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それはまるで、カゴの中の小鳥のような生活だった。
閉ざされた空間で、生け捕りにされた小動物的心境。
しかも、生け捕ったのはこの情け容赦のない男!
「点滴をするぞ」新堂が有無を言わさず言い放つ。
「あ~あ。早く解放されたいものだわ…」
ここへ来て、少々体調が優れず、また点滴三昧。
毎日のように受けている点滴や注射のせいで、私の左腕には針の跡が痛々しかった。
新堂が、そんな左腕を見つめた後。
「たまには、そっちにしようか」と言って、新堂が右腕を掴む。
「え?」
驚いている私をよそに、新堂は何事もなく針を刺し込んだ。
「…うまいのね」
「何がだ」目も合わせずに聞いて来る。
「前にも、こっちにしてくれたでしょ。あれ、やっぱり新堂先生だったのね」
「どっちだって一緒だ。だったら何だ」
何を言われているのか分からない様子。
「中里さんにね、私の右腕は血管が細いからできないって、言われた事があるから」
「はっはっは!アイツなら言い兼ねない。未だにそんな事を言っているとは!」
いつまでも笑っている新堂に、中里さんが可哀想に思えて。
「でも、あの人は医師免許持ってるってね!」とつい口に出てしまった。
「だから何だ」
「な、何でも、アリマセン…」
今度は本当に機嫌を損ねた様子の新堂に、怖気づく私なのだった。
それから数日後。
新堂の指示通りの生活を続けたためか、すぐに体調は良くなった。
そして順調に回復しつつある自分に、絶対安静を強要する新堂が鬱陶しくなって来る。
「ねえ、先生?私、もう学校に行ってもいいでしょ」
毎日毎日、寝てばかりなんて。体がサビちゃう!と、心の中だけで続ける。
私の強い視線を受けて、新堂が少し考えた後。
「だが、まだ咳が出てるだろう」と指摘する。
「激しく動くと少しよ。だから、静かにしてれば平気でしょ」
またしばらく考えて、「では、通学時は私が送って行こう」と提案される。
「い!いいよ、そんな事…。恥ずかしいじゃない!子供じゃあるまいし」
実は中学まで、師匠兼監視役のキハラに、黒塗りの車で運ばれていた。
それも強制的に、まさに〝運ばれて〟いたのだ。
そんな事を思い出しつつ、彼がちょっぴりキハラと被る。
「断るなら、まだ登校は許可できないな」
「いい加減、授業受けないと、卒業できないんですけど…!」
「私はどちらでも構わんが」
「もう…!分かったわよ、お願いします!」
やはりこの男に譲歩という文字はないらしい。
結局。新堂の送迎を受け入れて、何とか学校生活を再開した。
・・・
「ねえユイ!あの人誰?お家の人?…ヤクザの」
多香子が走り去る黒ベンツを見て駆け寄る。
「まあ、そんなとこ…。気にしないで!」
サングラスを掛けた新堂を見て思った。どこから見てもヤクザだと!
自分の家がヤクザだなんて公言した覚えはない。
ただ、家にガラの悪い連中が出入りしている事は周知の事実であり…。
一部の教師や生徒は、そんな家の娘である私を恐れている。
でも、ここの大半の人達は何とも思っていないみたい。それもこれも、私の人柄の良さのお陰?
「久しぶりじゃない!体調、戻ったの?」続いて知子がやって来る。
「心配してくれてありがと。大丈夫よ」
「入院してたって聞いたよ。ごめんね、お見舞いも行けなくて…」
申し訳なさそうに言う多香子。
「全然!大した事なかったから」
学校には入院したと報告してあるらしい。
本当はこれでも、生死を彷徨ったのだ。そして、まだ完治した訳じゃない。
その上、現在男の家に居候中などとは、間違っても言えない…!




