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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第二章 いつの間にか育まれていたもの
55/215

11-(3)

引き続き車内にて。

「それで?あなたはその人の事、好きだったの?本当に」


 自分には関係ないと、断言しておきながら…。

 一番気になる点を、改めて確認する。


 女の生死など、この際、どうでもいい!


 もしかして…、新堂は今もその女の事を?


 こんな事を考えては、一人、首を左右に振り続ける。

 自分以外の人を心配する事もできないのに。


 誰かを好きになれるものか!


「私がその女を好きかどうかが、何に関係するんだ」

 予想通り答えは返って来ない。質問に、質問で答えて来る新堂。


「だから~!付き合ってたんでしょ?好きだからでしょ」


「分かってるなら、あえて確認する事ないだろ」

 決して好きだったとは言わない。


 私は勝手に、彼が好きになった訳じゃなく、相手に言い寄られただけと思う事にした。


 異国の血が混じっているなら、純日本人より押しが強そうだ。

 それに、美人に交際を申し込まれて、断る男なんかいない!と思う。


 妄想は膨らむ一方!


「何にせよ、こんな事をするとは見損なったよ。自己中心的でひねくれ者だから、人の大事にしているものを奪うのが好きなのさ。そういう女だ」


 ここで、彼のさり気なく言った言葉が引っ掛かった。


 大事にしているもの…それって私の事?


 当然、恋愛対象外でという事だ。

 とすると、患者として…?疑問はどんどん増えて行く。


 そんな疑問に一つも答えが出せないまま。


 目的地に到着する。


「さあ、到着よ!何とか、オープニングセレモニーに間に合ったみたいね」

 気持ちを切り替えるために、明るい口調で言う。

 

 駐車場には人影はなく、招待客は皆会場に集まっているようだ。

 私達も、メイン会場へと足を急がせた。


「ユイ!新堂先生も。ようこそ、我が社の記念式典へ。楽しんで行ってくれ!」

 神崎さんが、私達に気づいてやって来た。


「お招きに預かり光栄です」と新堂が挨拶する。


「先生、ウイスキーでもいかがですか」早速神崎さんがグラスを差し出す。


「戴きます」

「あ~!私にもちょうだい!」透かさず私も同じものをもらう。


「車で来たんだろ?今晩は泊まって行け」

 神崎さんの言葉に頷く私。


 もちろん、そのつもりでの飲酒。

 堂々とお酒を飲める事に、この上ない喜びを感じていると…。


「ユイ、ドレスの裾が汚れてるぞ。ここへ来る前に一体、何をして来た?」


 神崎さんが体勢を斜めにして、フワリと広がった私のスカートの裾を見ている。


 良く見れば、その部分だけでなく、全体的に埃っぽい。

 目を合わせる私達を見て、神崎さんが不審がっている様子…。


「イヤだ!転んだのよ~。慣れないヒールのせ・い・で!ね、新堂…さん?」

 …危うく、先生と呼ぶところだった。


「済みません、私が付いていながら」透かさず新堂が話を合わせてくれる。

「いえいえ!先生に謝っていただく事ではありませんよ!」


 彼のフォローのお陰で、ここは何とか凌ぐ事ができた。


「そうだ、ユイ。後で聞きたい事があるんだ」

 神崎さんが、私にだけ聞こえるように、そっと耳打ちして来る。


「何?今でもいいけど」


「いや…。後でいい。また来る」

「そう?」首を傾げつつも頷く。


 神崎さんは他のゲストのおもてなしのため、すぐに私達の元を離れてしまった。


「だから汚れるって言ったんだ」

 新堂さんから、予想通りの指摘を受けて振り返る。


「はいはい!ねえ、先生…じゃなかった、新堂さん。シャル・ウィー・ダンス?」


「シュア 」

 軽く両手を広げてそう答えた彼が、恭しく右手を差し出した。


 私達は曲に合わせて踊った。


「痛っ!」しばらく踊った後、ふいに彼が声を上げる。

 彼の足を思い切り踏んでしまったみたい。


「あっ、ごめんなさい!」

 謝りつつも、だんだん自分の体の動きが鈍くなって行くのを感じる。


「おい、どうした?しっかり足を動かせよ…」


 彼に何度も腕を引っ張られては、体勢を起こす。


「え?何が~?私は絶好調よ~!」

 自分の声がホールに響き渡る。それがまた、妙に心地良い。


「声がデカいぞ!」


 周囲で踊っている客が、笑いながら私達を見ていた。

 けれど、そんな事もお構いなしに上機嫌の私。

 

 ふと、斜め掛けしていたポーチの中で振動を感じた。


 ふいに動きを止めた私の耳元で彼が囁く。

「どうした?」


「電話が…」

 彼から体を離して、携帯を取り出す。


 そのディスプレイには、〝マンション・オーナー〟との表示があった。

 さり気なく彼にも見せる。


「もしもし、朝霧です」

 出た途端。相手は、凄い勢いでまくし立てて来た。


 あの部屋は賃貸物件。あんな惨状になれば、当然の反応だ。


 あまりの音量に耐え切れず、一旦電話を耳から遠ざける。

 そのため、彼にも相手の声が聞こえたらしい。


「代われ。私が対応する」と言って私から携帯を奪う。

「あ…」


 電話越しの相手と冷静に交渉を始める彼を、横でただただ見つめる。


 しばらくして、彼が携帯を返して来た。


「で、何だって?」

「明日、先方に会って交渉して来る。おまえは何も心配するな」

「でも…」


「今回の事は、一切私が責任を取る」


 相当責任を感じているらしい。

 自分の元恋人が(未だに信じられないが!)起こした不祥事なのだから当然か。


 そこへ、再び神崎さんが現れた。

「おお、楽しそうにやってるな!ん?ユイ、お前…、だいぶ酔ってるな…」


「し・ん・ど・う・さぁ~ん!」

 何だか気持ち良くなって、新堂に抱きついた。


 ご指摘どおり、どうやら完全に酔ってしまったみたい。


「お、おい!皆見てるぞ。済みません…」

 彼が目の前に現れた神崎さんに謝罪している。


「さっきから、謝ってばかりよ?新堂さん。イケナイ人!」


「宿泊の用意は出来ています。もう休ませるといい」

 この言葉に、新堂が礼を述べた。


「ユイ、先生の言う事を、良く聞くんだぞ?それじゃ先生、妹をよろしくお願いします」

 そう言って、今度は彼に頭を下げている神崎さん。


「ヤ~ダ、神崎さん。私は妹じゃないって言ったでしょ!」新堂に抱きついたまま言う。


「では私はこれで!ここだけの話、ユイが酔うと手に負えませんよ…」

 神崎さんが、何やら小声で彼に伝えていた。


「え…?そんな事は…」


 自分にしがみ付いたままの私を見下ろして、新堂がそう呟いた。



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