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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
27/215

6-(4)


 ここへ来て初めての、一人で過ごす夜。


 部屋の電話が鳴った。


『朝霧ユイ。何も問題はないか』新堂からだった。


「ええ、ノー、プロブレムよ。先生の方はお仕事どう?上手く行った?」

『当然だ。だが、まだ帰れない』


「どうぞお構いなく!」と即答する。

『何だか嬉しそうだな』


「そ、そんな事ないけど…」慌てて否定する。


 数秒ほど間があり、『まあ、元気そうで安心したよ』と彼がこんな事を言う。

「あら…、心配してくれてたのね~!」大袈裟に驚いてみる。


『患者の心配をするのは当然だ』やや不機嫌な声が返って来た。


「あの、新堂先生?」私は改めて呼びかける。

『何だ』


 素っ気ない答えが来る中。

「…ありがとう」と今度は素直に礼を述べてみた。


 再び数秒の沈黙の後、新堂があっさり言う。

『調子に乗って夜更かしするなよ、じゃあな』


 そして。

 電話は一方的に切られてしまった。


「もう…、何よ!何であの人は〝どういたしまして〟が言えないの?」

 受話器を乱暴に戻しながら文句を言った。


 少々興奮したせいか、息苦しさを感じて、幾らか気分が悪くなって来る。


 慌ててキッチンで水を汲んで飲み干してみる。


 やはり、疲れが出たみたい。

 止められていた体育の授業、しかも柔道はさすがにキツかったか…。


 けれど。あの程度で疲れたなんて我が師匠が知ったら、半殺しのお仕置きをされる事間違いなしだ…!


 キハラ・アツシのスパルタ教育は、それはそれは厳しかった。

 その甲斐あって、今日の柔道だけでなく武道全般、ほぼ完璧なのだ!


 翌日。


 今日は土曜で学校も休み。

 私は久々のプライベートタイムを楽しんでいた。


「サイアク!私の今日の運勢、最下位だったの!どうりで収穫がなかった訳だわ。ユイは?」

 知子が嘆いている。


「私は…何と一位!」胸を張って腰に手を当てながら答える。


 友人と三人でウインドウショッピングの帰り、喫茶店で星座占いの話題で盛り上がった。


「それで、いい事、何かあった訳?」とチエ。

「ふふ!まあね~」ニヤニヤしながら答える。


 けれども、自分を縛り付けている男が不在なので、とは言えるはずもなく…。


「そっか~、やっぱ一位だといい事あるんだ」

 知子が話題を戻してくれて助かった。

「テンション、上がるもんね~!」チエも賛同する。


「そうそう!」終始ご機嫌の私。


「ねえユイ!ずっと聞きたかったんだけど…。赤尾先輩と、まだ付き合ってるんでしょ?どこまで行ったのよ?教えなさい!」知子が私に聞いて来る。


「え…」突然の質問に、タジタジになる。


「そうよ!最近、黒の外車の人が迎えに来てるけど。あれ、どう見ても赤尾先輩じゃないもんね」と、チエが私に疑いの視線を向ける。


 さすが女子の目は鋭い。「だからあれは…」


 慌てて説明しようとするも遮られる。

「ないない!だって赤尾先輩、医学部に行ったのよ?そんな暇、ないって!」と知子。


「知子には言ったでしょ、あれはウチの運転手!」ようやく弁解する。

「ああ、そうだった」

 そう答える知子だけど…。


 わざと忘れたフリをしたと見た!


「何だ。そうなの。てっきり新しい彼氏かと思った!」がっかりするチエ。

「で?先輩とはどうなのよ」知子が話題を戻す。


「うん…。それが実は、自然消滅っていうか…」

「え~!ウソ!それ聞いたら、多香子、怒るよね、きっと」とチエ。


「え?」チエの言っている事が理解できずに聞き返す。


「知らないの?多香子、先輩の事好きだったのよ」あっさりと衝撃の告白をするチエ。

「…そう、なの?!」

 立ち上がって本気で驚く私。


「まあまあ、男女の仲は複雑なのよ。ねえユイ」と知子がフォローを入れてくれる。


「そう、なの…」再び答えながら、脱力して席に着く。


 多香子は一番の親友だ。

 私が先輩と付き合う事になった時、あんなに喜んでくれたのに…?


 応援してくれていたのに。本当は多香子も、先輩を好きだったなんて…。 

 本当に、フクザツ。


 二人と別れて、重い足取りでマンションへ戻る。


 ベランダに出て、ぼんやりと夕暮れの空を見上げた。

「あ~あ。私、先輩と付き合わなきゃ良かったな…」


 そんな事を呟いた時。


 玄関の開く音がした。


「外は冷えて来た。そんな所で何をしている?」

 新堂が、ベランダにいた私に声をかけた。


「先生。お帰りなさい」振り返ってその場で出迎える。


「体調は?」真っ直ぐに私の方にやって来て言う。

「平気」


「私が帰って、そんなにがっかりしたか」

「そうじゃないよ」


「電話越しでは、あんなにテンション高かったのにな」

 こんな嫌味にも反論せず、「女子高生の悩みは尽きないの!」とだけ言った。


 これでも私、今、結構落ち込んでるんですけど?


こういう切ない想いを経験しながら、大人になって行くのです!

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