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引き続き、神崎商事社長室にて。
「親父に、愛情を感じた事など一度もない」
毅然としつつも、どこか悲しげな表情で語る神崎さん。
これには透かさず相槌を打った。
あんなヤツを好きになる人間なんていない!
なのに、お母さんは、どうしてあいつなんかと…?
「本当の母親はとっくにいない。友と呼べる連中も皆ライバルだ。こんな、敵ばかりに囲まれて育った」
私は静かに頷いて、話の続きを待った。
「そこへ、お前という妹の存在が明らかになった」
「神崎さん…」
「例え腹違いであれ、自分に妹がいると知った時は、味方を見つけた心境だったよ」
神崎さんがやや体を離して、私の方を覗き込んで微笑んだ。
「こんな私でも?神崎さんの味方に、なれてるのかな…」
「もちろんだ。お前と共に過ごすうちに良く分かった。ユイにはそれだけの価値がある。自分を卑下するんじゃない」
「それって、大金をはたいても構わないくらい?」
気恥かしくなって、こんな事を言ってみる。
「その通りだ」彼は笑った。
「だけど。妹じゃ、ないからね?私」
「ああ…。そうだったな」
それからしばらく、沈黙の中、お互いの体温だけを感じて過ごした。
「なあユイ?もう一つ確認したい事が…」
彼がそう切り出した時。
私のポケットが振動した。
「電話、掛かって来たみたい」PHSを取り出して見せる。
めったに鳴らないので、その存在を忘れつつあった。
「学生のお前が、なぜそんな物を…」私の手元を覗き込んで言う。
「早く出ろ」
けれど、振動はすぐに止まった。
「あれ?電話じゃないみたい」
どうやら、ショートメールが入ったようだ。
何しろ操作方法など知らない。
神崎さんが、困っている私に手を差し伸べる。
「貸してみろ」
何事もなく操作して、メッセージを表示させた。
「N三十五.二十六.十三.E百三十九.四十.三十七。何かの暗号か?」
「私にも見せて」
しばらくして神崎さんが、「NとEは、何かの頭文字かもしれんな」と突破口を開いてくれる。
「新堂先生が、私に訴える事って…」
「何、新堂先生だと?先生から持たされてたのか」
「他に誰かいる?こんな物で私を縛ろうとするヤツが!何かあったら連絡しろって…」
そこまで口にして、自分が彼に言った言葉を思い出した。
「何かあったんだ。先生があいつに捕まった…!そこへ、行かなきゃ!」
あのハイエナめ。ついに動き出したわね…。
今度こそ容赦しないから!私は強く心に誓った。
「何だって?捕まったってどういう事だ!」
「今噂してた人物の仕業よ。どこまでも憎々しい…!」
私の言葉を聞き、彼が沈黙する。
再び画面を睨む事数分。
「そうか、座標なんだ!北緯三十五度、二十六分、十三秒。東経百三十九度、四十分、三十七秒。神崎さん、地図ある?」
彼が頷いて、座標入りの地図を書棚から出してくれる。
「何でもあるのね!さすが社長室」意味もなく囃し立てる。
異様にテンションが上がって来た。
「そこは…、本牧埠頭のD突堤、か」神崎さんが地図上を指差す。
「一緒に行ってやりたいところだが、これから重要な会議があるんだ」
「一人で平気。ありがとう。ねえ、車、貸してくれる?…返せないかもしれないけど」
「免許取ったのか。構わんよ、好きに使え」
「毎度、恩に着るわ!」
実は、この時点ではまだ無免許だ。それには触れずにお礼だけ言う。
手際良く裏口に社用車が用意される。
私はそれに飛び乗り、座標の示した場所へと大急ぎで向かった。




