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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
25/215

6-(2)


 それはまるで、カゴの中の小鳥のような生活だった。


 閉ざされた空間で、生け捕りにされた小動物的心境。


 しかも、生け捕ったのはこの情け容赦のない男!


「点滴をするぞ」新堂が有無を言わさず言い放つ。

「あ~あ。早く解放されたいものだわ…」


 ここへ来て、少々体調が優れず、また点滴三昧。

 毎日のように受けている点滴や注射のせいで、私の左腕には針の跡が痛々しかった。

 

 新堂が、そんな左腕を見つめた後。


「たまには、そっちにしようか」と言って、新堂が右腕を掴む。

「え?」


 驚いている私をよそに、新堂は何事もなく針を刺し込んだ。


「…うまいのね」

「何がだ」目も合わせずに聞いて来る。


「前にも、こっちにしてくれたでしょ。あれ、やっぱり新堂先生だったのね」


「どっちだって一緒だ。だったら何だ」

 何を言われているのか分からない様子。


「中里さんにね、私の右腕は血管が細いからできないって、言われた事があるから」

「はっはっは!アイツなら言い兼ねない。未だにそんな事を言っているとは!」


 いつまでも笑っている新堂に、中里さんが可哀想に思えて。

「でも、あの人は医師免許持ってるってね!」とつい口に出てしまった。


「だから何だ」


「な、何でも、アリマセン…」

 今度は本当に機嫌を損ねた様子の新堂に、怖気づく私なのだった。


 それから数日後。


 新堂の指示通りの生活を続けたためか、すぐに体調は良くなった。

 そして順調に回復しつつある自分に、絶対安静を強要する新堂が鬱陶しくなって来る。


「ねえ、先生?私、もう学校に行ってもいいでしょ」

 毎日毎日、寝てばかりなんて。体がサビちゃう!と、心の中だけで続ける。


 私の強い視線を受けて、新堂が少し考えた後。

「だが、まだ咳が出てるだろう」と指摘する。


「激しく動くと少しよ。だから、静かにしてれば平気でしょ」


 またしばらく考えて、「では、通学時は私が送って行こう」と提案される。

「い!いいよ、そんな事…。恥ずかしいじゃない!子供じゃあるまいし」


 実は中学まで、師匠兼監視役のキハラに、黒塗りの車で運ばれていた。

 それも強制的に、まさに〝運ばれて〟いたのだ。


 そんな事を思い出しつつ、彼がちょっぴりキハラと被る。


「断るなら、まだ登校は許可できないな」

「いい加減、授業受けないと、卒業できないんですけど…!」


「私はどちらでも構わんが」

「もう…!分かったわよ、お願いします!」


 やはりこの男に譲歩という文字はないらしい。


 結局。新堂の送迎を受け入れて、何とか学校生活を再開した。


・・・


「ねえユイ!あの人誰?お家の人?…ヤクザの」

 多香子が走り去る黒ベンツを見て駆け寄る。


「まあ、そんなとこ…。気にしないで!」

 サングラスを掛けた新堂を見て思った。どこから見てもヤクザだと!


 自分の家がヤクザだなんて公言した覚えはない。


 ただ、家にガラの悪い連中が出入りしている事は周知の事実であり…。

 一部の教師や生徒は、そんな家の娘である私を恐れている。


 でも、ここの大半の人達は何とも思っていないみたい。それもこれも、私の人柄の良さのお陰?


「久しぶりじゃない!体調、戻ったの?」続いて知子がやって来る。

「心配してくれてありがと。大丈夫よ」


「入院してたって聞いたよ。ごめんね、お見舞いも行けなくて…」

 申し訳なさそうに言う多香子。


「全然!大した事なかったから」


 学校には入院したと報告してあるらしい。

 本当はこれでも、生死を彷徨ったのだ。そして、まだ完治した訳じゃない。


 その上、現在男の家に居候中などとは、間違っても言えない…!



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