17 ハイエナの効能(1)
半年後。季節はめぐって十二月。
満天の星空を見ていると。
ある男の事を、思い出すようになった。
冬の夜空は澄んでいるから、より一層、星が美しく見えると言われるけれど。
それは本当らしい。
マンションの三十階から、ぼんやりと夜空を眺める。
目が慣れて来るに連れて、見える星の数はどんどん増えて行く。
けれど、この都会の空から見える星なんて、あの場所のとは比べ物にならない。
「星、また見たいな~…」
そして、あの男。
あまりに強引過ぎて、最初は戸惑ったけれど。
魅力に溢れた、愉快な男だった。
あれから約半年。
そんな彼、エリック・ハントの事を考えていたせいか。
また、関わる羽目になった。
・・・
「新堂さん、ごめん。私、これから海外に行かなきゃならなくなった」
私の部屋を訪れていた彼に伝える。
「やけに急だな。さっきの電話は、仕事の依頼だったのか」
今さっき、国際電話を受けていた。
「ええ…。ちょっとした知り合いが困ってて。助けに行って来る」
「仕事、なんだな?」
曖昧な私の答えに、再度確認して来る。
「そう。先方は依頼と言ったわ」答えながらも旅の支度を続ける。
「…思い出した、こちらにもそっち方面から、依頼が入っていたんだ。一緒に行こう」
ふいに、新堂さんがそんな事を言った。
「え?本当に?奇遇ね!」
こうして私達は、共に海外に飛び立つ事になった。
行先はエジプト、ルクソール。
急いでいると知り、彼がプライベートジェットをチャータしてくれた。
何て贅沢な旅!
半端のない経費の掛け方に、圧倒されるばかりだ。
「で、どこぞのテロリスト集団に捕まったその男とは、どういう関係なんだ?」
「な、何でそれを!」
電話の内容は、しっかりと彼に聞かれていたようだ。
あれだけ早口の英会話を理解したという事…。
世界的ドクターを侮っていた!
英語のテストは、ほとんどが赤点だったけれど。
語学にはちょっとした自信がある。
我が師匠、キハラ直伝のネイティブ並みの会話力(あくまで会話)を侮る事なかれ!
それも英、仏、独、伊、露の五ヶ国語を(!)完璧に伝授してくれていた。
「だから…、ちょっとした知り合いだったら」
エリックとの事を暴露して、反応を試したかったけれど。今はやめた。
何しろこれから私は、そのテログループの元に乗り込まなければならないのだから。
それにしてもエリックは、なぜ私を呼び出したのだろう。
もっと強力な助っ人が、世界中にいくらでもいるはずなのに!
「ま、私には関係ないけどな」彼が追求を諦めたようだ。
ほっとしたものの、この冷た過ぎるコメントにはため息が漏れた。
「ところで、新堂さんの方は?どんな患者さんなの」
「あ、ああ…。向こうはテロが頻発してるだろ。ケガ人は大勢いる」
「それもそうだけど。あなた、そういう慈善活動みたいな依頼は、いつも断るじゃない」
新堂和矢は、常に難病とか難しい手術とか、そういうものに挑んでいるイメージだ。
もちろんそれは、その方が儲かるから!
「金持ちの地主の依頼だ」まるで心を読まれたかのような回答だった。
「あ、そう」
彼の仕事に、それ以上の興味はなかった。
・・・
こうして。
長い長い十四時間のフライトの後、ついに現地に到着。
「新堂さん、私の方はいつ終わるか分からないから、そっちが済んだら、構わず先に帰ってね」
これだけ伝えて、ホテルで別れた。
早速、エリックの居所を突き止めるべく行動に移る。
現地の通訳兼ガイドで、ウラの情報にも通じていそうな者を雇う。
この国の公用語はアラビア語。
私には不慣れな言語だったので、ガイドの存在は必須。
人選をミスすると、大変な事になるのだが…。
数日後に、そのガイドの案内で向かった先で…。
予想通り、あっさり拉致されてしまった。
けれど。ここまでは想定内!
手っ取り早く、現場に連れて行ってもらおう。
一刻も早く、エリックの無事を確かめなければ…。
このストーリーはフィクションです。テロ集団に単身で乗り込むのは、絶対にやめましょう。




