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不快な蒸し暑さに、イラ立ちが募ったその時。
何という偶然か!
私とアオキの携帯が、同時に鳴り出した。
「もしもし?」私達はそれぞれの電話に出て会話を始める。
『ユイ、私だ。今いいか?』
私の方は新堂さんだった。
「新堂さん。もう帰国したの」
『ああ。今朝成田に着いた。今本牧にいるんだが…』
「本牧?何でまた…」
『房総方面から依頼が入ってな。帰国してすぐに向かった。夕方は道が混むので、フェリーを使って戻った』
「そうなの」
『今、湾岸を走ってるんだが。例の倉庫が、何やら騒がしいぞ』
「例のって、まさかD突堤のあそこ?」
それは過去に、新堂さんが義男に拉致された場所。
恐らくあの倉庫は、奴が所有しているのだろう。
とすると…。
その時、横で話すアオキの声が大きくなった。
「本牧のD突堤だな!今すぐ行く、待ってろ、ヒロシ!」
慌てた様子で電話を切るアオキが目に入る。
私も、新堂さんにすぐに行くと告げて電話を切る。
「アオキさん、そのD突堤の倉庫まで、私も付き合うわ」
「朝霧、何でそれを…!」
「いいから、早く!」彼を引っ張る。
「車、どこかに置いてあるんでしょ?」
「あ、ああ。向こうのパーキングに。よし、行こう!」
ようやく正気に戻ったアオキは、車を停めた方向に走り出した。
私も急いで後を追う。
「契約はまだ期限内なんだぞ?一体、何がどうなってるんだ!」
車に乗り込んで、アオキが呟く。
「依頼人の神崎ね…。ヒロシが捕まってるんでしょ」
「ああ、そうだ。先方は、依頼内容と全く無関係の事を調べられたと、大層ご立腹だ」
依頼内容、つまり私の事。
無関係の事って、…自分の事?
探偵自身が依頼人のターゲットになるなんて!話がややこしくなる!
全く、どこまでドジなの?ヒロシという男は…。
そして。
目的地に到着する。
「アオキさん、作戦会議しましょ…」
そう切り出した時には、彼はすでに車から降りて、明かりの漏れる倉庫に向かって猛ダッシュしていた。
ヒロシー!!と叫ぶアオキの声が、夕暮れの中に響き渡った。
私も車から降りる。
ムッとした空気に全身が包まれるのを感じて、大いに不快になる。
「あ~あ…」
彼の後ろ姿を眺めながら、車のボディに寄り掛かって大きくため息をついた。
「誰だ?あの無謀なヤツは」後ろから声がかかった。
「新堂さん!お帰りなさい。あなたの勘、的中のようよ」
顎で倉庫を示して言う。
その時、倉庫内で銃声が響いた。
「ねえ、私とドライブしない?」運転席に乗り込んで彼を誘う。
「どこまで?」
「ちょっとそこまで」笑顔で答える。
私の視線の先を見つめた後。
返事はなかったが、彼が助手席に乗り込んだ。
それを確認すると、すぐさま車を発進させる。
そのまま、倉庫目掛けて猛スピードで突っ込んだ。
「おい。車、壊れるぞ?前みたいに」
前に新堂さんを救出に向かった時も、同じ事をした。
「いいの。私のじゃないから!」
呆れ顔の彼を尻目に。
何度か突進の後、倉庫のシャッターを突破して中に突入する。
「これはこれは!お二人お揃いで」
椅子に縛られたヒロシの横にいた、横柄な態度の中年男が、私達を見つけて言った。
「まだ、我が娘と行動を共にしているとは…。ドクター新堂、探す手間が省けたよ」
相変わらずの小太り体型の神崎啓造、いや、私にとっては朝霧義男か。
本当に一人二役を、こなしていたのか…。
「何度言わせるの?私はあなたの娘なんかじゃない!それに、新堂さんに手を出したら許さないって言わなかった?」
車から降りて叫ぶ。
「今さら、私の何を探ろうっていうの?無関係の人間を巻き込むのはやめて!」
「娘の事を心配するのは当然だろう?」義男がしたり顔で言う。
「心配ですって?よく言うわ。ヘドが出る!」
私のこの言葉に、アオキが呟く。
「娘?神崎啓造が?…そういう事か!」
「そうなんです、大介さん!朝霧義男と、神崎啓造は同一人物だ」ヒロシが叫ぶ。
ダイスケのD、か。
アオキのジャケットの裏地にあった刺繍を思い出した。
「お前、何でそんな事知ってるんだよ…!」
「オレだってやるときゃ、やりますよ!」ヒロシは得意げに答える。
「バカ!依頼された仕事をしなきゃ意味がないだろうが!」
「ホント、バカな人。余計な事に首を突っ込まなければ、こんな目に遭わずに済んだのに」
義男を睨みつけて続ける。
「こんな姑息な真似をせずに、直接私に聞いたらどう?あなたのやり方は許せない…」
「聞いて答えるような娘なら、こんな苦労はしていない。もっとも、お前に許しを請うつもりはないが?」
義男は憎らしい笑みを浮かべると、ヒロシに銃口を向けた。
ヒロシがアオキの名を叫び、助けを求める。
「やめろ!やめてくれ!」必死な様子で義男に懇願するアオキ。
私は左手でコルトを引き抜き、そのまま義男に照準を合わせた。
「アオキさん、こんな人に何を言ってもムダよ」
「あ、朝霧、お前!ピストルまで持ってるのか…?!」
アオキがそう叫んだ次の瞬間。
同時に二つの銃声が鳴り響いた。
「どうしたユイ!おまえらしくもない。外したみたいだぞ」
新堂さんの指摘通り。
私の撃った弾は、義男を掠めて後ろのコンテナにめり込んでいた。
彼が、椅子ごと倒れ込んだヒロシに駆け寄る。
この私が、的を外した…?
彼女が狙った的を大幅に外した事は、未だかつてなかったのです!




