表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第二章 いつの間にか育まれていたもの
58/215

11-(6)

新堂の来客用マンションにて。



「ただいま」


 昼過ぎに、新堂が帰って来た。


「お帰りなさい。ねえ、どこ行ってたの?」


 仕事用の鞄を持たずに行ったので、依頼先でない事は分かっていた。


 私の質問に答えずに彼が言った。

「ユイ、確認するが…。最近、変わった事はなかったか?」


「はい?どういう意味かしら」質問の意図が見えずに聞き返す。


「例えば…おまえの周囲に、おかしな人物が現われたりとか…」

「おかしな人物?あなたの事じゃなくて?」


 満更冗談でもなく、こう答えたけれど!

 

「やはり覚えていないのか。…一体、どの辺りからの記憶が…」

 私の言葉など無視して彼が呟く。


「ねえ。私、何か忘れてるの?やっぱり昨日、何かあったのね?」


 またも質問には答えずに、「その後、頭痛は?」と問いかけて来る。


「だいぶ治まったわ」

 素直に応じると、彼が頷いた。


「どうせバレるし…。まあ、いいだろう」

 そう言って、彼がテレビをつけてソファに腰掛けた。

 

 無意識にテレビの方に視線が移る。

 そこではちょうど、ニュース番組が始まったところだった。


 画面には、何だか見覚えのあるような風景が映っている。


「え?ちょっと!ここ、私のマンションじゃない?どういう事!…爆弾?ウソでしょ」

 ちょっとしたパニックに陥る。


 新堂からテレビのリモコンを奪い、あちこち放送局を変えて見る。


 どこの局でも、こぞってマンション爆破事件を取り上げていた。

 リポーターの話では、昨日の午後、突然マンションの一角が爆破されたという。


 住人は行方不明?それ、私なんですけど!


 食い入るようにテレビ画面を見ている私に言う。

「さっき行って来たのは、そこのマンションの所有者の所だ」


「どうして先生が?」立ち上がって尋ねる。


「私が過去に関わった人物が、起こした事なんだ。責任は私にある」

 彼は座ったまま答えた。


 過去に、関わった人物?

 この人の事を恨んでいる人間は、山ほどいそうだが…。


「それでなぜ、私の部屋が狙われたの?」


 その時、突然また頭痛が始まり、しゃがんで頭を抱える。


「頭痛か?ここに座るんだ」すぐさま彼にソファへ誘導される。

「うう…。一体、何がどうなってるの!」


 彼がテレビを消して、私に向かい合う。


「その頭痛は、二日酔いのせいではない。恐らくあの毒物、もしくは解毒剤の副作用だ」


「毒?」

 その恐ろしい言葉に、私は身をすくめた。


「おまえの兄上に、こっ酷く叱られたよ…」

「神崎さんに?…何で先生が叱られるのよ」


「ユイ、本当に申し訳ない…。とんだ事に、おまえを巻き込んでしまった」

 私の質問には答えず、謝罪の後に彼がうな垂れる。


「新堂先生…。そんな、やめてよ!」

 私は彼の肩に手を置いて、痛む頭を横に振る。


 何だか分からないけれど、この人に、こんなに頭を下げてほしくなかった。


 あんなに威圧的だったのが、今の新堂和矢はまるで別人。


 文句の一つも言ってやろうと思っていたのに…。

 そんな気分ではなくなってしまった。


 翌日。


「私、一度家へ戻るわ」意を決して彼に訴える。


「まだ行かない方がいい。今、住人のおまえが出て行けば、連中の格好の餌食だぞ」

 彼の言う連中とは、マスコミの事。


「でも、やっぱり気になるし!」意地でも行こうとした。


「必要な物があるなら、私が取って来る」彼も透かさず反論する。

「そういうんじゃないの」


 私も負けずに、今度は立ち上がって言った。


 座っていた彼が、私を見上げる格好になる。

 そして彼の手が、私を引き止めた。


「ユイ。頼む、行かないでくれ」彼が、またしても私に頭を下げて来た。


「ちょっと、やめてよ…、新堂さんってば」


 しばし固まり、ため息をついた後。

 とうとう彼の前に腰を下ろした。


「ねえ?責任を感じてくれるのは嬉しいんだけど。そもそも犯人は、本当に新堂さんの関係者なの?それにあなたこそ、まだ狙われてたりするんじゃ…」


 だとしたら、犯人を突き止めて、始末しなければならない。

 そういう事なら、私の仕事だ。


 何しろ私は、この人のボディ・ガードなのだから?


「その心配はない。犯人はすでに、…この世にはいない」

 無表情でこんな事を口にする。


「死んだ、って事?」まさか、自分で殺したのだろうか…?

「私のコルトを使って…あなたが?」


 こんな事を言ったのは、弾の残数が、記憶した数と合っていなかったから。

 一発足りなかったのだ。


 私は記憶を失くしているらしい。何かあったのは間違いない。

 この人が使ったのか…。想像もしていなかった。


「答えて。新堂さん」返事をくれない彼に促す。


「確かに。拝借した。私が、彼女を撃ったんだ。軽蔑するか?」

「彼女…」犯人は女、か…。


 本当にこの人が撃ったかは定かではないが。


 確かな事は、医者が殺しという行為に手を染めた、軽蔑されて当然だと、彼が思っているという事。


 事実はどうあれ、私はすぐに言い返した。

「私を守るためにしてくれたんでしょ」

 

 彼が、自分の大事なものを誰かが奪おうとしている、というような事を言っていたのを覚えていた。


 前後の記憶はないのに、どういう訳か、そこだけ鮮明に…。


「決まっているだろう。こんな事に巻き込んだ上に、おまえの命まで…。あり得ない!」

 珍しく、感極まった様子の新堂。


 こんな彼の答えに、安心してこう伝えた。「軽蔑なんて、する訳ない」


「私の命の次に大切なコルトだけど、新堂さんが使ったなら許す」

 言った後に、小さく笑って見せる。


 彼を軽蔑できるはずがない。


 何しろ。

 私はその〝殺し〟が最も身近な、裏側の世界に身を置いているのだから。


 大切なものの命を守るためならば…。

 私は躊躇しない。


 例えそれが、人の道を外れる行為であったとしても。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ