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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
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8-(5)

引き続き、神崎商事社長室にて。


「親父に、愛情を感じた事など一度もない」


 毅然としつつも、どこか悲しげな表情で語る神崎さん。


 これには透かさず相槌を打った。

 あんなヤツを好きになる人間なんていない!


 なのに、お母さんは、どうしてあいつなんかと…?


「本当の母親はとっくにいない。友と呼べる連中も皆ライバルだ。こんな、敵ばかりに囲まれて育った」


 私は静かに頷いて、話の続きを待った。


「そこへ、お前という妹の存在が明らかになった」

「神崎さん…」


「例え腹違いであれ、自分に妹がいると知った時は、味方を見つけた心境だったよ」

 神崎さんがやや体を離して、私の方を覗き込んで微笑んだ。


「こんな私でも?神崎さんの味方に、なれてるのかな…」


「もちろんだ。お前と共に過ごすうちに良く分かった。ユイにはそれだけの価値がある。自分を卑下するんじゃない」


「それって、大金をはたいても構わないくらい?」

 気恥かしくなって、こんな事を言ってみる。


「その通りだ」彼は笑った。


「だけど。妹じゃ、ないからね?私」

「ああ…。そうだったな」


 それからしばらく、沈黙の中、お互いの体温だけを感じて過ごした。


「なあユイ?もう一つ確認したい事が…」

 彼がそう切り出した時。


 私のポケットが振動した。


「電話、掛かって来たみたい」PHSを取り出して見せる。


 めったに鳴らないので、その存在を忘れつつあった。


「学生のお前が、なぜそんな物を…」私の手元を覗き込んで言う。

「早く出ろ」


 けれど、振動はすぐに止まった。


「あれ?電話じゃないみたい」

 どうやら、ショートメールが入ったようだ。


 何しろ操作方法など知らない。


 神崎さんが、困っている私に手を差し伸べる。

「貸してみろ」


 何事もなく操作して、メッセージを表示させた。

「N三十五.二十六.十三.E百三十九.四十.三十七。何かの暗号か?」


「私にも見せて」


 しばらくして神崎さんが、「NとEは、何かの頭文字かもしれんな」と突破口を開いてくれる。


「新堂先生が、私に訴える事って…」

「何、新堂先生だと?先生から持たされてたのか」


「他に誰かいる?こんな物で私を縛ろうとするヤツが!何かあったら連絡しろって…」

 そこまで口にして、自分が彼に言った言葉を思い出した。


「何かあったんだ。先生があいつに捕まった…!そこへ、行かなきゃ!」


 あのハイエナめ。ついに動き出したわね…。

 今度こそ容赦しないから!私は強く心に誓った。


「何だって?捕まったってどういう事だ!」


「今噂してた人物の仕業よ。どこまでも憎々しい…!」

 私の言葉を聞き、彼が沈黙する。


 再び画面を睨む事数分。


「そうか、座標なんだ!北緯三十五度、二十六分、十三秒。東経百三十九度、四十分、三十七秒。神崎さん、地図ある?」


 彼が頷いて、座標入りの地図を書棚から出してくれる。

「何でもあるのね!さすが社長室」意味もなく囃し立てる。


 異様にテンションが上がって来た。


「そこは…、本牧埠頭のD突堤、か」神崎さんが地図上を指差す。

「一緒に行ってやりたいところだが、これから重要な会議があるんだ」


「一人で平気。ありがとう。ねえ、車、貸してくれる?…返せないかもしれないけど」

「免許取ったのか。構わんよ、好きに使え」


「毎度、恩に着るわ!」

 実は、この時点ではまだ無免許だ。それには触れずにお礼だけ言う。

 

 手際良く裏口に社用車が用意される。


 私はそれに飛び乗り、座標の示した場所へと大急ぎで向かった。



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