表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第二章 いつの間にか育まれていたもの
70/215

14-(4)


 不快な蒸し暑さに、イラ立ちが募ったその時。


 何という偶然か!

 私とアオキの携帯が、同時に鳴り出した。


「もしもし?」私達はそれぞれの電話に出て会話を始める。


『ユイ、私だ。今いいか?』

 

 私の方は新堂さんだった。

「新堂さん。もう帰国したの」


『ああ。今朝成田に着いた。今本牧にいるんだが…』

「本牧?何でまた…」


『房総方面から依頼が入ってな。帰国してすぐに向かった。夕方は道が混むので、フェリーを使って戻った』

「そうなの」


『今、湾岸を走ってるんだが。例の倉庫が、何やら騒がしいぞ』

「例のって、まさかD突堤のあそこ?」


 それは過去に、新堂さんが義男に拉致された場所。

 恐らくあの倉庫は、奴が所有しているのだろう。


 とすると…。


 その時、横で話すアオキの声が大きくなった。

「本牧のD突堤だな!今すぐ行く、待ってろ、ヒロシ!」


 慌てた様子で電話を切るアオキが目に入る。


 私も、新堂さんにすぐに行くと告げて電話を切る。


「アオキさん、そのD突堤の倉庫まで、私も付き合うわ」

「朝霧、何でそれを…!」


「いいから、早く!」彼を引っ張る。

「車、どこかに置いてあるんでしょ?」


「あ、ああ。向こうのパーキングに。よし、行こう!」


 ようやく正気に戻ったアオキは、車を停めた方向に走り出した。

 私も急いで後を追う。


「契約はまだ期限内なんだぞ?一体、何がどうなってるんだ!」

 車に乗り込んで、アオキが呟く。


「依頼人の神崎ね…。ヒロシが捕まってるんでしょ」

「ああ、そうだ。先方は、依頼内容と全く無関係の事を調べられたと、大層ご立腹だ」


 依頼内容、つまり私の事。

 無関係の事って、…自分の事?


 探偵自身が依頼人のターゲットになるなんて!話がややこしくなる!


 全く、どこまでドジなの?ヒロシという男は…。


 そして。

 目的地に到着する。


「アオキさん、作戦会議しましょ…」


 そう切り出した時には、彼はすでに車から降りて、明かりの漏れる倉庫に向かって猛ダッシュしていた。


 ヒロシー!!と叫ぶアオキの声が、夕暮れの中に響き渡った。


 私も車から降りる。

 ムッとした空気に全身が包まれるのを感じて、大いに不快になる。


「あ~あ…」

 彼の後ろ姿を眺めながら、車のボディに寄り掛かって大きくため息をついた。


「誰だ?あの無謀なヤツは」後ろから声がかかった。


「新堂さん!お帰りなさい。あなたの勘、的中のようよ」

 顎で倉庫を示して言う。


 その時、倉庫内で銃声が響いた。


「ねえ、私とドライブしない?」運転席に乗り込んで彼を誘う。


「どこまで?」

「ちょっとそこまで」笑顔で答える。


 私の視線の先を見つめた後。

 返事はなかったが、彼が助手席に乗り込んだ。


 それを確認すると、すぐさま車を発進させる。

 そのまま、倉庫目掛けて猛スピードで突っ込んだ。


「おい。車、壊れるぞ?前みたいに」


 前に新堂さんを救出に向かった時も、同じ事をした。


「いいの。私のじゃないから!」


 呆れ顔の彼を尻目に。

 何度か突進の後、倉庫のシャッターを突破して中に突入する。


「これはこれは!お二人お揃いで」

 椅子に縛られたヒロシの横にいた、横柄な態度の中年男が、私達を見つけて言った。


「まだ、我が娘と行動を共にしているとは…。ドクター新堂、探す手間が省けたよ」


 相変わらずの小太り体型の神崎啓造、いや、私にとっては朝霧義男か。

 本当に一人二役を、こなしていたのか…。


「何度言わせるの?私はあなたの娘なんかじゃない!それに、新堂さんに手を出したら許さないって言わなかった?」


 車から降りて叫ぶ。


「今さら、私の何を探ろうっていうの?無関係の人間を巻き込むのはやめて!」

「娘の事を心配するのは当然だろう?」義男がしたり顔で言う。


「心配ですって?よく言うわ。ヘドが出る!」


 私のこの言葉に、アオキが呟く。

「娘?神崎啓造が?…そういう事か!」


「そうなんです、大介さん!朝霧義男と、神崎啓造は同一人物だ」ヒロシが叫ぶ。


 ダイスケのD、か。

 アオキのジャケットの裏地にあった刺繍を思い出した。


「お前、何でそんな事知ってるんだよ…!」


「オレだってやるときゃ、やりますよ!」ヒロシは得意げに答える。

「バカ!依頼された仕事をしなきゃ意味がないだろうが!」


「ホント、バカな人。余計な事に首を突っ込まなければ、こんな目に遭わずに済んだのに」


 義男を睨みつけて続ける。

「こんな姑息な真似をせずに、直接私に聞いたらどう?あなたのやり方は許せない…」


「聞いて答えるような娘なら、こんな苦労はしていない。もっとも、お前に許しを請うつもりはないが?」


 義男は憎らしい笑みを浮かべると、ヒロシに銃口を向けた。


 ヒロシがアオキの名を叫び、助けを求める。


「やめろ!やめてくれ!」必死な様子で義男に懇願するアオキ。


 私は左手でコルトを引き抜き、そのまま義男に照準を合わせた。

「アオキさん、こんな人に何を言ってもムダよ」


「あ、朝霧、お前!ピストルまで持ってるのか…?!」

 アオキがそう叫んだ次の瞬間。


 同時に二つの銃声が鳴り響いた。


「どうしたユイ!おまえらしくもない。外したみたいだぞ」


 新堂さんの指摘通り。

 私の撃った弾は、義男を掠めて後ろのコンテナにめり込んでいた。


 彼が、椅子ごと倒れ込んだヒロシに駆け寄る。


 この私が、的を外した…?



彼女が狙った的を大幅に外した事は、未だかつてなかったのです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ