗き込んで言う。
「あっ!あぁ、じゃあ水を…」
「水ね!おーい、シュミー!まだ水残ってる〜!?」
「あー!起きたんだ〜!水ね〜!バルバスがもう全部飲んじゃった!」
大男は照れる仕草をする。
「あっちに湧き水があったから飲みに行くならついでに汲んできて〜!」
青い服の女の子は精一杯叫ぶ。
「わかった〜!」
なるほどね、あの青い服を着てるのがシュミー、でかいのがバルバス、残りの二人はなんだろう。
「私、ちょっと水汲んでくるね!」
黒髪美少女は突然顔を近づけてきた。
「うわっ!」
「フィール!?本当に大丈夫なの!?」
いきなり顔を近づけすぎだ!ホント心臓にわるいから!って言うか、フィール?俺のことか?
「だっ、大丈夫だから、ちょっと俺に行かせてくれ……ください……」
「一緒に行こうか?」
また心配そうに見つめてくる。
「大丈夫……、一人で行けるから……」
「ちゃんとキャッチしてねー。」
いきなり、シュミー(?)がそう言うと、ポーンと向こうから何かがとんできた。しかも、結構大きめのものが。
「えぇ!ちょっと俺の運動神経じゃキャッチできそうにないんだけど…」
悠来はそう呟くと、キャッチの構えになる。が、構えたポイントと、落下点がだいぶズレている。
「投げるの下手くそかよ!」
そう言って悠来は後ろにぴょんっと勢い良く跳んでポイントを合わせようと試みる。しかしどうだろう。悠来は後ろに跳んだ瞬間、勢い余ってとんでもないスピードで後ろの岩に大きな音を立ててぶつかった。
「ぐはぁ!」
「フィール!?」
なんだ…今のは…ふっとばされた?いや、自分から吹っ飛んでしまったように感じたな。
あぁ、跳びすぎてキャッチできなかったのか。ハハハ。恥ずかしい…
って、待て待て。ちょっと力入れただけなのに今軽く25メートルは跳んでたぞ。
黒髪美少女は駆けつけてくる。
「ちょっとフィール!やっぱりおかしいって!大丈夫!?」
「大丈夫だから…平気だから…」
「さっきからそれの一点張りじゃない!」
それから無言で湧き水へ向かう悠来の内心は、穴があったら入りたい。という感情で埋め尽くされていた。
そして今の音を聞いて向こうからシュミーとバルバスが駆けつけてくる。
「おーい、スピカ!今のは一体全体なんの音だい!?」
「フィールったら、ミナボトルをキャッチしようとしてジャンプしたら勢い良すぎてこの有様だよ!」
「えぇ!フィールが?!珍しいこともあるもんだね!!大丈夫なの?!」
「そうなんだよ!さっきから大丈夫の一点張り……」
くぅっ…いくら周りに奇声発するキショイ鳥しか居ないからって、あんまり大声で言ってほしくない。
でも今、いいことを聞いたな。黒髪美少女の名前はスピカ。いい名前だな。しっくりきすぎてドキドキしてきた…スピカ…ね…
そそくさとその場を去るように歩いていく悠来は、ボーッとしていたせいで目の前に湧き水の泉があることに気付かなかった。
『ツルッ!』
悠来は濡れた地面で転んでしまい、泉の中に全身漬け込んでしまった。
「冷たっ!!もう最悪だよ…」
そこで悠来は思った、もしここでまた転んでびちゃびちゃになったなんてバレたら、、、恥ずかしすぎて終わる。
誰も見てない今のうちに、何事もなかったかのように、起き上がり服についた藻を一つ一つ取り除いた。
悠来は藻を取っていると自分の服装が変わっていることに気づいた。少し硬めの生地でできたコートと、内側に白と黒を基調とした紳士的な服を着ていた。
「かっこいい服だ…なんかこの服俺が着ると痛いコスプレみたくなってしまうんじゃ……?」
まぁ、そんな素敵な衣装も藻まみれでビチャビチャな訳ですが。
それにしてもここは何なんだろう…俺はどうなっちゃったんだ?
悠来は藻を取り除いて泉から出た。その時、突然横から
「大丈夫ですか…」
という声が聞こえたので、悠来はびっくりしてまた泉に落っこちそうになった。
こちらをじっと見つめて心配をしてくれていた声の主は、さっきこっちを睨んでいたミステリアスガール。
「そんなに水が欲しかったんですか…?」
「そ、そうなんだよ、ハハハ、おかしいかな?ハハ…」
見え透いた嘘。なんとも見苦しい。
「じゃあ、別に転んだふりなんてしなくたっていいじゃないですか。」
そこから見てたのかよ…
「的確な指摘どうも…この事みんなには黙っててくれないか。」
「!!!…認めるんですか。」
なんで驚いてるんだ?まさか本当にびちゃびちゃなりたくてなったとでも思ってるのか?
「なんです…?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
すると、ミステリアスガールは少し顔色を曇らせ
「もういいです」
と、ため息混じりに言ってから
「調子が出ないんですか?」
と聞いてきた。もうなんのことだかさっぱりわからない、でもまぁ、言い訳として、調子が悪いと言う事にしておくか。
「うん…なんか調子が出ないんだ…よね…」
と答えると、ミステリアスガールはしかめっ面をしてこっちを睨む。
「本当ですか…?」
疑ってるな?まぁ、無理はないと思うけどね。嘘だし。
「はぁ…まぁいいです。ちょっと気になる事があって…落ち着いて聞いてくださいね。」
え?…なんか重要なこと話そうとしてる?
「はい…?」
「フィール、あなたから私が今まで感じたことのない呪いのオーラを感じました。調子が出ないのはそのせいかもしれません。」
………………………はい???