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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第二章 いつの間にか育まれていたもの
67/215

14 ターゲット(1)

それぞれの日常に戻った二人だが…。季節は夏。



 新堂さんの嫌いな、梅雨の季節も終わりを告げて。


 強烈な太陽光が注ぎ始めた頃。


 海外からの依頼で、彼はあっさり日本を離れてしまった。

 せっかく自分の城を手に入れたというのに…!


〝一箇所に留まれる時間は短い〟


 彼のこんな言葉が頭に浮かんでは、なぜかちょっぴり悲しい気分になったり。


 新堂さんが日本を発って。

 ひと月近くが過ぎた頃。


 不審な男が、私の身辺を嗅ぎ回り始めた。


「私ってば、何てモテモテなの!」などと口にしてみたものの…。


 残念ながらその人物は、私に好意を持った人間などではなく。

 恐らく探偵。


 年は、四十前後だろうか。


 昼夜構わず、サングラスを着用している。

 そんな、自ら怪しい人物だと名乗っているような男だ。


「私を尾行しようなんて、百年早いのよ!」


 そんな男など、毎回あっさり撒いて、いつもと変わらない日常を過ごしていた。

 

 そのうちに諦めたらしく。

 一週間も経つ頃には、気配を感じなくなった。


 ところがそれからすぐに、今度は若い男に突然声をかけられた。


 例の男ではなく、今度は別の若い男。

 その男は、恋人と別れるために、私に新しい女を演じてほしいと言う。


「なぜ私に?もし仕事の依頼なら…、きちんと業者を通して、アポイントを取ってからにしてください」

 男から視線を外す事なく言い放つ。


 闇の世界で仕事を請け負う人達は、たいてい専用の〝掲示板〟に広告を出している。

 それを閲覧できる人間なら、誰でも申し込める。


 けれど、こんなふうに事前連絡なしでの直接交渉は、普通しない。


 何しろ、依頼内容は違法な事が多く。

 命に関わる仕事の場合だってあるのだから。


「その事だけど、こっちも切羽詰ってて!」男は幾分、顔を紅潮させて言う。


「あなたがどういう女性か、確認してから依頼したかったんだ。ほら!掲示板じゃ、人柄までは分からないだろ?…どうか怪しまないでくれ」


 ヒロシと名乗った男は、そう言って頭を下げた。


 怪しむな、という人間ほど怪しいという事を、知らないのだろうか…。


「だけど、一目見て文句なしだって分かったよ。お世辞抜きで、ユイさんは綺麗だ…」


 こう褒められて、悪い気はしない。

 大人になれば、誰でも褒められる事なんてめったになくなる。


 異母兄弟であり、ジェントルマンの、優しい神崎さんはともかく。

 あの新堂さんが、この手の事を言ってくれるはずもなく…。


 …別に、あの人に褒めてもらいたい訳じゃないけれど!


「小さい頃は良く言われたな~。そんな言葉をかけられたのは久しぶり!」

 思わず表情が緩んでしまい…。


 私は彼と喫茶店に移った。


 もちろん、ただナンパに乗った訳ではない。

 相手が、自分の素性を知っていたのは気になるところ。


 この男が何を企んでいるのか、知る必要がある。


「あなたに女を見る目がなかったんじゃない?そんな変なのに付き纏われるなんて」


「君が恋人だって見せつければ、もう終わりさ。引き受けてくれるよね?」


「その前に、報酬の件だけど。私を調べた上での依頼なら、当然、相場はご存知よね?」

「相場…」ヒロシが言葉を詰まらせた。


 表情を崩さずに、彼の反応をひたすら待つ。


「ちょっと、トイレ行ってもいいかな。ずっと我慢してたんだ!」

 いきなりソワソワしだしてそう言うと、立ち上がって店の奥に消えた。


「怪しさもここまで来ると、笑っちゃうわね」

 実際、私の顔は笑っていたと思う。


 ヒロシが、例の探偵の仲間ではと疑っていたが。

 こんなドジでは、探偵業は勤まらない。


 その他の可能性としては…、新人デカのおとり捜査、とか?

 それも無理があるか!


 ヒロシの言動を思い起こしては、一人あれこれと考えた。


 そして数分後。


「ごめん!話の続き、しようか」彼がハンカチを手に戻って来て言う。


 お構いなく、と軽く手を振ってクールに応じる。


「料金の事だけど、もちろん分かってるよ。確実に仕事をこなしてもらいたいから、こちらとしても、朝霧さんの納得する額で契約したい」


「で、いくら?」

「十万で…」ヒロシは、探るような目つきで金額を口にする。


 笑顔を作って、しばらくの間彼を見る。


 ほっとしたような表情を見せて来るヒロシに、止めを刺す。

「ヒロシさん、ご冗談が過ぎるわ!一桁足りないでしょ」腕を組んで笑顔のまま言う。


「え!あ!…ひ、百万?」

 もはや、驚きを隠せない様子丸出しのヒロシ。


 ここまで来ると、何だか彼が可愛く見えて来て。

 私はやや力を抜いて、肩をすくめて見せた。


「言っておくけど、今の依頼料に関してはそちらからの提示額。間違っても、私が要求したなんて言わないでよね?」と念を押す。


 後々、脅迫されたなどと騒がれたら厄介だ。


「そ、それはもちろんだ!それで、引き受けてくれるんだね?」

「ええ、いいわ」


 こうして。


 契約を交わし終えて、早速明日から仕事に入る事となった。



契約金の設定は、あくまでフィクションです。

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