6-(4)
ここへ来て初めての、一人で過ごす夜。
部屋の電話が鳴った。
『朝霧ユイ。何も問題はないか』新堂からだった。
「ええ、ノー、プロブレムよ。先生の方はお仕事どう?上手く行った?」
『当然だ。だが、まだ帰れない』
「どうぞお構いなく!」と即答する。
『何だか嬉しそうだな』
「そ、そんな事ないけど…」慌てて否定する。
数秒ほど間があり、『まあ、元気そうで安心したよ』と彼がこんな事を言う。
「あら…、心配してくれてたのね~!」大袈裟に驚いてみる。
『患者の心配をするのは当然だ』やや不機嫌な声が返って来た。
「あの、新堂先生?」私は改めて呼びかける。
『何だ』
素っ気ない答えが来る中。
「…ありがとう」と今度は素直に礼を述べてみた。
再び数秒の沈黙の後、新堂があっさり言う。
『調子に乗って夜更かしするなよ、じゃあな』
そして。
電話は一方的に切られてしまった。
「もう…、何よ!何であの人は〝どういたしまして〟が言えないの?」
受話器を乱暴に戻しながら文句を言った。
少々興奮したせいか、息苦しさを感じて、幾らか気分が悪くなって来る。
慌ててキッチンで水を汲んで飲み干してみる。
やはり、疲れが出たみたい。
止められていた体育の授業、しかも柔道はさすがにキツかったか…。
けれど。あの程度で疲れたなんて我が師匠が知ったら、半殺しのお仕置きをされる事間違いなしだ…!
キハラ・アツシのスパルタ教育は、それはそれは厳しかった。
その甲斐あって、今日の柔道だけでなく武道全般、ほぼ完璧なのだ!
翌日。
今日は土曜で学校も休み。
私は久々のプライベートタイムを楽しんでいた。
「サイアク!私の今日の運勢、最下位だったの!どうりで収穫がなかった訳だわ。ユイは?」
知子が嘆いている。
「私は…何と一位!」胸を張って腰に手を当てながら答える。
友人と三人でウインドウショッピングの帰り、喫茶店で星座占いの話題で盛り上がった。
「それで、いい事、何かあった訳?」とチエ。
「ふふ!まあね~」ニヤニヤしながら答える。
けれども、自分を縛り付けている男が不在なので、とは言えるはずもなく…。
「そっか~、やっぱ一位だといい事あるんだ」
知子が話題を戻してくれて助かった。
「テンション、上がるもんね~!」チエも賛同する。
「そうそう!」終始ご機嫌の私。
「ねえユイ!ずっと聞きたかったんだけど…。赤尾先輩と、まだ付き合ってるんでしょ?どこまで行ったのよ?教えなさい!」知子が私に聞いて来る。
「え…」突然の質問に、タジタジになる。
「そうよ!最近、黒の外車の人が迎えに来てるけど。あれ、どう見ても赤尾先輩じゃないもんね」と、チエが私に疑いの視線を向ける。
さすが女子の目は鋭い。「だからあれは…」
慌てて説明しようとするも遮られる。
「ないない!だって赤尾先輩、医学部に行ったのよ?そんな暇、ないって!」と知子。
「知子には言ったでしょ、あれはウチの運転手!」ようやく弁解する。
「ああ、そうだった」
そう答える知子だけど…。
わざと忘れたフリをしたと見た!
「何だ。そうなの。てっきり新しい彼氏かと思った!」がっかりするチエ。
「で?先輩とはどうなのよ」知子が話題を戻す。
「うん…。それが実は、自然消滅っていうか…」
「え~!ウソ!それ聞いたら、多香子、怒るよね、きっと」とチエ。
「え?」チエの言っている事が理解できずに聞き返す。
「知らないの?多香子、先輩の事好きだったのよ」あっさりと衝撃の告白をするチエ。
「…そう、なの?!」
立ち上がって本気で驚く私。
「まあまあ、男女の仲は複雑なのよ。ねえユイ」と知子がフォローを入れてくれる。
「そう、なの…」再び答えながら、脱力して席に着く。
多香子は一番の親友だ。
私が先輩と付き合う事になった時、あんなに喜んでくれたのに…?
応援してくれていたのに。本当は多香子も、先輩を好きだったなんて…。
本当に、フクザツ。
二人と別れて、重い足取りでマンションへ戻る。
ベランダに出て、ぼんやりと夕暮れの空を見上げた。
「あ~あ。私、先輩と付き合わなきゃ良かったな…」
そんな事を呟いた時。
玄関の開く音がした。
「外は冷えて来た。そんな所で何をしている?」
新堂が、ベランダにいた私に声をかけた。
「先生。お帰りなさい」振り返ってその場で出迎える。
「体調は?」真っ直ぐに私の方にやって来て言う。
「平気」
「私が帰って、そんなにがっかりしたか」
「そうじゃないよ」
「電話越しでは、あんなにテンション高かったのにな」
こんな嫌味にも反論せず、「女子高生の悩みは尽きないの!」とだけ言った。
これでも私、今、結構落ち込んでるんですけど?
こういう切ない想いを経験しながら、大人になって行くのです!




