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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第二章 いつの間にか育まれていたもの
61/215

12-(2)

ユイの新居にて。


 玄関で、大声を上げているのは…。


 金髪の米国人のように見える。


 驚いた事に、小型のオートマチック拳銃を構えているじゃない!


 それを認識した時には、すでに銃弾は発射され、彼に命中していた。

「新堂さん…!?」


 彼が、私を庇うように倒れ込む。


 貴重な血液が、私の手の中に流れ落ちる。生暖かい感触…。

 鉄のような血の臭いが、辺りに立ち込める。


 次の瞬間。


 突然目の前に、爆破された部屋の映像が流れ始めた。


「うっ…!」

 鋭い頭痛が、私の脳を走り抜けて行った。


―――ブロンドの美女が、小憎らしい笑みを投げかけて来る。


 私は、いつの間にか夜の客船にいた。

 その船は、緩やかな波に揺れながら、私に衝撃の事実を訴えていた。


 美女と新堂のキスシーン…。

 それを拒む新堂。その手には、いつの間にか私のコルトが握られている。


 女が、拳銃を持った新堂の手を、包み込むように掴む。銃口を自分に向けたまま。


 二人の指は、絡み合うように引き金に添えられている。


 それを確認した直後。銃声がこだました。

 至近距離で人間を撃ち抜いた時の、くぐもった音…。


 撃たれたはずの女はなぜか微笑みながら、どこからか小瓶を取り出し、新堂に手渡す。


「ショウコ!」

 暗い海に吸い込まれて行った、女に向かって、新堂が呼びかける。


 その悲痛な叫びは、瞬く間に夜の海にかき消されて行った――― 


 これが、回想…か。

 ついさっき語っていた彼の声が、頭の中で再び鳴り響く。


 私はあの時。苦しさで朦朧としながらも、こんな一部始終を見ていたのか。


 この回想の間、どのくらい時間が経過していたのだろう。

 恐らく、ほんの数秒だったに違いない。


 気づくと、私の左手にはコルトが握られていた。無意識に取り出したらしい。


 正面に視線を戻す。

 男が勝ち誇った顔で、彼に向けて止めの一発を、今まさに撃ち込もうとしていた。


「(祥子の仇だ!死ね)」


 下品な英語で叫ぶ、この男の言葉で。

 私の中でぼんやりしていた記憶が、ついに鮮明になった。


「…そうは、させない!」


 今度は、男の拳銃より先にコルトが火を吹いた。


 男は驚きの表情で立ち尽くし、何が起きたのか分からない様子で私を見つめる。


「即死させたりしない。ここで死なれたら困るの。私、この部屋、とても気に入ってるんだから」

 男を玄関まで押し出し、閉じてしまったドアを開けて外へ出す。


「(私達の前から、今すぐ立ち去りなさい!)」

 男に分かるよう英語で叫ぶ。


 すると男は、まるで催眠術にでも掛かったように出て行った。


 それを見届けてから、すぐに部屋へと戻る。


「新堂さん!しっかりして…」

 そっと抱き起こすと、辛うじて目を開けた彼が、囁き声で私の名を口にした。


「どうしよう、血がこんなに…!心臓に当たったのかな…」

 至近距離から撃ち抜かれたため、弾は貫通しているはずで。


 左の胸部からの出血は酷かった。

 押さえても押さえても、真っ赤な血がどんどん溢れた。


「どうしてこんな事に…!」

 どうしたら良いのか分からず慌てる私に、彼が手を伸ばして来る。


「ユ、イ…。大丈夫だ、急所は、外れている。救急車を…」

 そう言った彼が咳き込んだ。


 口内からも血が溢れ出す。


「ダメ!しゃべらないで…。分かってる、すぐに病院へ」

 溢れた血液で窒息しないよう、彼の体を少し起こし、近くにあったクッションを背に押し込む。


「新堂さん、しっかり!今救急車、呼ぶから…」

 彼から離れると、自宅電話から緊急ダイヤルで救急車を要請する。


 電話を終えて彼の元に戻る。


「あ、あいつは、どうした…」消え入りそうな声で彼が囁いた。


 内心パニック状態だったけれど。

 できるだけ平静を装って答える。


「この私が、敵を逃がすはずないじゃない?でもお陰で、記憶が戻ったみたいよ」


 この言葉に彼は微笑んだ。

 そして、そのまま意識を失った。


 その後、救急車はすぐに来てくれた。


 隊員達が部屋にやって来て、彼を担架に乗せる。


「一体、何があったんですか!」

 血に塗れた室内を見渡しながら、隊員の一人が質問して来る。


 一瞬口ごもってしまったけれど、ここは怪しまれないよう取り繕う必要がある。


「拳銃を持った男が、いきなり現れて彼を撃ったの。警察には通報済みです。大至急病院へ!片岡総合病院に運んでください!」


 早口にそう言いながら、玄関先に落ちていた薬莢と銃弾をさり気なく足で隠した。

 もちろん、警察への通報なんてしていない。


 隊員達と外に出る。


 血痕が点々と落ちていたが、男の姿はなかった。

 どうやら、うまく逃げてくれたらしい。

 

 できるだけ遠くまで移動してくれる事を願うばかりだ。 


 でも、あの男は助からない。

 なぜなら私の弾は、確実に男の急所を捉えたから。


 などと、威張っている場合ではなかった…。


 私は大失態を犯した。ボディ・ガード失格だ!

 彼を、守れなかったのだから…。


 新堂さん、どうか死なないで!



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