表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
43/215

9-(2)


 静まり返った教室。


 ドアが開く、ガラガラ…という派手な音が響き渡った。


「朝霧ユイ。まだいるか?」

 ようやく新堂先生のご到着のようだ。


「新堂先生…」顔だけをそちらに向けて、彼を確認する。


「遅くなって済まない。オペが長引いてね。どうした、大丈夫か?」

 私の体を起こして、額に手を当てて来る。


 何も答えずに、呼吸の荒さで高熱を訴えてみた。


「こんな寒い所に、ずっといたのか」新堂がやや体を震わせて言う。

「…寒くないもん」


「熱があるからだ。風邪でも引いたか?」

 彼は例の症状が再発したとは言わなかった。


「今日は何を?」と質問が続く。


「強いて挙げるなら、体育のマラソン?」

「何キロ?」


「五キロ」と答えた後に、しばし沈黙が続く。


 しばらく間を置き、「それで、完走したのか」と新堂が改めて聞いて来る。

「当然でしょ。ブッちぎりで優勝よ」


 急にテンションが高くなって元気に答える私に、彼は頭を抱えた。


「お陰で皆のゴールを待ってるうちに、体が冷えちゃったわ」

 

 新堂がため息をついて、「病院へ行くぞ」と、私の体勢を起こしにかかる。

「家に帰りたい…」


「ウイルス性の肺炎かもしれない。念のため調べる」


「家に…」

 再び訴えようと口を開いたけれど。


「おまえに拒否権はない。立てるか?」

 言葉を遮られて、あっさり会話の主導権を持って行かれた。


 ふらつく私は、支えられながら車に向かう。


「保健室で待っていれば良かったのに」と非難し始める新堂。

「今日、保健の先生、お休みなの」


「もっと早く来れれば良かった。済まなかったな」

 新堂が謝罪の言葉を口にした。


 これには慌てて、「ううん。いいの。私が急に呼び出したんだし」と否定する。


 もはや、私の思考は正常ではなかった。

 横にいるのが誰で、どんな人物なのかも忘れるくらいに。


 車に乗り込むと、私はそのまま病院へ連れて行かれた。


 到着後。

 ベッドに寝かされた私は、長らく戦っていた睡魔にあっさり負けて、深い眠りについたのだった。


 どのくらい時間が経ったのだろう。


 病院のベッドで目を覚ました。

「新堂先生…」


「起きたか。あと少し放置していたら、本当に肺炎になっていたところだったよ」

 新堂が私を見て静かに言う。


「風邪じゃなくて?」


「おまえの肺は、炎症を起こしやすくなっている。風邪のウイルスが、肺に入るところだった」

 私のために分かりやすく解説してくれる。


「昼頃まで、全然普通だったのよ…。肺炎って!」大袈裟だ、と思いながら訴えた。

「ユイは我慢強いから、少々の不調は感じなかったんだろう」


「それって、褒め言葉かしら」

「どうとでも。熱が下がるまでは、ここで様子を見る」と答えて私に近づく。


「どうとでも」同じセリフを言ってみる。


 彼が私に、新たにもう一本、点滴針を刺し込んだ。

 抵抗する気力もない。


 体が底なし沼に沈んで行くような感覚が、どうしても消えない。


「頼むから、無茶はしないでくれ。こんな調子じゃ、いつまで経っても治らないぞ?」


 沼の水面から聞こえて来る新堂の声に答える。

「無茶なんてしてない。こんなの普通よ。学校がつまらないだけ」


 意味不明な事を言っている自分に気づくけれど、どうでも良くなる。


「五キロも走っておいて、普通か!」呆れてため息をつく彼が見えた。

 私を見て、いつまでも首を横に振っている。


 先生は、私の何を否定しているの…?


 沼底に沈められたまま、身動きもできずに、ただこんな、訳の分からない事を考え続けるのだった。


 翌日。


 懸念された肺炎になる事もなく、熱は無事に下がり。

 その日の午後には、退院が許可された。


 新堂のマンションへと〝帰宅〟する。


「先生…、体中が痛いんだけど」動きが制限されるくらいの痛みだ。

「高熱のせいだ。そのうち良くなる」


「熱は、下がったのよ?なのにまだ痛い!」

 ベッドに横になるのも辛くて訴える。


「それは、体がウイルスに対抗しているサインだ。おまえの体の免疫システムが正常な証さ」


「ふう~ん…。この筋肉痛、動かしてたら良くなるんじゃ…」

「あのなぁ…」新堂が呆れた様子で私を見つめる。


「そうじゃない。大人しく安静にしてろって事だ!さあ、つべこべ言ってないで早く寝ろ」


 いつまでも体を横たえる気配がない私に、痺れを切らしたらしく…。

 声に怒りの色が見え始めた。


 力ずくで体をベッドに押し付けられるも、負けずにムダな抵抗をする。

「痛いってば!もう少し、優しくできない訳?」


「おまえが言う事を聞かないからだろ」


 安静にしろって、自分で言ったくせに!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ