12-(2)
ユイの新居にて。
玄関で、大声を上げているのは…。
金髪の米国人のように見える。
驚いた事に、小型のオートマチック拳銃を構えているじゃない!
それを認識した時には、すでに銃弾は発射され、彼に命中していた。
「新堂さん…!?」
彼が、私を庇うように倒れ込む。
貴重な血液が、私の手の中に流れ落ちる。生暖かい感触…。
鉄のような血の臭いが、辺りに立ち込める。
次の瞬間。
突然目の前に、爆破された部屋の映像が流れ始めた。
「うっ…!」
鋭い頭痛が、私の脳を走り抜けて行った。
―――ブロンドの美女が、小憎らしい笑みを投げかけて来る。
私は、いつの間にか夜の客船にいた。
その船は、緩やかな波に揺れながら、私に衝撃の事実を訴えていた。
美女と新堂のキスシーン…。
それを拒む新堂。その手には、いつの間にか私のコルトが握られている。
女が、拳銃を持った新堂の手を、包み込むように掴む。銃口を自分に向けたまま。
二人の指は、絡み合うように引き金に添えられている。
それを確認した直後。銃声がこだました。
至近距離で人間を撃ち抜いた時の、くぐもった音…。
撃たれたはずの女はなぜか微笑みながら、どこからか小瓶を取り出し、新堂に手渡す。
「ショウコ!」
暗い海に吸い込まれて行った、女に向かって、新堂が呼びかける。
その悲痛な叫びは、瞬く間に夜の海にかき消されて行った―――
これが、回想…か。
ついさっき語っていた彼の声が、頭の中で再び鳴り響く。
私はあの時。苦しさで朦朧としながらも、こんな一部始終を見ていたのか。
この回想の間、どのくらい時間が経過していたのだろう。
恐らく、ほんの数秒だったに違いない。
気づくと、私の左手にはコルトが握られていた。無意識に取り出したらしい。
正面に視線を戻す。
男が勝ち誇った顔で、彼に向けて止めの一発を、今まさに撃ち込もうとしていた。
「(祥子の仇だ!死ね)」
下品な英語で叫ぶ、この男の言葉で。
私の中でぼんやりしていた記憶が、ついに鮮明になった。
「…そうは、させない!」
今度は、男の拳銃より先にコルトが火を吹いた。
男は驚きの表情で立ち尽くし、何が起きたのか分からない様子で私を見つめる。
「即死させたりしない。ここで死なれたら困るの。私、この部屋、とても気に入ってるんだから」
男を玄関まで押し出し、閉じてしまったドアを開けて外へ出す。
「(私達の前から、今すぐ立ち去りなさい!)」
男に分かるよう英語で叫ぶ。
すると男は、まるで催眠術にでも掛かったように出て行った。
それを見届けてから、すぐに部屋へと戻る。
「新堂さん!しっかりして…」
そっと抱き起こすと、辛うじて目を開けた彼が、囁き声で私の名を口にした。
「どうしよう、血がこんなに…!心臓に当たったのかな…」
至近距離から撃ち抜かれたため、弾は貫通しているはずで。
左の胸部からの出血は酷かった。
押さえても押さえても、真っ赤な血がどんどん溢れた。
「どうしてこんな事に…!」
どうしたら良いのか分からず慌てる私に、彼が手を伸ばして来る。
「ユ、イ…。大丈夫だ、急所は、外れている。救急車を…」
そう言った彼が咳き込んだ。
口内からも血が溢れ出す。
「ダメ!しゃべらないで…。分かってる、すぐに病院へ」
溢れた血液で窒息しないよう、彼の体を少し起こし、近くにあったクッションを背に押し込む。
「新堂さん、しっかり!今救急車、呼ぶから…」
彼から離れると、自宅電話から緊急ダイヤルで救急車を要請する。
電話を終えて彼の元に戻る。
「あ、あいつは、どうした…」消え入りそうな声で彼が囁いた。
内心パニック状態だったけれど。
できるだけ平静を装って答える。
「この私が、敵を逃がすはずないじゃない?でもお陰で、記憶が戻ったみたいよ」
この言葉に彼は微笑んだ。
そして、そのまま意識を失った。
その後、救急車はすぐに来てくれた。
隊員達が部屋にやって来て、彼を担架に乗せる。
「一体、何があったんですか!」
血に塗れた室内を見渡しながら、隊員の一人が質問して来る。
一瞬口ごもってしまったけれど、ここは怪しまれないよう取り繕う必要がある。
「拳銃を持った男が、いきなり現れて彼を撃ったの。警察には通報済みです。大至急病院へ!片岡総合病院に運んでください!」
早口にそう言いながら、玄関先に落ちていた薬莢と銃弾をさり気なく足で隠した。
もちろん、警察への通報なんてしていない。
隊員達と外に出る。
血痕が点々と落ちていたが、男の姿はなかった。
どうやら、うまく逃げてくれたらしい。
できるだけ遠くまで移動してくれる事を願うばかりだ。
でも、あの男は助からない。
なぜなら私の弾は、確実に男の急所を捉えたから。
などと、威張っている場合ではなかった…。
私は大失態を犯した。ボディ・ガード失格だ!
彼を、守れなかったのだから…。
新堂さん、どうか死なないで!




