8 ハイエナの再来(1)
再び、新堂との窮屈な生活が始まった。
「行って来ます」
校門前に到着し、いつものように車から降りて新堂に声をかける。
「顔色が良くないが、本当に大丈夫なのか?」
後方に立つ私を振り返って、新堂が再度確認して来る。
家を出る時も同じ事を聞かれていた。
返事もせず手を上げて答える。
彼の反応を待っていると、ため息混じりに頷くのが見えた。
私がそれを確認した次の瞬間には、すでに車は走り去っていた。
「あ~あ…。疲れる」
走り去った車を横目にそう呟いて、コートの前をたぐり寄せた時。
友人二人がやって来た。
「ユイ~!おはよ~」多香子が手を振っている。
「おはよ」
私も控えめに、胸の位置で手を振って答える。
「また送り迎えが始まったって事は、体調、良くないの?」
知子が心配そうに聞いて来る。
アパートに戻ってからは、徒歩で登校していた。
けれど。そんな無理が祟ったのか、正直、今の体調は良いとは言えない。
そうは言っても、実際に徒歩通学したのは、ほんの数日だけなのだが。
「うん、まあ…」
曖昧に頷く私に、「確かに調子、悪そうだよ?」と多香子が顔を覗き込む。
「だから…ほら!あの人怖くって!朝から気を遣って、疲れただけよ」
慌てて言い訳を考え、多香子の肩を叩きながら言ってみる。
「それは災難だわ。気難しそうな人だもんね」
知子が相槌を打ってくれたのでほっとした…。
「でっしょ~?」と喜んだのも束の間。
「それよりユイ、期末試験が近いけど平気?」多香子が軽いジャブを飛ばす。
「全っ然平気じゃな~い!ああ、ますます具合が…」
交わす言葉も見つからずに崩折れる私。
「多香子!ユイをイジメないの!」と知子が助太刀してくれる。
「え~ん、卒業できなかったらどうしよう!」
そんな中、思い出したように知子が言う。
「そう言えばユイ、単位大丈夫なの?授業、結構休んでるでしょ」
彼女までが攻撃側に回る。
「大丈夫だよ。出席日数のかさ増し得意でしょ?遅刻魔の朝霧ユイ!」
さらに、多香子は際どいコメントを吐く。
「ドキッ!バレてる訳…?ちょっとよ、ちょっと」
「ちょっと!そんな事したらダメでしょ!」知子が完全に敵に回った。
「しーっ!知子、声デカいって!」
慌ててなだめに入るけれど…。
「バイトだって黙っててやってるんだよ?」
優等生の知子は、たまり兼ねて私の不正を正そうとし始める。
「神様、仏様、知子様!どうかお見逃しを…!」
両手を合わせて頼み込む私に、ついに知子が折れてくれた。
「仕方ないなぁ…。もうコレっきりだからね?まあ、病気はさ、仕方ないもん。無理するな!」
こんなフォローの言葉さえも、素直に喜べなかった。
この私が病気とは…って、病気なんかじゃない!
こうして。
午前の授業が終わり、昼休みに入る。
「ユイ、昼ご飯は?」チエがお弁当を開けながら聞いて来る。
「いい。食欲ないの。むしろ吐きそう…」
本当は朝からずっと気分が悪かった。
けれど、どうしても学校に来たかったから、新堂には言わなかった。
少しでもあの男と離れていたいじゃない!
「ちょっと~!大丈夫?保健室行こう、保健室」
多香子に腕を引っ張られ、無理やり教室から連れ出される。
保健室にて。
「あら~、朝霧さん。いらっしゃい」
若い女性保健医、津田先生に迎えられる。
「どうも…」
謙虚に答える私に、「今日は仮病じゃなさそうね!」と笑顔で畳みかける津田先生。
多香子も苦笑している。
そんな事を言われたのは、私がよく保健室で仮眠を取っていたから。
何しろ昨年は、深夜まで店のバイトで忙しく…。
その後に勉強の毎日だったので、この時間は貴重な睡眠時間だった。
その上、今じゃこんな具合で…。
「それじゃ、先生、あとよろしく。ユイ、また来るから」多香子が笑顔で手を振る。
「ありがと。ごめんね」と何とか笑顔で答える。
ドアが閉まったのを確認するや、途端に我慢できずにうずくまる。
「もうダメ…」
「朝霧さん!ちょっと、どうしたの?」
異変に気づいた津田先生が駆け寄って来る。
「ゴホ、ゴホッ…!」咳が止まらなくなった。
「大丈夫?しっかりしなさい!」
そんな津田先生の声も薄れて行く。
「気持ち、悪い…」と辛うじて訴えた後、意識は遠退いて行った。




