~導入~チャプター2
父親の工房から飛び出した少年は居心地の悪さから村一番の大木に向かった。
大木の側には流れの緩やかな川が流れており、現在は季節で言うところの夏であるが、とても爽やかな風が吹いている。
大木にはなぜだか扉が取り付けてあり、部屋が1つある。
そこには、少年にとってのもう一人の家族が住んでいる。
その人の名はリンネ・A・レコードという。
リンネと少年は見た目こその年齢差はないが、実の親子である。
「母さんいるか?」
部屋を覗くと大きな別途ベットが中央に置いてあった。そこにいた女性がアランの事に気がつき上体を起こした。そしてあくびを数回した後ベットに座り込んだ。
「ふふふ、この中でしか生きられない私が外にいるわけないでしょ。面白い子ね。
ここに来たと言うことはまたクロノと喧嘩したみたいね」
リンネはポンポンと軽く布団を片手で叩いてアランを招いた。
「あの爺、俺にはチノ遺跡を発見できないと言い切りやがったんだ。仮にも父親なら息子の夢を応援するのが筋ってものだろ?」
アランは日頃のうっぷんをぶつけた。
「あの人はね、筋金入りの頑固者だけれど決して自分のわがままだけは言わないの。必ず理由があるみたい」
「だったらはじめからそれを言えばいいんだよ。回りくどいからだめなんだよ」
「でもね、大人の事情で全てを教えるわけにはいかない時があることはアランもよく知っているでしょ」
「母さん大人の事情とかいって論点をはぐらかさないでくれよ」
「そういうつもりはなかったんだけど、ごめんね。 アランならいずれチノ遺跡にたどりつけると私は信じているよ」
「応援してくれるのか?」
「もちろん、子の応援をするのは親の勤めだもの。私にできることはそれぐらいだからね。そうだ、折角だからこれをお守りとして村の外でもきっとアランを守ってくれるよ」
リンネは握り拳をアランに向けた。
アランは拳の下に手を開くと何やら小さなものがそこに落とされた。
「これは?」
「これは、たとえ自分の居場所を見失っても必ず還る事が出来るように私の祈りを込めた指輪。
効き目は抜群、動作保証つき。24回分割払い」
「まるで製品の宣伝文句みたいだな。ところで、分割払いってなんだよ」
「この指輪は、所有者の“未知のエネルギー(MP)“を消費して動くんだけどね。私の技術力では、消費があまりにも大き過ぎて人間では扱うことが出来ないという問題点があってね。それを改善するために“魔水晶“と呼ばれる世界でも現存するものは殆ど無いと言われる特別な人工鉱石を埋め込んであるの」
指輪には確かに2センチメートル程の少し大きめの大きさで、色はまるでアメジストのようであった。
「へえー、胡散臭い物だけどまあお守りとしてはなかなかの物だ。気に入った」
「それは良かった。ところで、村を出ていくのはいつにしたの?」
「申し込み身支度は終わっているから今すぐにでも出ていける。もしかしてやめろとか言うのか?」
「ううん、そういう事は言わないけど、無事に帰ってきてね」
「ああ!」
こうしてアランは母親に旅立つ事を伝え、村を出た。