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聖騎士



「あなたが、ビーナが選んだという軍師様ですね?」


 自らを王女と名乗る少女は、上目遣いに俺を見る。

 俺は言葉が見つからず、ただ頷いた。


「確かに思ったより若いのですね」


 それはお互い様だ。

 まさか王女様が子供だとは俺のほうでも思っていなかった。


 確かに美しい少女だ。

 せめて五年か、たぶん十年もすれば、大した美人に成長するだろうということは想像に難くない。


 しかし、こうも年下過ぎると、例えこれが恋愛シミュレーションで、この子が攻略可能なキャラだったとしても、俺個人としては攻略対象外だ。

 でも、まあ好きな人、多いよね。とは思う。


「今のやり取りは、テントの中にまでよく聞こえておりましたから、一部始終を拝聴させていただきました。デニル、ラームはご苦労様です。よく務めを果たしてくれました。アウセデスの宝珠が無事でなによりでしたね」


「はっ」


 二人の騎士は片膝を落とす。

 その体勢でやっと、王女と騎士らの頭の高さが均等になる。


「姫様、あまり軽はずみにテントを出られては困ります」


 王女を咎める声。

 その声の主が、テント内から、王女に続いて現れた。


 白い鎧に身を包んだ騎士。

 思わず息を飲む。


 出たよ典型的な美形キャラが。


 流れるように白いマントにまで伸びた長髪は、金髪なのだが、黄金というより白金と表現したほうが正確な色合いだろう。艶やかで痛みのない髪は、なんとかサスーンとかのTVのCMを思い出させる。

 たぶんグルグルに巻いても、キュルンて戻るようなやつだ。形状記憶タイプの頭髪なのだ。キュルンて。


 端正すぎる顔は、もはや出来が良すぎてCGのほうが現実味があるのではないかと思えた。

 特に、あのアゴの形は書店で少女向けコミックの表紙を飾る謎の美化され過ぎイケメンキャラを見るたびに、弱冠、馬鹿にしてた人物のアゴそのものだ。こんなアゴの男がいるわけなかろうと、今の今までは、嘲り全否定してきたというのに。

 いたよ。ここに。


 現在形で少女マンガの世界が進行中なら、王女の登場あたりからずっと、背景にお花畑が展開されていたはずだ。


 王女と騎士。

 なかなか、よくできた絵になってる。


 聖騎士(パラディン)。男。人間。


 騎士の基本情報が、空間に表示された。


 騎士は騎士でも、聖騎士様だ。デニルたち騎士の上級職ではないだろうか。いずれは、レベルが一定に達した暁にはクラスチェンジが可能なのかもしれない。


「あら、アルセウス。大丈夫よ、我々に害意をもった者が来たなら、カイザが黙ってはいないわ。ねえ、カイザ?」


 王女は、俺たちが立つあたりを通り越したむこうに声をかけた。


「その通りだ」


 聞き覚えのない、渋いトーンの男性の声がして、俺たちは振り向く。


 いつの間に、そこに立っていたのか。

 気配を感じさせず、カイザと呼ばれた、彼が背後に存在していたことに、まずは驚かされる。


 そして更には、彼の人ならざる者の姿にも驚かされた。


 2メートルはあるのではないかという長身の最上部にある頭部は、爬虫類のそれだ。首は長く、筋肉質な胴体から伸びだしている。四肢のバランスは、両手足は普通の人間よりは長いものの、人の姿に近いものがある。

 だが、だらりと体の後ろに伸びた太い尾が、爬虫類かあるいは、特撮映画の怪獣を思わせる。


 皮の鎧を身に付けているが、上半身は心臓を守る胸当て部分の他は半裸に近く、筋肉質に発達した肉体を露出させている。

 手には、槍と斧を掛け合わせた武器、ハルバートを硬く握りしめている。


 二つの目は爬虫類のものではあるが、不思議とそこに知性が宿っていることを感じさせる。


 戦士。男。リザードマン。


 それらの表示が、俺に彼の種族を知らせてくれた。 


「怖がらないであげてくださいね。彼は私の大事な友達なのです」


 屈託なく、ソフィレシアはそう説明した。

 王女様は交遊範囲が、随分と広いらしい。


「彼は悪意のある者が接近すれば、それを感知することができるのです。彼がいなければ、私は今頃こうして無事でいることはなかったでしょう」


「フン」


 リザードマンは、気に入らない様子で鼻を鳴らすと踵を返す。


「見回りを続ける。このあたりには獣も多い」


 そう言い残して、茂みの向こう、木々の影に姿を消した。


「彼、シャイなの。気にしないでくださいね」


 シャイ?

 そういう問題には見えなかったが。


 敵意とまではいかないが、結構な勢いで俺たちを睨んでいた。

 あれと仲良くなるというのは、なかなかどうして至難の技なのではないかと思わせてくれる。


「デニル、ラーム。追っ手の情報、ファウスベルクではどうだった?」


 アルセウスと呼ばれた騎士が言った。


 当然のように、この手の事はラームが答える。


「やはり、姫様が脱出したことについては、敵はまだ確信を持っていないようです。街で聞いた噂どおりであれば、帝国の連中はこちらの狙い通り、城の地下墓地から連なる無限迷宮を捜索の中心に据えているようです」


「入り口を魔法で爆破して見せてやったのは正解でしたな。無限迷宮はモンスターの宝庫。少なからず敵を減らす手間が省けてなによりじゃ」


 ムートが口を挟む。

 無限迷宮? 俺のゲーマーの血が騒ぐではないか。ダンジョンものか。無限てことは、入る度に内部の構造が変わっちゃう系なのだろうか。

 やり込み要素ウェルカムなプレーヤーには、たまらない設定ではあるが、俺がそれを好きかというと、そこまででもない。嫌いなわけではないが。

 度が過ぎると、悟りの境地に達するからな。途中までは楽しいんだが、あれ、俺ほんとに楽しんでる?とか、自問自答しはじめたら危険だ。辞め時もよくわからなくなってくるし。

 どちらにしても、今すぐ潜ることはなさそうだ。


 ラームが話を続ける。


「ですが、ソフィレシア様以外にも行方不明になっている貴族たち、豪商などは捜索対象とされ、方々に帝国兵が派遣されているようです。ファウスベルクでは、間一髪のところでした」


「フム、すでにファウスベルクまで手が及んでいるとなると、ここも安全とは言えないな」


 アルセウスは形のいい顎に手を当てながら思案顔をつくる。

 その様子は、名探偵ナントカみたいでなかなか様になっている。連ドラでやったら主演俳優の魅力オンリーでも人気が出そうだ。


「聖剣捜索のほうはまだ戻らんのかのう? もう、ここを離れたほうがよくはないかの」


「明日の正午までが期限だとは、あの娘たちも心得ているのですから、それまでは待ちましょう」


 ぼやく老人を、幼い王女がたしなめた。


「聖剣?」


 俺は、ビーナに小声で質問した。


「わたくしたち宝珠回収班とは別に、王国に伝わる名刀、ファルクラーレンの聖剣を回収に行った班がいるんですよ」


 どうやら、そっちが戻らないということらしい。

 それが戻れば、仲間は全員ということだろうか。


「もう、じきに陽も沈みます。今夜のうちは大丈夫でしょう」


 アルセウスはそう言って空を仰ぐ。

 周囲は山中であることを差し引いても、薄暗くなり始めている。


「そうだといいがのう」


 ソフィレシアが、俺の前に近づいた。


「軍師ユーキ」


「はい」


「よくぞ、遠い世界からいらっしゃいました。ですが、今、私たちは逃亡中の身。本来なら国を挙げて歓迎をさせていただくべきところなのですが」


 子供だとは到底思えない気遣いに、俺はなんだか恐縮してしまうばかりだ。


「大丈夫です。そこは、お気遣いなくでお願いします」


 俺のほうときたら、なんだか返答も怪しい。

 少なくとも、俺が王女様くらいの年齢のときは、もっと馬鹿だったはずだ。育ちのよさみたいなのは、こういうところに出てくるものなのかもしれない。


「貴方に、軍師の務めをお任せしてよいのですね?」


「はい。そのために呼ばれたみたいですから。自分にできることは、やってみるつもりです」


「ならば、私のもとにある仲間たちは、今これより貴方の兵となりましょう。彼らのこと、よろしくお願いいたします」


 王女の言葉どおり、アルセウスら、この場の面々が俺の指揮下に入る。

 アルセウス、ムート、アグニパの三名だ。

 リザードマンのカイザが含まれないのは、彼が王女の配下ではなく友達だからということなのだろうか。


 仲間のリストに、これで合わせて7名が載っている。

 このリストは仲間が増えたり、俺が見たいと意識したときに表示されるみたいだ。


 空中にあるそれに手で触れたり、集中して注目すると更に深い情報がアップされる。


 簡単に、新顔のステータスをチェックしてみる。

 驚いたのは、アルセウスの全体的な数値の高さだ。


 デニルとラームの二人を遥かに凌ぐ強さということになる。


 聖騎士、半端ないな。




 夜を迎えても、聖剣回収班は戻らなかった。

 3人組の女の子ばかりの班で、もともと、王女の身辺警護を担当する人員だということだ。


 この場で夜を明かすことになった。


 王女とお付きの侍女たちが一つのテントを使うので、もう一つのテントは、榎本さん、ティアリィ、マリーたち女性陣が使うことになった。


 男性陣は野宿及び、交代での見張りに立つことになったのだが、戦闘力ゼロの俺は見張りを除外された。

 むしろ最初から計算に入らなかった感じだった。


 俺は、馬車の中で眠ることにした。


 内装のデザインはともかく、柔らかいソファーは睡眠には最適だ。

 寝てしまえば見た目は関係ない。


 辺りはすでに暗いが、ビーナが身体を発光させてくれたので、灯りには困らない。たまには役に立つこともある。


 俺は、馬車のソファーに靴を脱いで上がり、身体を横たえる。


 しばらく目が冴えて眠れなかった。

 ここに着くまでに寝てたからだ。


 仕方なしに、俺はマップや、ステータスまわりの表示をいじりまわして遊んだ。


 ようやく眠りについたのは、外で見張りをしているのが、アルセウスから、ラームに、そして、デニルにへと入れ替わったのを確認してしまった後の深夜のことだった───。



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