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引き続き車内にて。
「それで?あなたはその人の事、好きだったの?本当に」
自分には関係ないと、断言しておきながら…。
一番気になる点を、改めて確認する。
女の生死など、この際、どうでもいい!
もしかして…、新堂は今もその女の事を?
こんな事を考えては、一人、首を左右に振り続ける。
自分以外の人を心配する事もできないのに。
誰かを好きになれるものか!
「私がその女を好きかどうかが、何に関係するんだ」
予想通り答えは返って来ない。質問に、質問で答えて来る新堂。
「だから~!付き合ってたんでしょ?好きだからでしょ」
「分かってるなら、あえて確認する事ないだろ」
決して好きだったとは言わない。
私は勝手に、彼が好きになった訳じゃなく、相手に言い寄られただけと思う事にした。
異国の血が混じっているなら、純日本人より押しが強そうだ。
それに、美人に交際を申し込まれて、断る男なんかいない!と思う。
妄想は膨らむ一方!
「何にせよ、こんな事をするとは見損なったよ。自己中心的でひねくれ者だから、人の大事にしているものを奪うのが好きなのさ。そういう女だ」
ここで、彼のさり気なく言った言葉が引っ掛かった。
大事にしているもの…それって私の事?
当然、恋愛対象外でという事だ。
とすると、患者として…?疑問はどんどん増えて行く。
そんな疑問に一つも答えが出せないまま。
目的地に到着する。
「さあ、到着よ!何とか、オープニングセレモニーに間に合ったみたいね」
気持ちを切り替えるために、明るい口調で言う。
駐車場には人影はなく、招待客は皆会場に集まっているようだ。
私達も、メイン会場へと足を急がせた。
「ユイ!新堂先生も。ようこそ、我が社の記念式典へ。楽しんで行ってくれ!」
神崎さんが、私達に気づいてやって来た。
「お招きに預かり光栄です」と新堂が挨拶する。
「先生、ウイスキーでもいかがですか」早速神崎さんがグラスを差し出す。
「戴きます」
「あ~!私にもちょうだい!」透かさず私も同じものをもらう。
「車で来たんだろ?今晩は泊まって行け」
神崎さんの言葉に頷く私。
もちろん、そのつもりでの飲酒。
堂々とお酒を飲める事に、この上ない喜びを感じていると…。
「ユイ、ドレスの裾が汚れてるぞ。ここへ来る前に一体、何をして来た?」
神崎さんが体勢を斜めにして、フワリと広がった私のスカートの裾を見ている。
良く見れば、その部分だけでなく、全体的に埃っぽい。
目を合わせる私達を見て、神崎さんが不審がっている様子…。
「イヤだ!転んだのよ~。慣れないヒールのせ・い・で!ね、新堂…さん?」
…危うく、先生と呼ぶところだった。
「済みません、私が付いていながら」透かさず新堂が話を合わせてくれる。
「いえいえ!先生に謝っていただく事ではありませんよ!」
彼のフォローのお陰で、ここは何とか凌ぐ事ができた。
「そうだ、ユイ。後で聞きたい事があるんだ」
神崎さんが、私にだけ聞こえるように、そっと耳打ちして来る。
「何?今でもいいけど」
「いや…。後でいい。また来る」
「そう?」首を傾げつつも頷く。
神崎さんは他のゲストのおもてなしのため、すぐに私達の元を離れてしまった。
「だから汚れるって言ったんだ」
新堂さんから、予想通りの指摘を受けて振り返る。
「はいはい!ねえ、先生…じゃなかった、新堂さん。シャル・ウィー・ダンス?」
「シュア 」
軽く両手を広げてそう答えた彼が、恭しく右手を差し出した。
私達は曲に合わせて踊った。
「痛っ!」しばらく踊った後、ふいに彼が声を上げる。
彼の足を思い切り踏んでしまったみたい。
「あっ、ごめんなさい!」
謝りつつも、だんだん自分の体の動きが鈍くなって行くのを感じる。
「おい、どうした?しっかり足を動かせよ…」
彼に何度も腕を引っ張られては、体勢を起こす。
「え?何が~?私は絶好調よ~!」
自分の声がホールに響き渡る。それがまた、妙に心地良い。
「声がデカいぞ!」
周囲で踊っている客が、笑いながら私達を見ていた。
けれど、そんな事もお構いなしに上機嫌の私。
ふと、斜め掛けしていたポーチの中で振動を感じた。
ふいに動きを止めた私の耳元で彼が囁く。
「どうした?」
「電話が…」
彼から体を離して、携帯を取り出す。
そのディスプレイには、〝マンション・オーナー〟との表示があった。
さり気なく彼にも見せる。
「もしもし、朝霧です」
出た途端。相手は、凄い勢いでまくし立てて来た。
あの部屋は賃貸物件。あんな惨状になれば、当然の反応だ。
あまりの音量に耐え切れず、一旦電話を耳から遠ざける。
そのため、彼にも相手の声が聞こえたらしい。
「代われ。私が対応する」と言って私から携帯を奪う。
「あ…」
電話越しの相手と冷静に交渉を始める彼を、横でただただ見つめる。
しばらくして、彼が携帯を返して来た。
「で、何だって?」
「明日、先方に会って交渉して来る。おまえは何も心配するな」
「でも…」
「今回の事は、一切私が責任を取る」
相当責任を感じているらしい。
自分の元恋人が(未だに信じられないが!)起こした不祥事なのだから当然か。
そこへ、再び神崎さんが現れた。
「おお、楽しそうにやってるな!ん?ユイ、お前…、だいぶ酔ってるな…」
「し・ん・ど・う・さぁ~ん!」
何だか気持ち良くなって、新堂に抱きついた。
ご指摘どおり、どうやら完全に酔ってしまったみたい。
「お、おい!皆見てるぞ。済みません…」
彼が目の前に現れた神崎さんに謝罪している。
「さっきから、謝ってばかりよ?新堂さん。イケナイ人!」
「宿泊の用意は出来ています。もう休ませるといい」
この言葉に、新堂が礼を述べた。
「ユイ、先生の言う事を、良く聞くんだぞ?それじゃ先生、妹をよろしくお願いします」
そう言って、今度は彼に頭を下げている神崎さん。
「ヤ~ダ、神崎さん。私は妹じゃないって言ったでしょ!」新堂に抱きついたまま言う。
「では私はこれで!ここだけの話、ユイが酔うと手に負えませんよ…」
神崎さんが、何やら小声で彼に伝えていた。
「え…?そんな事は…」
自分にしがみ付いたままの私を見下ろして、新堂がそう呟いた。




