表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
9/215

2-(3)


『ユイ、最近顔を出さないけど、何かあった?』


 夜。入院中の母から電話が来た。


「ううん、何もないよ。ちょっと風邪引いたけど」


 いつも学校帰りにお見舞いに行っていた。

 それなのに、夏休みに入ってからは一度も顔を出していなかった。例の新たなバイトを始めたせいで。


『まあ…。あなたは良く風邪をこじらせるから。気をつけなさいね。治ってからでいいから、顔を見せに来てね』


 いつもの優しい母の声に、思わず涙ぐんでしまう。


「うん。ごめんね、行けなくて」無理に明るい声を出す。

『いいのよ。それで熱はあるの?』


「もう平気。食欲もあるし」

 ついた方が良い嘘もあると、私は思う。


 まだ熱があった。

 風邪ではなく、早速副作用と思われる症状が出ていた。当然、食欲なんてあるはずもなく…。


 近況を報告し合った後、電話を切る。


「参ったな…。こんなんじゃ、私、どれだけ病弱な女子高生よ…!」

 二学期に入ってからは、こんな体調不良の日々が続いている。


 友人にもクラスメイトにも、恋人の赤尾先輩にも、こんな姿をさらし続ける訳には行かない。

 例の仕事のせいで、私の体調は常にどこか悪かった。


 こんな体調不良の真っ只中。


 無謀にも、私は修学旅行に行った。


・・・


「我慢はするなと言っただろう?なぜもっと早く来ない」


 旅行から帰っても体調が戻らずに、中里の研究所に入院する羽目になる。


「だって、修学旅行よ?行きたいじゃない!」

「修学旅行?」


 繰り返されて、自分が二十一だという事にやっと気がついた。

「間違えた、社内旅行!ほら、親睦を深めないと?」慌てて言い直す。


 不審そうな顔で見られる。

 さらに、仕事をやめた事になっていたのも思い出す。


「あ!えっと…、だから…」

 

 言い訳を探していると、「良くもまあ、そんな体調で行けたもんだ。褒めてやるよ」と呆れた口調で返された。

 どうやら、気づいていないみたい。

 

 ほっとしつつ、「最初は微熱だったし。報告したら、服用をやめて様子を見ろって言ったじゃない」と言い返す。


「そうだ。言ったさ。意味分かってるか?それはつまり、安静にしろって事だ!」

「してたもん」ただの旅行だ。

 

 解熱剤を点滴中の横たわる私を見下ろしながら、中里がため息をついた。


「まあいい。やはり若年層には発熱の副作用あり、か」

「役に立ったかしら」

「大いにね」ため息混じりに答えて来る。


「なら、報酬は追加ね!」

「高熱の割に、良く働く脳ミソだな」


 そんな嫌味も何のその。

「褒め言葉って事にしてあげる」そう言って、いつの間にか眠りについた。


 翌朝には熱も下がり、食事も摂る事ができた。


「若さってのは武器だな」

 感心したように何度も頷きながら私を見る。


 出された食事をペロリと完食してふんぞり返る私を、これまたふんぞり返って見ている彼。

 もちろん彼の頬は飴玉で膨らんでいる。

 

 この光景を誰かが傍から見ていたなら、私達はどんな関係に見えただろう…?


「あ~、帰って勉強しなきゃ…」

「勉強?」

 問い返されて、思わず口に出してしまった本音に焦る。


 背伸びして伸ばした両腕をやり場なく下ろして、「あ…。ほら、会社で試験がね!」と言い訳を始める。


「仕事、辞めたんじゃなかったか?」今度はこう突っ込んで来る。

「あ…、え?だから!新たな会社に入るための試験よ」と苦し紛れに誤魔化す。


 明らかに怪しいのに「それはそれは。中断させて悪かったな」と全く疑いもしない。


 何であれ、納得してくれた事に安堵…。嘘をつき通すって大変だ。


 本当は、もうすぐ中間試験なの!



修学旅行直後の試験って、ホント大変でしたよねぇ。(;^_^A

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ