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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
46/215

9-(5)


 母を空港で見送った後。


 私はその日に、新堂のマンションを出た。


 彼が車で、荷物と共にアパートまで送ってくれた。


「空港まで付き合ってもらった上に、私まで。今日は新堂先生に、本当に運転手みたいな事させちゃったね。ごめんなさい」


 気にするな、と言うように肩をすくめてから、彼が口を開く。

「これから、どうするんだ?就職の話は嘘だろ」そう言いながら、車から降りた私を目で追う。


「聞いてたの!」地獄耳というヤツか…。

 

 気を取り直して礼を述べる。

「さっきはありがと。いろいろ黙っててくれて」案外話の分かる人になったじゃない?と、心の中だけで続ける。


 彼はというと…。

 相変わらず、何を考えているのか分からない表情だったが。


「どうするって、もちろん働くのよ。あなたよりも稼いでみせるわ!」

「まあ、せいぜいうまくやるんだな」


 彼も車から降りてドアを閉めた。


 高級車ならではの、重厚なドアの閉まる音が響く。


 私はこの音が結構好きだ。

 家にあるようなヤクザのベンツではなく、本物の高級車のこういう音が…。


「どうした?」ぼんやり車を見つめている私に、探りを入れられる。


 軽く首を振って笑顔を向ける。

「いい?先生。今度私に救出を依頼したら、きちんと報酬を戴くから。そのつもりで!」


 左手をピストルの形にして、前に立つ彼に向け、撃つ真似をしてみせた。


「それはこっちのセリフだ。ケガでもしたら呼んでくれ。いつでも行ってやるよ。ただし代金は、値引きなしでね」


 この言葉に、私達は笑いあった。


 しばしの沈黙の後。

 新堂が口を開いた。


「朝霧ユイ。母親を、あまり心配させるなよ」


「新堂先生には関係のない事よ」冷たく言い放った。

 自分が発した言葉なのに、まるで新堂の言葉のようだと思う。


「それもそうだな」両手をポケットに入れたまま、肩をすくめて答える新堂。


「それじゃ、これは正式にお返しするわ」

 気を取り直して、預かっていた部屋の合鍵とPHSを差し出す。


「ああ」彼が受け取る。


「お世話になりました」

 私は丁寧に頭を下げて言った。  


・・・


 こうして。

 一人暮らしに戻った私は、誰にも縛られない、自由な生活を大いに満喫したのだった。


 学生ではない、念願の〝社会人〟としての第一歩を踏み出した。


「想定内、想定内!」

 届けられた不合格通知を手に、大声を出す。


 母にも語ったように私の夢は警察官。ダメもとで採用試験を受けた。

 予想通り、義男のせいで(確信はないけれど)その夢は断たれたが。


―――「いやぁ~、朝霧さん!身長が、足りないんですよ。仕方ないですね、こればっかりは!」担当者はそう説明して来た。


「素質は大いにあるんですがねぇ。全く残念です」―――


 大っぴらに義男の事が話題に出されるはずもなく、私はこんな理由で不採用となる。

 でも私の正義感は、こんな事ではへこたれない!


 ワルの家に生まれてしまった私は、潔く悪の道に入る事にする。


 何しろ〝朝霧義男の娘〟というだけで一目置かれるのだ。

 もちろん、それを当てにするつもりは更々ないけれど?


 幸い、キハラ師匠に徹底的に鍛えられたお陰で、かなりの戦闘能力を持っていると自負している。

 射撃の腕だって、義男の才能を受け継いだようで、結構得意だ。


 他にも、肝が座っているところや、妙な時に働く直感、悪知恵(!)など。

 この闇社会で非常に役に立つ、こんな能力の数々は、義男譲りだろう。


 こんな私だけど。

 

 絶対に、ヤツのような悪にだけはならない、それだけは心に誓う。


 正義も悪も紙一重だ。警察じゃなくても、悪を正す事はできるはず。

 だからこうなったら、こっちの裏側の世界から、この腐った世の中を変えてやろう。

 

 私は秘かに、こんな野望を抱いている。



実際に警察官の採用条件には、身長制限があるのです…。おチビの警官がいてもいいと思う!強ければ?

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