第1章 再びの出会い
俺は落ちていた。
「うわぁぁぁ」
「これも、久々だな」
それをルイがキャッチした。その形はお姫様抱っことなっていた。
「早く降ろして下さい!」
「へいへい。事務所まで、我慢しろ」
「えっ、ちょっと。待った」
ルイは黒い翼を広げ、俺を抱いたまま、飛び去った。
うわぁぁぁ。
人が見ている。
凄く恥ずかしかった。
死神が集まり、色々やる為に事務所がある。
雑居ビルの2階にルイの所属する事務所がある。
俺はここでやっと降ろして貰えた。
「歩けるわ!」
「こっちの方が早いだろう?」
「そう言う問題じゃなく、人が見ているだろう」
「そうか? 気にするな」
「気にするわ!」
このやりとりも懐かしい。
俺とルイは2階の事務所に顔を出した。
「トオル君。久しぶり」
金髪の美女、リフィルが出迎えた。
3年前に見た時と変わらない感想となるが、本当に美しい。
その美女が俺を抱き締めた。
大きく柔らかい胸が俺の顔を覆う。
「大きくなったんだ」
「ええ、まあ」
とは言ったけど、まだ、俺よりリフィルさんの方が少し大きい。
まあ、身長は気にしない事にした。
俺は思春期で、この胸に顔を当てられる状況下に興奮していたからだ。
「それより、ルルは無事か?」
「ええ、ルイの部屋にいるわよ」
「分かった。おい、行くぞ」
「はい」
「ねえ、ルイ」
「はいはい。雑談は後な」
「もう」
どうやら、2人の関係性に発展は無いようだ。
まだ、幸せにしていなかったとは……。
ルイの部屋は3階にある。
ああ、これも変わっていなかった。
「久しぶりだな。また、ゲームしような」
「それより、ルルです」
「おう、そうだったな。様子見てくるから、ちょっと待ってろ」
「うん」
ルイは扉を開けた。
「ルルいるか?」
ルイは扉を閉める。
『悪魔。遅いわよ!』
ルルの大きな声が外まで聞こえる。
何だ。元気じゃないか。
『悪かったな。具合はどうだ?』
壁に耳に当てるとルイの声も辛うじて聞こえる。
入口近くにいるからだ。
『よくないわよ!』
『そうか』
一応、心配しているみたいだ。
『トオル様は?』
『勿論、連れてきたよ』
『早く会わせなさいよ!』
『へいへい。んでも、その恰好でいいのか?』
『ダメなの?』
『まあ、一応、着替えた方がいいんじゃないか? トオルだって、大きくなっていたからな。あれから、3年経っていたよ。そんな恰好だったら、笑われるかもよ』
『早く言ってよ!』
ルルは部屋から離れて行ったようだ。
声が遠のいて行った。
いったいどんな格好していたんだろう?
俺は一生分からなかった。
ルイが出てきた。
ってか、ルイに見せられて、俺に見せられない恰好って何?
「悪いな。ちょっと待ってな」
「ルル。元気そうじゃないですか」
「まあ、俺が一時的に留めているからな」
ルイの死神としての能力だ。
死神は1人に1つそれぞれ能力を待っている。
ルイは物体を留めたり、思い出を留めたり、何でもいいが留める力を持つ。
それが、死神固有が持つ能力で、ルイには特別な死神で、もう1つ持っていた。
それは創造と呼ばれるある意味最強の力である。
この世界において、創造は全てである。
人間は創造すれば、何でも出来る世界で、人間と同じとまでは言えないが、ある程度の創造が出来れば、それは最強の力となる。
ルイはその力を扱える特別な死神なのだ。
「トオルがここに来なければ、力を解除する予定だったけどな」
「意地悪しないで下さい」
「いや、本気だよ。留める力にだって、限界があるんだ。限界が来る前に解除するよ。いや、マジで」
なんだか、適当な事を言っている気がするが、その内にルルが顔を出した。
「トオル様、お久しぶりです」
ルルは僕を見て驚いた。
「トオル様ですか?」
「うん。俺だよ」
「大きい」
「3年経っているからね」
ルイに比べると小さいが、あれから、20センチは伸びていた。
まだ、伸びている。
その内、ルイを抜くかも知れない。
それが、夢だ。
「そうでしたか……」
ルルは元気を少し無くしていた。
「まあ、立ち話も何だし、中に入ろうぜ」
ルイが気を利かせて中に入れた。
俺とルルはリビングに向かい、ルイはキッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。
「トオルは紅茶でいいか?」
「はい」
「ルルは?」
「オレンジジュース」
「あいよ」
ルイはテキパキとジュースを入れ、お盆に置く。
「あっ、所長がチーズケーキを作ったけど食べるか?」
「ええ、いただきます」
「ルルは?」
「いる」
「分かったよ」
ルイはチーズケーキを切り分け、お皿に乗せ、お盆に置いた。
「ほい、持ってきたぞ」
ルイはテーブルの上に、それぞれ、置いた。
「何だよ。何か喋ったら?」
その間、俺とルルは無言だった。
何から話していいか、分からなかったからだ。
「何だよ。せっかく連れてきたのに」
ルイがふて腐れている。
「まあ、いいや。ルル。話したい事あるんだろう? 話しちまえよ」
「悪魔に言われなくても、話すわよ」
「さっきまで、無言だった癖に」
「五月蠅い!」
「へいへい」
この2人は全く変わっていなかった。
「もう、悪魔に言われなくても、話すわよ。魔王が倒れました。ですが、新たな敵が現れ世界を破壊しています」
「えっ、何で!」
「分かったら、苦労しません。悪魔も役立たずだし」
「まあ、確かに」
俺は同意する。
「俺は、ルルの世界まで、精通してないから、分かる訳ないだろう」
「期待していません。勇者様には、敵を倒して欲しいんです」
「えーと、俺は」
「はい。その話は、トオルの考えが纏まってからだ」
困っている俺に、ルイが割り込む。
「どうして、邪魔するのよ」
「俺はあくまで、人間の味方だ。トオルの決定に従う。トオルが決めかねているなら。俺はルルの邪魔をする。それだけだ」
「悪魔」
「うるせぇ」
2人は喧嘩腰になる。
「2人とも落ち着いて下さい」
「落ち着いてなんかいられません。ルルは……」
「トオル。トオルは向こうの世界に集中したいんだろう?」
「でも……」
「覚悟が無いなら、俺は行かせられないし、連れて行かない」
「分かっています。でも、ルルもほっとけないし」
「だから、纏まってからにしろって言っているんだ。今の半端な状況じゃ、敵も倒せない、危険なだけだ」
「分かりました。向こうでゆっくり考えます」
「ああ、そうしてくれ」
俺は1度、リアル・ワールドに戻った。
目が覚めれば朝だ。
ルイはもう、こっちにはいない。
俺は制服に着替え、高校に行った。
いつもの日常に戻った。
俺はこれからどうすればいいんだろう?
「おはよう」
後ろから声がした。
俺は振り向くと、鈴木文がいた。
俺の彼女でもある。
「おはよう」
「どうしたの? 元気ないけど」
「うん。ちょっとね」
この話をしても信じて貰えないだろうから、俺は隠し通す事にした。
「何かあったら話してよ」
「うん」
文は可愛らしくって、俺は大好きだ。
ルルとは違う可愛らしさがある。
「そうそう、今度のデートだけど、ゴメンね。家、ダメになった」
「えっ、また、お父様が?」
「うん。父さん交際を許していなくって。仕事休みにして」
「刑事のくせに」
「全くよ。連れて来たら、逮捕するって、はあ」
「親バカもここまで、来たか」
「うん」
「分かった。映画にしよう」
「そうね」
俺達は笑顔で学校に向かった。
俺はこのまま夜まで、パラダイス・ワールドの事は保留にした。
「さて、どうするか」
寝るのが怖かった。
しかし、横になるとすぐに眠ってしまった。
ああ、俺のバカ~。
そして、上空から落ちた。
「またか~」
「よっと」
それをルイが拾う。
ああ、これもお約束か。
「好きだな」
ルイは空を飛び、俺に言う。
完全に、からかっている。
「んな訳、無いでしょう! また、このまま運ぶんですか?」
「まあ、そうなるな」
「早く、調整して下さい」
ルイは場所を上空から、別の場所に移す事が可能だった。
「ああ、スマン。忘れてた」
「忘れないで下さい」
「いや、ここに寄らなかったら、必要無いかなって、思って、どうするか決めたか?」
「そんなに急いでいるのか?」
「俺ではなく、ルルがな。ちゃんと話せないなら、俺から話すよ」
「また、揉めるだろう」
「強制的に向こうの世界に戻せば、しばらくは静かになるだろう」
「また、無茶苦茶を」
「助ける義理無いからさ」
「そうですね」
話している内に公園に降り立った。
「こっからは歩くか」
俺とルイは自販機で、それぞれ、ジュースを買って、事務所まで、歩いた。
「んで、どうする?」
「まだ、決めていません」
「俺は構わないけどさ。分かっているとは思うが、死神でなく、年長者の意見だと、あんま、時間取るのもよく無いと思うよ。ルルの為にも」
「ですよね。分かっています」
「ああ。なら良かった」
「ちなみにルイはどうして欲しいですか?」
「死神の意見でいいか?」
「いえ、ルイの意見が聞きたいです」
「俺の意見で決めないなら話すが?」
「お願いします」
「俺は、ルルと行った方がいいと思っている。ちなみに、死神としての意見はその逆だ。あの世界は確かにヤバい事になっているからな。誰かが救わないといけないだろうけど、トオルに気が無いなら、わざわざ、行かせる必要は無いと思っている」
「ルルの世界に行ったんですか?」
「勿論、下見は必要だろう。その状況を知る為、ルルから聞き出すより、ずっと手っ取り早いからな。世界は崩壊に向かっていた。恐らく、今、トオルが思っている以上に酷いだろう。そんな危険な所に、人間を行かせるのは死神として、本望ではない」
「じゃあ、何で、ルイは行かせたいんですか?」
「そりゃ、相手がルルだからだ」
「ルルが嫌いじゃないんですか?」
「まさか。死神だから、ぶつかるだけで、別に嫌いじゃない。一途な子が、命がけでこっちの世界にやってきたんだ。こっちに来るのも危険何だよ。しかもトオルがいなかったんだ。予想外な事が多くあったはずなのに、こっちにいるんだ。そんな子ほっとくのは、俺はしたくない。だから、俺は行かせたいんだ」
「ルイ」
タイミングよく事務所に着いた。
「あっ、ルルが料理作ったから、食べて欲しいってよ」
「えっ、マジ」
「どうした? 不満か?」
「いや……」
俺はルルの料理技術を思い出す。
ルルは、何でか、よく焦がしてしまう、はっきり言えば不器用だ。
俺は昔、断れず、よく食した。
「話を断ってもいいが、食事は断るなよ」
「分かっていますよ」
俺達はビルのルイの部屋に直行した。
「ルル。入るぞ」
ルイが扉を開ける。
「トオル様は?」
「いるぞ」
「トオル様。お料理作りました。食べて下さい」
「うん……」
「んじゃあ、俺は事務所に顔出すから」
「早く出て行って」
「何度も言うがここは、俺の家だ」
ルイは部屋を出た。
そう言えば、2人で過ごしているんだよな……。
「ルルって、本当にルイが嫌い何だな」
「別に、悪魔だから嫌いなだけです」
「ルイが死神じゃなかったら?」
「まあ、普通です」
「普通何だ」
「そりゃそうです。異性として見てもしょうないもん」
「まあ、そうだね」
お互い異性としての意識はしてい無いようだ。
俺とルルはリビングに向かう。
料理が並べられていた。
「今、スープ温めますね」
「うん」
サラダとパンがそこにはあった。
「さっ、トオル様」
クリームシチューが出てきた。
見た目は普通のクリームシチューだ。
「食べて下さい」
ルルがじっと見ている。
「いただきます」
俺は勇気を振り絞って、一口食べる。
「美味しいですか?」
「うん。美味しい」
「本当ですか? やったー」
ルルはくるくる回って喜んだ。
可愛い。
「悔しいけど、悪魔に教えて貰って良かった」
ああ、ルイが教えたんだ。
「ルル。もっと、トオル様の為に作りますね」
「ありがとう」
「はい」
ルルは俺の正面に座る。
「ルル。考えました。トオル様が行かないのなら、私もここに残ります。トオル様の為に沢山のお料理を作ります」
それはどうだろう。と、俺は思った。
俺は黙ってしまった。
「トオル様?」
「ルル。それはダメだよ。うん。俺、ルルの世界救う事にするよ」
「本当にいいんですか?」
「うん。ルル目の前にして、やっぱり、決めないのもよくないし、行かないのも甘えだと思ったんだ。だから、行くよ」
「ありがとうございます」
ルルは笑顔で言った。
ああ、良かった。
俺は後悔無かった。
「ルル。トオル様の為に頑張りますね」
「うん」
「料理も沢山覚えますね」
「楽しみにしてるよ」
「話は纏まったようだな」
ルイが入ってきた。
「行くんだな。トオル」
「うん。行かないと後悔しますし」
「そうか、分かった。装備を揃えないとな」
「うん。お願いします」
「ああ、それと、大事な事だから先に言うけど、俺は今回着いて行かないから」
「えっ、ええーっ」
俺は部屋中に響き渡る声を出した。