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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第二章 いつの間にか育まれていたもの
82/215

17 ハイエナの効能(1)

半年後。季節はめぐって十二月。



 満天の星空を見ていると。


 ある男の事を、思い出すようになった。


 冬の夜空は澄んでいるから、より一層、星が美しく見えると言われるけれど。

 それは本当らしい。


 マンションの三十階から、ぼんやりと夜空を眺める。


 目が慣れて来るに連れて、見える星の数はどんどん増えて行く。


 けれど、この都会の空から見える星なんて、あの場所のとは比べ物にならない。

「星、また見たいな~…」


 そして、あの男。

 あまりに強引過ぎて、最初は戸惑ったけれど。


 魅力に溢れた、愉快な男だった。


 あれから約半年。


 そんな彼、エリック・ハントの事を考えていたせいか。

 また、関わる羽目になった。


・・・


「新堂さん、ごめん。私、これから海外に行かなきゃならなくなった」

 私の部屋を訪れていた彼に伝える。


「やけに急だな。さっきの電話は、仕事の依頼だったのか」


 今さっき、国際電話を受けていた。


「ええ…。ちょっとした知り合いが困ってて。助けに行って来る」


「仕事、なんだな?」

 曖昧な私の答えに、再度確認して来る。


「そう。先方は依頼と言ったわ」答えながらも旅の支度を続ける。


「…思い出した、こちらにもそっち方面から、依頼が入っていたんだ。一緒に行こう」

 ふいに、新堂さんがそんな事を言った。


「え?本当に?奇遇ね!」


 こうして私達は、共に海外に飛び立つ事になった。


 行先はエジプト、ルクソール。


 急いでいると知り、彼がプライベートジェットをチャータしてくれた。

 何て贅沢な旅!


 半端のない経費の掛け方に、圧倒されるばかりだ。


「で、どこぞのテロリスト集団に捕まったその男とは、どういう関係なんだ?」

「な、何でそれを!」


 電話の内容は、しっかりと彼に聞かれていたようだ。

 あれだけ早口の英会話を理解したという事…。


 世界的ドクターを侮っていた!


 英語のテストは、ほとんどが赤点だったけれど。

 語学にはちょっとした自信がある。


 我が師匠、キハラ直伝のネイティブ並みの会話力(あくまで会話)を侮る事なかれ!

 それも英、仏、独、伊、露の五ヶ国語を(!)完璧に伝授してくれていた。


「だから…、ちょっとした知り合いだったら」

 エリックとの事を暴露して、反応を試したかったけれど。今はやめた。


 何しろこれから私は、そのテログループの元に乗り込まなければならないのだから。


 それにしてもエリックは、なぜ私を呼び出したのだろう。

 もっと強力な助っ人が、世界中にいくらでもいるはずなのに!


「ま、私には関係ないけどな」彼が追求を諦めたようだ。


 ほっとしたものの、この冷た過ぎるコメントにはため息が漏れた。


「ところで、新堂さんの方は?どんな患者さんなの」

「あ、ああ…。向こうはテロが頻発してるだろ。ケガ人は大勢いる」


「それもそうだけど。あなた、そういう慈善活動みたいな依頼は、いつも断るじゃない」


 新堂和矢は、常に難病とか難しい手術とか、そういうものに挑んでいるイメージだ。

 もちろんそれは、その方が儲かるから!


「金持ちの地主の依頼だ」まるで心を読まれたかのような回答だった。

「あ、そう」


 彼の仕事に、それ以上の興味はなかった。


・・・


 こうして。

 長い長い十四時間のフライトの後、ついに現地に到着。


「新堂さん、私の方はいつ終わるか分からないから、そっちが済んだら、構わず先に帰ってね」

 これだけ伝えて、ホテルで別れた。


 早速、エリックの居所を突き止めるべく行動に移る。

 現地の通訳兼ガイドで、ウラの情報にも通じていそうな者を雇う。


 この国の公用語はアラビア語。

 私には不慣れな言語だったので、ガイドの存在は必須。


 人選をミスすると、大変な事になるのだが…。


 数日後に、そのガイドの案内で向かった先で…。

 予想通り、あっさり拉致されてしまった。


 けれど。ここまでは想定内!

 手っ取り早く、現場に連れて行ってもらおう。


 一刻も早く、エリックの無事を確かめなければ…。



このストーリーはフィクションです。テロ集団に単身で乗り込むのは、絶対にやめましょう。

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