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引き続き、片岡総合病院にて。
光が、煌々と私を照らしている。
今が、昼なのか夜なのか、その判別もつかないほどの明るさだ。
ぼんやりしながら、重い瞼を何とか開いて、辺りを眺める。
窓のカーテンが閉まっているのに気づき、ようやく夜だと分かった。
胸に取り付けられた心電図モニターが、絶え間なく規則的な音を鳴らしている。
両腕に点滴がしてあった。
血管が細いはずの、右腕にも…。
それを見つめた後、口元の酸素マスクを勝手に外し、大きく息を吸ってみる。
「まあまあね」
勝手に判断して起き上がる。
相変わらず変な咳が出て、頭がクラクラした。
その時。
「勝手な事をされては困る」
いきなりドアが開き、新堂が姿を現した。
「そっちこそ、勝手に入らないでよ」
負けずに言い返す私に、ツカツカと近づく新堂。
マスクは再び私に取り付けられた。
「いらないってば!」と一度は払い退けたけれど、強制的に付けられてしまう。
「だいぶ体力が戻ったようだな」ニコリともせずに言う。
「お陰様で!」と返した直後、息苦しさを感じて目を閉じる。そして咳き込む。
「君の肺に障害が起きている。熱はだいぶ下がったが、まだ微熱が続いている状態だ」
新堂は私を見下ろして続ける。
「この点滴を三日間続けて様子を見る。肺の炎症が治まってくれば、息苦しさも咳も徐々に良くなるだろう」
「三日…。今日は、何日!?」息切れを起こしつつ尋ねる。
ふと約束の日を思い出した。
あれから一体、何日が過ぎたのだろう。
「ギリギリ、ちょうど今日で一週間だな。おかしな再会だったが」
新堂のこの言葉で、もうすぐ今日が終わるのだと分かる。
「それじゃ、改めて…」
「朝霧ミサコのオペはすでに済んでいる。安心しろ、彼女はもう大丈夫だ。あと、三十年は生きられるだろう」
「え?どういう事…?」
「どうもこうもない。今言った通りだ」
「お母さん、助かったの?…死なないのね!」
たちまち涙が込み上げる。もちろん、喜びの涙だ。
「でも私、まだ報酬を支払ってないのに…」
ここで、先日の片岡先生と新堂の会話にピンと来た。気紛れで受けた依頼というのは、母の手術だったのだと。
「中里から預かった分は、そのまま戴くぞ」無表情で淡々と口にする。
「ヤツとの契約は、二千万で間違いないのか?」
「…はい?」始めは何を言われているのか分からなかった。
「私との契約金額を誤っているのではと思ったからさ」
「…ご心配なく!残りのお金も用意してありますから」すぐさま言い返す。
せっかくこの男を見直していたところだったのに…。
呆気なく怒りの感情が生まれた。
「二千万は間違いじゃなかったのか…」まだブツブツ言っている。
「何よ、間違いって。何か文句ある訳?」
「いや、こっちの話だ。しかし恐れ入ったね。こんな事までするとは!」
「うるさいわね。余計なお世話よ。これくらいしないと、作れない金額って事よ。覚えておいてね、新堂先生」
これに対しては、返答はなかった。
「それにしてもだ…。下手をすれば死んでいたんだぞ?分かっているのか!」
「分かってるに決まってるでしょ!」負けずに声を張り上げたつもり。
「まるで自殺行為だな」吐き捨てるように言って来る。
「お母さんを助けるためなら、何だってするわ」
「中里が言っていたが、始めから貧血だったって?君の体は全て検査したが、どこからも出血は見られない。造血機能にも問題はない。つまり…」
「な、何よ…」
「意図的に抜き取った」
「どうしようと、あなたには関係ないでしょ!」
少し考えた後に新堂が言う。
「まあな。臓器売買や、売春行為までされなくて良かったよ」
「な…!何ですって?」
「その疑いは晴れている。安心しろ」
臓器の売買なんて、義男みたいな事をする訳がないじゃない!それに売春だなんて…。
どこまで私を蔑むつもり?
この男といると気分は最悪!
早急に話を終わらせて一人になりたい。
「残りのお金だけど。お母さんの病室の、一番奥のロッカーにある。どうぞ持って行ってください」
これまでとは打って変わって小声で告げる。
「いや。急がないから、君が持って来てくれ」
さすがに患者のロッカーを、勝手に暴く事はできないらしい。
「くれぐれも大人しく寝ているように。あまり興奮すると、今みたいに苦しい思いをする事になるぞ」
「誰がそうさせたのよ!」と言い返して咳き込む。
「何かあったら呼んでくれ」
私の言葉など耳に入らなかったように、点滴の具合だけを確認すると、新堂は部屋を出て行った。
どっと疲れが出た。
医者ならもっと患者を心配してくれてもいいだろうに!
母の手術のお礼を言うのも忘れて、不機嫌な眠りについたのだった。
後書き:薬害問題は、現実世界でも深刻です…。(◞‸◟)




