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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
7/215

2 大きなアメ玉をほお張る男(1)

高校二年生夏。


 この夏休み中に、もっと収入の良いバイトを見つけなければ…。


 ついに、裏ルートでの職探しを始めた。


 裏ルートというのは、大嫌いな父の会社絡みでという意味。それはもはや、犯罪に近い行為となる。


 何しろ父、朝霧義男はいわゆるヤクザの親玉。

 この男は、裏の世界では名の知れたワルだ。


 麻薬の取引から、不法な武器や臓器の売買、それに絡んで殺しに至るまで、儲かる事なら何にでも手を出している、まさに金の亡者!


 捕まらないのが不思議なくらい。

 もしかすると、警察にコネがあったりするのかもしれない?

 

・・・


「こんにちは~。どなたか、いませんか…?」


 遠慮がちにドアを叩きつつ、声をかける。

 

 昼前からすでに、うだるように暑いこの日。

 およそ三十分ほど電車に揺られて、ようやく目的地に辿り着いた。

 

 薄暗い林にひっそりと佇む、小さな研究施設の正面入り口に立つ。林になっているお陰で、ここは暑さが幾分和らいでいた。


 一息つきながら辺りを見渡す。


「おかしいな…、ここで間違いないと思うんだけど」


 門には〝中里新薬研究所〟と書かれていた。


 額の汗を拭って再度インターホンを押す。

 静まり返った敷地内には、何の反応も見られない。


 一歩下がり、二階建ての建物を見上げる。

 

 諦めて引き返そうとした時、インターホンから男の声が聞こえた。

『誰だ』


「あの!朝霧です。先日お電話で申し込みを…」最後まで言う前に遮られた。

『ああ、アンタか。ドアは開いてる、入ってくれ』


「はい!…何だ、開いてたの」

 重いドアを開けて中に入る。薄暗い外よりも、建物内はさらに暗かった。


 私の不安は、電車に揺られている時から高まる一方…。


 闇の求人広告の中から、この〝若年女性急募〟に飛びついた。

 善は急げという事で、早速連絡を取り、履歴書と問診票を郵送し今に至るのだが…。


 中はひんやりしていて、大の苦手な消毒液のような臭いが立ち込めていた。

 それも病院のとはどこか違うような…。


 思わず生唾を飲み込む。


「失礼します…」指定された部屋に入る。

「ようこそ。待っていたよ、朝霧ユイさん。中里だ。よろしく」

 白衣姿の男が、回転椅子をクルリと回して私を見る。


 中里は、電話越しの声から想像していたよりも強面ではなかった。陰気な感じだが、顔立ちは整っている。

 なのに髪はボサボサで、清潔感がなさすぎた。


「まあ、そこへ掛けて」

 示された椅子に座った私を、マジマジと眺め回す中里。


「あ、あの!…何か?」たまり兼ねて問いかける。


 私は白衣が苦手だった。

 異様なプレッシャーを感じて、先ほどまでとは別の汗が背中を伝う。


「君は、本当に二十代か?」履歴書に目を通しながら尋ねられる。

「一九七三年二月生まれの二十一歳よ。何なら免許証でも確認する?」

 

 高校生など間違っても採用されない。そう分かっていたから虚偽申告をした。

 もちろん免許証なんて持っていない。


「いや。失敬。そこまでの必要はない」

 目の前の男の納得した様子に、心から安堵した。


「それで、君のような若い女性が、この手の仕事になぜ興味を?」

 再び紙面に目を戻して質問を続ける。

「新薬の開発に貢献したい、なんて言った方がいい?」


 私の返答に驚いて、中里が顔を上げた。

「はっはっは!面白いな、君は。気兼ねはいらん。本音を言ってくれればいい」


「なら。もちろんお金のため。他にある?」

「いろいろ掛け持ちしてるの。合間にできたら一石二鳥ね」と調子に乗って続ける。


 すると中里から笑顔が消えた。


 私は恐怖に押し潰されそうになりながらも、平静を装って足を組む。顎をやや持ち上げて、不安な気持ちを封印する。


「申し訳ないが、そんな片手間にできるほど、この仕事は甘くはない」 

「え…あの…」


「そのくらい分かるだろ?でなきゃ、一回の報酬に三十万も払う訳がない」


 ここへ来て、初めて恐ろしさを感じた。自分の浅はかさを思い知らされる。


「こちらは決して強制はしない。嫌ならやめてくれて結構だ」

 黙り込む私に畳みかける。

 

 ここまで来て、引き下がる訳には行かない…!

「やめません!もっと詳しく聞かせてください」


 私は、この仕事に立ち向かう決意を固めた。


 その後、より詳しい内容が伝えられ、この日幾つかの検査を受ける事になった。



この求人はあくまでフィクションです。

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