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異世界転移したらシミュレーションRPGだった  作者: 浅葱零
軍師、異世界に立つ
3/15

最初の命令


STAGE01


MAP:ファウスベルクの街


仲間ユニット:デニル、ラーム


敵ユニット:盗賊×8、盗賊頭領


勝利条件:全敵ユニットの撃破


敗北条件:軍師の死亡、ティアリィの死亡、聖珠を奪われる



「キャア!」


「盗賊だ! 盗賊団が攻めてきたぞ!」


 一般市民たちは悲鳴を上げながら、それぞれ建物のなかに逃げこんでいく。


 いたる建物の扉から、「ガチャ」という音がして、扉の前に『LOCK』の表示が見えた。

 わかりやすいな。


「ガハハハハ! 俺たちは、この街にある宝を頂きに来た! 大人しく聖珠を渡せば命ばかりは見逃してやる!」


 これも、わかりやすい悪いのが出てきた。

 見るからに親分とわかるガタイのいい髭面と、そのまわりにヒョロい手下感まるだしのザコたちが数名。


 一応、城壁に囲まれた、中世都市みたいなのだが、まともに入り口から侵入されてしまっている。

 門番とか、衛兵はいなかったのか。

 それとも、もうやられてしまったのか。


「盗賊ども、お前たちの好きにはさせんぞ!」


「アウセデスの聖珠は我が国の宝だ。絶対に渡さない!」


 二人の騎士はそれぞれ剣を抜いた。

 なかなかイケメンだし、様になっている。


「いまのところ、このデニルとラームの二人に命令ができますよ、軍師様。二人とも似たような装備に能力です。見えてると思いますが」


 ビーナが言うとおり、一人の人物に焦点を二秒ほど合わせると次第に色んな情報が、その人物のまわりに浮き出てくる。

 だが、攻撃力『21』がどのくらい強いのかは、今の俺にはさっぱりわからないが。

 とりあえず、ヤンチャ系で赤髪がデニル、真面目系で金髪がラームと覚えておくことにする。


「どうする?」


 デニルが聞いてきた。


 どうやら本当に指示してやらないといけないらしい。


「えっと、じゃあ、とりあえず戦って」


「わかった!」


 二人とも突撃していった。


「あー」


 ビーナが不満そうな声を出す。


「まあ、最初はそうですよねー。命令の変更は声を掛けるか、相手を見ながら心で念じるだけでもできますが、視界を離れた状態では軍師様のところに戻ってこさせる以外の選択はできませんので注意してください」


「ああ、そうなの?」


 命令したら適当に隠れていていい訳ではないらしい。


「私は、どうしたらいいの?」


 蚊帳の外に置かれてしまっていた、榎本さんがタイミングとみて聞いてきた。


 俺は、榎本さんを見て情報が浮き出てくるのを確認してみる。

 デニルとラームの二人とは、根本的に出てくる数値の種類が違う。非戦闘員ということか。

 しかし、スリーサイズとかも出ちゃうんだ。これ。

 でも体重は、濁した表現になってる。いるのか、この無駄なデリカシーみたいなの。


「あなたにできることは、死なないように気を付けることくらいですねー」


「じゃあ、私、その辺に隠れてるね」


 榎本さんは、そう言って、戦闘とは逆方向に離れていった。

 まあ、俺は戦場から離れられないということらしいから、彼女だけでも、なるべく離れていてもらったほうがいいだろう。


 デニルとラームは最初の一撃ですでに敵を一人ずつ撃破している。

 ザコ盗賊の頭上で、生命力メーターが消えていくので、倒したんだなーということがよく分かる。


「強いじゃん」


「そうですね」


 ビーナはあくまで不満そうだ。

 何かあるのか?


「あ!」


 戦闘に変化が起きた。


 盗賊のうち四人が、デニルとラームを無視して、街の中心にむけて進んだ。

 二人の騎士は別の盗賊と戦闘状態なので、それを阻むことができない。


 盗賊たちは教会に入っていく。

 そこの建物だけは鍵が掛かっていないようだった。


「見に行ったほうがいいのか?」


「どうでしょう。そうですね、どうなってしまうかは見ておいたほうがいいと思います。今後のためにも。でも、これだけは忘れないでください。軍師様が死んでしまっては一貫の終わりです。危なくなったら、すぐ逃げてくださいね」


「わかった」


 俺は教会に走った。

 すぐ横で、ビーナも飛んでついてきている。



 教会はそもそも、侵入者をゆるさないような構造になっていない。

 アーチ状の門を抜けると、外周を円柱型の柱が支える建物があり、大きな入り口が訪れる者に開かれていた。


 内部から、若い女性の悲鳴が聞こえてきた。

 誰かが襲われているのか。


 俺はそっと中を覗く。


 女性が盗賊に襲われている。

 強引に押さえつけられている彼女に、表示が浮かび上がった。


 ティアリィ、神官。

 各種の強さを表す数値の他に、赤文字で大きく「※注意※敗北条件:死亡」というのが出ている。


 これはかなりまずいのでは。


 ティアリィは盗賊に服を破り捨てられた。

 白い肌があらわになる。

 防御の数値が、『14』有ったのが『2』に下がるのも見えた。


 ゲームみたいな世界だとは思っていたが、まさか、エロゲーだったとは思ってなかった。

 安心するようなことではないが、今すぐに敗北条件になっている、ティアリィの死亡につながりそうな状況でもないみたいだ。


 奥の祭壇に、目立つように飾ってある丸い手乗りサイズくらいの水晶球みたいな物体が、何故か、俺の目を引いた。際立った存在感がある。

 『宝珠』という表示が現れる。

 盗賊の連中はこっちが目当てだった気がしたが。

 ご丁寧に、『KEY ITEM』という緑文字まで浮かんでいる。


 しかし、盗賊たちの関心は今、ティアリィだけに一極集中してしまっている。

 これがゲームで、俺が主人公なんだとしたら、彼女のことを助けないといけない場面なんだろうと、俺のなかの常識人の人が言っている。なんとか、助けられないんだろうか、とは思うが、何の方法も思い付かない。

 それとは別に、俺のなかの健康かつ、欲望に正直な男子の人格が、このまま先の展開を見たがっているのを認めなくもない。

 いや、やっぱり、助けたほうがいいよな。


「どうすればいいんだ?」


 ビーナに小声で聞いてみた。

 こういうときに、こいつがいる意味があるはず。


「たぶん、もう無理ですね」


「なんだよそれ、冷たいな」


「事実ですからね。軍師様は武器を持ってないですし、そもそも、戦闘力がほぼ皆無ですから、彼女を助けるには、デニルとラームを呼び戻すしかないのですが」


 そう言っている間にも、室内では事が進行してしまっている。


「もう間に合ってないですもの」


 確かにそうなのだが、ここでただ見ていることしかできないのか。


「誰だ、そこにいるのは!」


 見つかってるし。


 たぶんビーナの声が敵に聞かれたんだと思う。

 俺は、思わず後退りした。

 盗賊の手には、湾曲した短剣が握られていて、薄暗い室内でも外光を反射し鋭く光っている。

 それに比べて、こっちはビーナが言っていたとおり丸腰だ。


「おっ、なんだ女か。お楽しみの仲間に入りたいならいいぜ、相手をしてやる」


 盗賊の一人が近付いてくる。

 こんなところでも、その間違いか。


「逃げてください、軍師様!」


 ビーナが叫ぶ。

 情けないが、それしか道はない。


 俺は逃げた。

 自分の無能さを呪う。


 さっきからずっと、デニルとラームを念じて呼んでいるのだが、視界に半透明の文字で『デニルは戦闘中のため召還できません』と『ラームは戦闘中のため召還できません』ばかり出てくる。


『デニルは戦闘中のため召還できません』

『ラームは戦闘中のため召還できません』

『デニルは戦闘中のため召還できません』

『ラームは戦闘中のため召還できません』

 ‥


 俺は逃げた。

 それしか出来なかった。



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