18-(2)
車内にて。
「ねえ。何だか、機嫌悪くない?新堂さん」
私のこの質問は、当然無視される。
しばらくして、負けずに繰り返す。「怒ってるんでしょ、新堂さんってば!」
すると。
「ああ。怒ってるよ」と、意外な答えが返って来た。
こういう時は普通、怒ってないよ、と怒りながら言うものだ。
「やっぱり!何で?私のせい?」
「そうだな」と運転しながら淡々と答える。
「私の何が気に入らないの?ケガをしたのに、主治医のあなたに連絡しなかったから?それとも、海外のボーイフレンドと会ってたから?」
あえて、ボーイフレンドという言葉を使った。
だって、この人とは恋愛関係じゃないんだし。問題ないはず!
こんな言い訳を考えながら、自分の言い分を正当化する。
対する彼は、またしても黙秘を貫くつもりらしい。
「だから、その事は謝ったし、こうして病院へも向かってるじゃない。これ以上、私にどうしろって言うのよ」
私がそう言った直後、新堂さんは突然車を停めた。
助手席の私を見ている。
相変わらず、何を考えているのか全く読めないポーカーフェイスで。
「何か言ってよ」たまり兼ねて、私から沈黙を破る。
「ユイ。海外でも使える携帯を持て」
こんな事を言って来る彼に、「新堂さん!ふざけないで!」と私まで腹が立ち始める。
「ふざけてないさ」
「そんな事を言うために、わざわざ車を停めたの?」
「悪いか?」
もう何も言いたくなくなった。
明らかに、彼の態度はいつもと違った。
いつもイヤな男だったけれど、ここまで理不尽な人ではなかったはず!
車は再び動き始める。
そして、ベイブリッジに差し掛かる。
ここからの景色は、私のお気に入りの一つ。
けれど…。
今回ばかりは、私を癒してはくれなかった。
「もういい!」ついに我慢の限界で、声を張り上げた。
「何だって?」
「今のあなたを信用できない。そんな人に、治療なんてしてもらいたくない」
「何を言い出すのかと思えば…」
有料道路にも関わらず、彼はまたもや車を急停止させた。
「ちょっと!急に止まらないでよ」急ブレーキで、体が前に持って行かれる。
左肩を庇いながら、何とか姿勢を保つ。
「自分が何を言っているのか、分かってるのか?」
「ここは駐停車禁止よ」
「いい加減にしろ!」彼が、いきなり大声で怒鳴った。
その後、沈黙のまま数分が経過。
「…済まない、大声を出して」彼が先に切り出した。
「ここで降ろして。歩いて帰るから」
私はドアに手を掛けた。
「バカな事を言うな、危ないだろ。こんな所で降りるな!」
「死にはしないわ!例え死んだって、あなたなら助けてくれるでしょ。事前に依頼しておくから、代金教えてくれる?」
勢いでそう言い終えた時。
彼の頬に、何か光るものが流れた気がした。
まさか、あの新堂和矢が、泣いている?どうして、こんな事で…。
「新堂、さん…?何か、あったの?」
彼は、本当に声を殺して泣いていた。
どうしたものかと迷いつつも、「良かったら、話してくれない?」と問いかけてみたけれど。
何も話そうとしない。
「ごめんなさい…。私、自分の事ばかりで。あなたに何かあったかもなんて、考えてもいなかった。…本当にごめんなさい」
きっと、新堂さんにもいろいろあるんだ。私の知らない、いろいろが。
それなのに私は…。
この人の事をとやかく言えないくらい、自分勝手だ。
俯いた彼の横顔をただただ、申し訳ない思いで見つめるしかなかった。
いつも気丈な男性の涙、本当にドキリとします。いろいろな意味で…。




