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大嫌いは恋の始まり  作者: 氷室ユリ
第一章 大キライな人を守る理由
19/215

4-(3)

引き続き、片岡総合病院にて。


 光が、煌々と私を照らしている。

 今が、昼なのか夜なのか、その判別もつかないほどの明るさだ。

 

 ぼんやりしながら、重い瞼を何とか開いて、辺りを眺める。


 窓のカーテンが閉まっているのに気づき、ようやく夜だと分かった。


 胸に取り付けられた心電図モニターが、絶え間なく規則的な音を鳴らしている。

 両腕に点滴がしてあった。


 血管が細いはずの、右腕にも…。


 それを見つめた後、口元の酸素マスクを勝手に外し、大きく息を吸ってみる。

「まあまあね」


 勝手に判断して起き上がる。

 相変わらず変な咳が出て、頭がクラクラした。

 

 その時。


「勝手な事をされては困る」

 いきなりドアが開き、新堂が姿を現した。


「そっちこそ、勝手に入らないでよ」


 負けずに言い返す私に、ツカツカと近づく新堂。

 マスクは再び私に取り付けられた。


「いらないってば!」と一度は払い退けたけれど、強制的に付けられてしまう。


「だいぶ体力が戻ったようだな」ニコリともせずに言う。

「お陰様で!」と返した直後、息苦しさを感じて目を閉じる。そして咳き込む。


「君の肺に障害が起きている。熱はだいぶ下がったが、まだ微熱が続いている状態だ」


 新堂は私を見下ろして続ける。

「この点滴を三日間続けて様子を見る。肺の炎症が治まってくれば、息苦しさも咳も徐々に良くなるだろう」


「三日…。今日は、何日!?」息切れを起こしつつ尋ねる。


 ふと約束の日を思い出した。

 あれから一体、何日が過ぎたのだろう。


「ギリギリ、ちょうど今日で一週間だな。おかしな再会だったが」

 新堂のこの言葉で、もうすぐ今日が終わるのだと分かる。


「それじゃ、改めて…」


「朝霧ミサコのオペはすでに済んでいる。安心しろ、彼女はもう大丈夫だ。あと、三十年は生きられるだろう」


「え?どういう事…?」

「どうもこうもない。今言った通りだ」


「お母さん、助かったの?…死なないのね!」

 たちまち涙が込み上げる。もちろん、喜びの涙だ。


「でも私、まだ報酬を支払ってないのに…」


 ここで、先日の片岡先生と新堂の会話にピンと来た。気紛れで受けた依頼というのは、母の手術だったのだと。


「中里から預かった分は、そのまま戴くぞ」無表情で淡々と口にする。

「ヤツとの契約は、二千万で間違いないのか?」


「…はい?」始めは何を言われているのか分からなかった。


「私との契約金額を誤っているのではと思ったからさ」

 

「…ご心配なく!残りのお金も用意してありますから」すぐさま言い返す。


 せっかくこの男を見直していたところだったのに…。

 呆気なく怒りの感情が生まれた。


「二千万は間違いじゃなかったのか…」まだブツブツ言っている。

「何よ、間違いって。何か文句ある訳?」


「いや、こっちの話だ。しかし恐れ入ったね。こんな事までするとは!」


「うるさいわね。余計なお世話よ。これくらいしないと、作れない金額って事よ。覚えておいてね、新堂先生」

 これに対しては、返答はなかった。


「それにしてもだ…。下手をすれば死んでいたんだぞ?分かっているのか!」

「分かってるに決まってるでしょ!」負けずに声を張り上げたつもり。


「まるで自殺行為だな」吐き捨てるように言って来る。


「お母さんを助けるためなら、何だってするわ」


「中里が言っていたが、始めから貧血だったって?君の体は全て検査したが、どこからも出血は見られない。造血機能にも問題はない。つまり…」

「な、何よ…」


「意図的に抜き取った」


「どうしようと、あなたには関係ないでしょ!」


 少し考えた後に新堂が言う。

「まあな。臓器売買や、売春行為までされなくて良かったよ」


「な…!何ですって?」

「その疑いは晴れている。安心しろ」


 臓器の売買なんて、義男みたいな事をする訳がないじゃない!それに売春だなんて…。

 どこまで私を蔑むつもり?


 この男といると気分は最悪!


 早急に話を終わらせて一人になりたい。


「残りのお金だけど。お母さんの病室の、一番奥のロッカーにある。どうぞ持って行ってください」

 これまでとは打って変わって小声で告げる。


「いや。急がないから、君が持って来てくれ」


 さすがに患者のロッカーを、勝手に暴く事はできないらしい。


「くれぐれも大人しく寝ているように。あまり興奮すると、今みたいに苦しい思いをする事になるぞ」


「誰がそうさせたのよ!」と言い返して咳き込む。


「何かあったら呼んでくれ」

 私の言葉など耳に入らなかったように、点滴の具合だけを確認すると、新堂は部屋を出て行った。


 どっと疲れが出た。

 医者ならもっと患者を心配してくれてもいいだろうに!


 母の手術のお礼を言うのも忘れて、不機嫌な眠りについたのだった。



後書き:薬害問題は、現実世界でも深刻です…。(◞‸◟)

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