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そう、私は高校生にして、あらゆる技術を持っていた。
それは幼い頃から叩き込まれて来た格闘技や護身術。
中学に入ってからは、射撃に語学。
高校生になって、ヘリコプターや船舶の操縦まで覚えた。
なぜそんな事ができたかというと…。
朝霧家は広大な敷地を有していて、敷地内には射撃場やトレーニングスペース、ヘリポートまでがあったから。
義男がライフルの免許を所持していたので、射撃場もある。
その弾丸の保管庫や武器庫など、様々な倉庫がある。
そのほとんどは違法なシロモノなのだが…。
もちろんヘリコプター完備、専属のパイロットも雇っていた。いつでも逃避行できるようにと、そんな義男の魂胆が見え見えだ。
そのだだっ広い敷地で、中学の頃から車を乗り回していた。
だから、高校生にしてすでに、車の運転なんて余裕だった。
これらを指導してくれたのは、私の最愛の師匠、キハラ・アツシ。
彼は、義男が雇う従業員(ヤクザ?)の一人で、年は神崎さんくらいだと思う。
身長百八十を有に超える、色黒の軍人みたいな男。
様々な言語を操り、何でもできて、めっぽう強い。
そんなキハラは、義男にとても気に入られていたようで、ヤクザ家業の他に、私の教育係という名の監視役を任されていた。
それはまさに適任!
どこに逃げ隠れしようとも、容易に私を見つけ出しては、連れ戻された。
最初は嫌で逃げていたけれど、それがいつの間にか…。
〝売られたケンカは買え〟というのも彼の教え。
ついでに、煙草の吸い方も彼に教わった。これだけは誰にも内緒だけど…!
私達は、最高の師弟関係だった。
去年、私が家を出た時に、キハラも朝霧家を離れたようだけど、詳しい事は知らない。
それ以来、この愛しの師匠とは会っていない。
「おい、そんなに考えるなよ!」
彼の声で現実に引き戻される。
いつまでも黙り込んでいる私に、痺れを切らしたようだ。
「神崎さん、何かスポーツしてるでしょ。背も高いし、バスケとか?」
話題を変えてみる。
出会った夜、ホテルの部屋で上着を脱いだ彼を見て思った事だ。
「いいや。こっちだ」そう言って、座ったままシャドーボクシングをして見せる。
「なるほど、そっちね!」
思わず納得した。機敏そうな身のこなしが、それを現していた。
「ケンカには自信あるんだ」悪戯っぽい目になって言う。
「ふふっ!そっか。なら他に何か、私にできる事は…」
「こうして、付き合ってくれるだけで十分だよ」
彼の肩が、私の肩に当たった。私達は顔を見合わせて笑った。
・・・
こうして手に入れた大金は、お見舞いがてら母の病院へ運んだ。
母を個室に移してくれた事が役に立った。
何しろこの部屋には、たくさん収納場所があるから。
「ごめん、ここに置かせといてね…」
母が眠っている間に、病室に備え付けられた一番奥のロッカーに、札束入りのバッグを押し込む。
神崎さんが用意してくれた、見るからに大金が入っていそうなシルバーのアタッシュケースから、カジュアルなバッグに詰め直すのも忘れずに。
そこに私の全財産の五十万と、先日の四百五十万も一緒に入れた。
これでトータル三千万。あとひと分張りだ。
「ユイ…?来てたの」
「お母さん!ごめん、起こしちゃったね」
口から心臓が飛び出そうになりながらも、平静を装って答える。
「いいのよ、むしろ起こしなさい。あなたが来てくれてるんだったら、会いたいから」
そう言った母の笑顔は神々しく、何だか後ろめたい気持ちになった。
「うん…。ねえお母さん、もう少し頑張ってね。絶対に病気、治してあげるから」
「あら。ユイがお医者さんになってくれるのかしら」楽しげに言う。
「まさか!ムリムリ!言ってるでしょ、私、お巡りさんになりたいんだってば」
これは本当で、幼い頃から警察官に憧れていた。不正を正す、正義の味方。
採用試験も受けようと思っている。
でも、家を…父親を調べられたら、即不採用だろうけど。
「ああそれと、私の私物、そこに入れさせてもらってるけど、気にしないでね」
ここはなるべく、さり気なく言う。
「ええ、どうぞ。私一人には広すぎる部屋だもの。ご自由に使ってくださいな」
予想通りの回答が返って来てほっとする。
これで、当日私が運べなくなっても大丈夫だ。
「それよりユイ?何だかあなた、顔色が良くないわ。どこか具合でも悪いの?」
「え?そんな事ないって!ちょっと…生理痛が酷いだけ」
事情は違えど、貧血には間違いない。
体調が完全に戻るまでには、三週間位はかかると言われた。
私が今している事を母が知ったら、さぞ悲しむだろう。
けれど、手段を選んでいる時間はもう残されていない。
ここまで来たら、前に突き進むしかない!
朝霧ユイは、華奢な見た目とは裏腹に、まさにスーパー女子高生なのです!憧れます。ホント。




