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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
52/215

10-(6)



 それから。


 新堂が私の携帯に連絡をして来たのは…。


 二ヵ月後の、クリスマスだった。


 あえてクリスマスに会う約束なんて!

 偶然なのか狙ったのかは、全くもって不明。


「こんばんは」


 声を受けて玄関ドアを開けると、新堂が立っていた。


「いらっしゃい。時間どおりね」

 彼は、約束の時間きっかりにやって来た。

 

 本当に時間だけは守る人で(!)

 不思議な事に、そこだけは、いつもなぜか徹底している。


 遅刻魔の私は、この人とは絶対に付き合えない気がする…。


「プレゼント・フォー・ユー」

 流暢な発音でそう言うと、後ろに隠し持っていた豪勢な花束を差し出して来た。


 深紅のバラの花束なんて!


「すっご~い…。どうしたの、これ!」私は驚いて、ただただそれを見つめた。


「受け取ってくれないのか?」手を出さない私に彼が言う。

「あ…、せっかくだから、もらっとく…。ありがとう」


 この人に花をもらうのは、卒業式以来二度目だ。


 彼を部屋に入れ、リビングのソファーに案内する。


「ねえ、先生。ワインでもいかが?」

 冷蔵庫を開けて見せる。中身をほぼ占めているのはワイン。


 大人への第一歩は、何と言ってもアルコール?

 この行為には大した意味はないけれど。


 ただこの時も、少しでも早く大人になりたいと強く思っていた。


 新堂が、驚いた様子で冷蔵庫を眺めている。


「戴きたいが…、車なんだ」

「何ならここに泊まれば?ベッド、二つあるし」


「なぜ二つあるんだ?」


「変に思わないでよね、私は一人暮らしよ?二つとも私の。少し前に、スウェーデン製のとてもいいウォーターベッドを見つけたの!極上の寝心地よ」


 それを、思わず衝動買いしてしまった。

 そんな資金が、今では余裕にある。


 これだから闇の家業はやめられない!


「それは是非試してみたいね」思わず彼が乗って来る。

「でしょ!」


「どうせなら、一緒に寝てみるか」


 この言葉に私は固まった。


 本気のはずがないけれど、こんな冗談を言える人だった?

 その表情からは、真偽が全く読み取れない。


「困ったな、冗談だったんだが…」ポツリと呟いた新堂。

 

 …バカ!ドギマギしてしまった自分が恥かしくて、気の利いた返答が浮かばない。

 

「それじゃワイン、戴こうかな」ふいに新堂が言った。

「どうかしたか?」

 返事を返さない私を見て不思議そうにする。


「いいえ。喜んで!」気を取り直して、笑顔でそう答えた。


 ワイングラスを二つ出してリビングへ運び、並べてそれぞれへ注ぐ。


「そう言えば…おまえ、いくつだっけ?」

 忘れていていいものを、彼が探りを入れて来る。


 私が二十歳を迎えるのは二ヵ月後。


「イヤだわ、もう成人よ。もう、すぐ…?」


 彼が疑わしげにこちらを見ている。

 私はにっこり笑いながら、自分で注いだワインを一気に飲み干して見せた。


 それからしばらく、主治医の経過観察が始まる。


 少しして。

 飲酒後の私に何の変化も見られず、問題なしと判断したようだ。


「ま、いいか。美味いじゃないか、このワイン!」

 ようやく彼が飲み始めた。


「本当?良かった!ラベルの好みだけで選んだの」

「おいおい…」


 十九歳のユイさんに、ワインの良し悪しなんて分かる訳がないじゃない?


「ところで新堂先生。どうして、真っ赤なバラなんて選んだの?」

 空き瓶に生けた、今飲んでいるワインのように真っ赤なバラに顔を向けて尋ねる。


 普通、こういう物は恋人に贈るもの。もしかして、私の事…?


「ちょうどクリスマスだろ。だから」

 意味不明の答えが返って来る。


「は?何それ」この人はクリスマスを何だと思っているの!


 それ以上、答えは返って来なかった。

 

 私はバラを見つめながら、別の質問をしてみる。

「ねえ先生?深紅のバラの花言葉、知ってる?」


「いいや」

 これは予想通りの答えだったのだが。


 それどころか、彼はこんな事を言った。

「私は誰とも恋愛をするつもりはない。この先もずっとな」


「え、何で…?」予想外の答えに戸惑うばかり。


「女の裏切りはたくさんだ。もうそんな、下らない事には関わりたくない」


「裏切られたの…?女に」

 何だか気が立っている様子。問い返してもそれ以上の答えはない。


「ああ、そうですか!何があったか知らないけど、そんな事言われなくても私だって…」

 あなたなんかと、恋愛なんてゴメンよ!と続けたかったのだが…。


「始めに言っておくよ。おかしな期待をされても困るからな」と、先を越されてしまった。


 真っ赤なバラをプレゼントしておきながら、何という言い草?

 冗談じゃない。こっちから願い下げ!


 何て失礼な男!


「あなたの言動は、矛盾しすぎてる!」

 お酒の勢いもあって。こんなような事を、何度も何度も新堂に訴えた。


 いつものように、全く相手にされていなかったけれど…。


 翌朝。


 新堂はすぐに部屋を出た。

 さすが超ご多忙の外科医。朝から超難関のオペがあるらしい!


 昨夜に一体、何本ワインを空けたのか。冷蔵庫の、残りのワインの数を見て驚いた。


「これだけ飲んでも、翌朝ケロリとしてるあの人って、かなりの酒豪?」


 自分の事を棚に上げて、こんな事を呟いた。




カレの心を開くのは、容易ではなさそうです…。

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