17-(2)
ルクソール、テロリスト集団のアジトにて。
「(ユイ!こんなに早く、また君に会えるとは思わなかった!)」
運良く。
エリックの留置される場所に連れて来られた。
まさに狙いどおり!
「(嬉しいよ…!)」私に抱きついて、エリックが言う。
そんな彼から体を離し、「(早かったでしょ?)」と、上から下まで見下ろす。
「(…どうやら、今のところ無事のようね)」
所々、殴られてアザになってはいたけれど。
ひとまず、無事は確認できた。
「(ごめんよ、こんな場所に呼び出して)」
「(連絡が入れられるなら、軍隊とか警察にでも、通報した方が良かったんじゃない?)」
呆れた調子で言い放ってみる。
「(それはダメだ。この足じゃ、僕も捕まってしまう…)」
「(え!足、…ケガしてるの?ちょっと、大丈夫?)」
思わず大声を出した私に、見張りの男が何やら叫んだ。
「(あの人、今何て?)」
「(…ああ。黙ってろってさ)」
エリックはアラビア語が分かるらしい。
私達は監視の目をやり過ごすため、しばらく沈黙を続けた。
少しして。
再びエリックと小声で作戦会議を開く。
「(で、なぜ敵は、あなたを殺さないのかしら)」
「(利用価値があるからだろ。もちろん、それは君にも言える事だ)」
「(どんな?)」
「(何しろ、僕は有名人だから!)」と胸を張る。
「(…なるほどね。とすると、連中は何か、大きな事をやらかそうとしてる、とか?)」
有名人を捕まえれば、話題になって宣伝にはもって来いだ。
私の言葉を受けて、彼が掌にギリギリ収まる大きさの石を差し出して来た。
「(何それ)」と覗き込む。
ただの黒い石に見える。
「(奴等から戴いた。これがあれば、軍事業界で一儲けできるぞ…)」
笑いを隠せないといった様子で言う。
何でもその石は、ある物質と結合すると強力な妨害電波を発するらしい。
そんな物が世に出回ったら大変!
テロ集団が、世界を掌握する…?
そんなバカな事、あってはいけない!
「(なぜそんな物が、こんな所に…?)」
「(さあ。僕も経緯は良く知らないんだ。でも連中は今、これがなくなって大騒ぎさ)」
「(あなたが奪ったって、気づいてないの?)」
「(さあ…)」暢気な表情を見せる。
「(じゃあ、なぜ捕まったの?)」私は質問を変えた。
「(潜入がバレた。今回の変装はイマイチだったな~、僕とした事が!)」
変装も彼の特技の一つだと聞いている。
そんな、おどけていた彼だったけれど。
ふいに真剣な表情に変わって、手にした石を私に握らせて来た。
「(何よ…。いらないわよ?こんな物!)」
私の声に、見張りの男がジロリと睨んで来る。
思わず小さくなって顔を背ける。
「(今回の報酬って事で。ダメかな?相当の額になるよ)」とウインクを飛ばす。
「(だって、あなた、これのためにここに来たんでしょ?)」
今度は慎重に小声で答える。
「(命を捨ててまで、手に入れたくなんてないよ。世界中の女が泣く姿を、見たくないしね)」
こんな状況で、こんなセリフを口にできるなんて!
複雑な心境ではあったけれど。
取りあえず、この場は受け取る事にした。
・・・
それから、三日ほど経ったある日。
見張りの男が、持ち場を離れたのを見計らって、対策を練る。
「(そろそろ脱出を考えないとな)」
この言葉に私も頷く。
「(当然、君の相棒も持ってかれたよね…)」と私を見て続ける。
コルトの事だ。
あれがあれば、とっくに鍵を壊して飛び出している!
「(それにしても、見張りの男、戻って来ないわね。どうしたのかしら)」
「(逃げるなら、今じゃないか?)」
「(そうよ!エリック、鍵開けるの得意でしょ?)」鍵の方に顔を向けて彼に促す。
「(道具がないと、さすがの僕も無理だな)」
そんな彼の前で、おもむろに髪から、金属製の髪留めを外して見せた。
「ちょっと貸して!」エリックがそれを奪う。
そして数分後には。
南京錠型の鍵は、彼の手によってあっさりと開けられていた。
「(どんなもんだい!)」
自慢げな彼をよそに、「(さあ、逃げるわよ。歩ける?)」と、彼に手を貸して逃げる準備を進める。
「(歩くのは問題ないが、走るのは無理そうだな…)」痛そうに顔を歪めて言う。
「(仕方ない、行ける所まで行きましょ)」
敵に見つからない事を天に祈りつつ、脱出。
ところが…。
外へ出た所で、いくつものカラシニコフ銃に出迎えられた。
どうやら、罠だったようだ…。




