20-(5)
あれほど悩まされた、宿命の天敵が。
この世から消えた。
〝Y・アサギリ〟裏の世界で名を轟かせた、らしい男。
ただ、あの人の射撃の腕を受け継いだ事だけは、感謝している。
これによって私は、この世界でやって行けると言っても過言ではないから。
そんな父の葬儀は、二度執り行われた。
〝朝霧義男〟そして〝神崎啓造〟として。
朝霧家については。
神崎さんが、一切を引き継いだと後から聞いた。
これで表裏ともに、神崎龍司が実権を握った事になる。
朝霧家の面々が、突然現れた神崎さんに、驚いた様子が目に浮かぶ…!
そんな中、彼はあっけらかんと言ったそうだ。
自分は朝霧の隠し子だ、と!
とてもあの人らしいと思う。ストレートで。そこが大好き!
そんな大好きな兄、神崎龍司は…。
これまで以上に、命を狙われる危険が増えるはず。
それだけが、どうしても心配だ。
・・・
「大垣さん、だったわね」
「あなたは…」
時刻は、夜の二十二時を回っていた。
神崎商事、オフィスビル前の通りにて。
今、私の目の前には、巨体のスキンヘッド男がいる。
何とか掴まえる事ができた。
「お願いがあって来たの」その巨体の、上の方を見上げながら告げる。
それにしても相変わらず、デカい!
まともに会ったのは高校生以来だが、この男は何も変わっていない。
「社長なら、ご自宅へ帰られましたが?」大垣が、やや困った様子で答える。
「今日は、あなたに用があるの」
「私に、ですか?」とても驚いた様子で私を見下ろす。
「少し、時間をくれない?」
「私と、本気で手合わせしてほしい」
「…はい?」
神崎さんのいない所で、この人物に接触を図った理由。
それは、この男がどれだけの力を持っているのかを、確認するためだ。
大垣とは、いつか手合わせ願いたいと思っていた。
もちろんそんなのは、ほんの興味本位での話だった。
けれど、状況が変わった。
万が一、神崎さんに危険が及んだなら。
本人の実力はさて置き、頼れるのはこの人しかいない。
私の大切な兄を守れる力があるかどうか、見極めておかなければ。
単なる見掛け倒し(!)かもしれないから?
「何をバカな。もう遅い。早く帰れ」
案の定。全く取り合ってくれる様子もない。
「ちょっと待ってよ!私はもう、あの頃のような学生じゃないわ!」
一度背を向けた大垣が、振り返る。
街灯に照らされた、スキンヘッドが眩しい…。
そんな事を思いつつも、私は真剣な眼差しを向け続けた。
場合によっては、コルトで脅してでも…。
そう思った時、大垣のため息が聞こえた。
「昔から感じていたが。お前のその殺気は…、どうも見過ごせんな」
「褒め言葉として、受け取っておくわ」
殺気、か…。
それは、コルトに手を掛けた瞬間に、私が発したに違いない。
でも、昔からというのは?
こんな疑問を抱きつつ。少しだけ緊張の糸を緩めた。
「手加減はなしよ。どちらかが参ったと言うまで続ける、いいでしょ?」
「ケガをしても知らんぞ。本当にいいんだな?」
どうやら受け入れてくれたようだ。
それはつまり。
私が、自分と対等に戦えるレベルにあると、判断したという事。
「ええ」
「神崎社長はこの事を知っているのか?」
「それなら、わざわざあなたを待ち伏せて、お誘いしたりなんかしないわ」
「…龍司さんはこんな事、決してお許しにならない」
大垣が、幾分思いつめたような表情で続けた。
「あの方は、妹のあなたの事を、大いに可愛がっていらっしゃる…」
それは、この人にとって喜ばしい事なのか、そうでないのか、私には分からなかった。
「ついて来い」
元の表情に戻った大垣が、私に背を向けて歩き始めた。
大垣について歩く事、二十分弱。
辿り着いたのは、日頃使っているという、トレーニング施設の道場。
遅い時間帯だったためか、人の気配はない。
そこで私達は、道着に着替えて向かい合う。
「決してケンカでも、リンチでもないからな」大垣が確認するように言うので。
「もちろん。殺し合いでもなくね!」と言い返した。
「それじゃ、始め!」
七年越しに。
ついに念願の戦いが、始まろうとしていた。




