序章 再びの始まりの扉
「この世界のプリンむちゃ美味いな」
何故だ。
何故、こうなってる?
俺の名前は皇トオル。
17歳。高校2年生。
今から3年前夢の世界で旅をした。
そう、夢の中でだ。そこの所を忘れないで欲しい。
夢とはあの夢だ。夜寝て見る夢だ。
そして、ある理由から、その世界から離脱した。
それから3年が経つ。
で、話は戻すが、何故だ。
目の前には黒いスーツ姿の男が、プリンを食べている。
名前はルイ。
その夢の世界の住人だった。
それが、俺の夜食のプリンを地べたに座り、左手にスプーンを持ち、美味しく食べている。
「ん? 何で、可笑しな顔しているんだ?」
「するわ! 何で、夢の住人がここにいるんだよ」
「ああ、その事ね」
「それ以外ねーだろうが!」
「まあ、そうだな。いやな。俺って、特別な死神じゃん」
ルイは死んで神になった存在縮めて死神なのだ。
死神は夢の世界パラダイス・ワールドで永遠に魂が留まっており、通常夢の世界から出られない。しかし、ここにいる。
その疑問を俺はのん気な男にぶつけている。
「んいやな。俺も仕組みは分からないんだが、記憶を持った死神は、神様に許可貰えれば、こっちの世界に行けるんだ。但し、肉体は仮初だからな。鏡には写らないし、あまりこっちの世界に干渉しちゃいけないんだ。力も扱えないしな」
「って、思いっきりプリン食べているじゃん!」
もう1度言おう。俺のプリンだ。
「ああ、トオルが食べた事にしたら、何も問題ないはずだよ。全てご都合主義で話が進むって訳だな」
「あんたが言うな。あんたが。それで、そんなご都合主義を並べて、何の為にここに来たんだよ。ただ、俺をからかいに来た訳じゃないんだろう?」
「ああ、違う。ご馳走様。実はさ。ルルがさ」
プリンを食べ終え、カップを置く。
俺のプリンが……。
「ルル! ルイの世界とは違うだろう?」
こっちの世界をリアル・ワールドと呼ばれているが、ここの世界は無数の世界で成り立っている。
いわゆる、平行世界って奴だ。
それが、パラダイス・ワールドにも同じ事が言え、パラダイス・ワールドも複数の世界が存在する。
複数の世界が無限に、夢の中で展開していると言う事だ。
ルルとルイのいる世界は違い、世界と世界を行き来するのは容易では無かった。
今目の前に、例外がいるが……。
「ああ、まあ、その通り何だが、どうにも来ちまってな」
「ルイの所に?」
「ああ。ほら、ルルの世界にも、情報屋がいただろう? その情報屋に聞いて、手引きして貰って、こっちに来たんだと」
「死神嫌いのルルが、どう手引きしたんだか、謎何だが?」
「俺もそう思う。んで、死神嫌いが死神である俺に無理矢理頼んだんだ。『勇者様を再び召喚しろ』って、んで、話が最初に戻るって訳」
「なる程、話の筋書きは何となく分かった」
「そりゃ、良かった」
「でも、何で、急に、3年も経って」
「こっちの世界では3年か、こっちはたかだか1年位何だが、まあ、いいや。トオルはどうしたいんだ?」
「俺はもう、子供じゃないし、今更、向こうの世界に何て、そもそも、俺を連れ込む事何て、出来るのか?」
「うん。それは簡単に出来るよ。閉じたのは俺だからね。まあ、トオルにそのつもりが無ければ、俺は開ける必要無いな」
「開けたくないのかよ」
「いや、そんな事は無いけど、無理強いはできないだろう? 嫌なら開けないで、そのまま帰るよ。ただな」
「何だよ。ただって」
「ルルがな」
「勿体ぶるなよ」
「ルルはパラダイス・ヒューマンだろう?」
「うん」
「人間の思いの塊により、出来た存在何だが、ルルはもう時期消えるだろうな」
「何だよそれ!」
「さっき言った通り、人の思いの塊って、事は、人が思わないと存在が出来ない。今、ルルを思ってくれている人がいないんだよ。これは俺の勘何だが、ルルを作り出したのは、トオル何じゃないのか?」
「俺?」
「そうだ。好きなマンガやゲーム何かにルルみたいな子いなかったか?」
「うーん。そう言えば、いたかも」
「その子が好きだっただろう?」
「まあ」
「それが、出来た発端だな。トオルが戻ってしばらくは自分を保っていたが、次第に弱って焦って、召喚するように頼んだんだと思うよ。まあ、それ以外にも理由はあるみたいだが、トオルの病気が治ったかどうかも分からないのに、頼み込んだのはそんな理由じゃねーかな」
「ちょっと、待て、何で、それを早く言わない!」
「んだってよ。トオルにも心境の変化とかあるだろう。こっちは既に3年が経っているって事は、17歳だろうガキじゃないんだ。嫌なら俺は開けたくないって訳。ルルには悪いが適当に言って、元の世界に戻すつもりだった」
「むざむざと消すなら、それは残酷だよな」
「かもな。でも、死神はパラダイス・ヒューマンを擁護する必要が無いんだ。もっと、言えば理由が無いんだよ。そりゃそうだろう。数多いるパラダイス・ヒューマンに対して、死神は半分もいない。人間を導く仕事をしていたら、そこまで、手が回らないんだよ。だったら、役目を終えて、消えて貰った方が、こっちとしては都合がいいんだ。だから、無理に助けないんだよ」
「俺は……」
「なあ、良かったら聞かせて欲しいんだが、何故、迷っているんだ?」
「まあ、確かに、向こうに行くのに、損は無いんだけど、ただ、俺に3年前の気持ちが無いんだ」
「冒険に対する熱い気持ちだな」
「ああ、昔のようにゲームもマンガも数が減った。今は、動けなかった分動きたいから、サッカーやっているんだ」
「へー」
「疲れとか、そんな物は無いのは分かっている。向こうでも走る事が出来るのも分かるけど、向こうに行くなら、今度はスポーツを沢山やりたいと思う。もう、昔のように命を懸けて戦いたくないんだ。ふくちゃんみたくなりたくないし、死にたくもない」
「かつての友の道を辿るのが怖いか。まっ、そうだろうな」
「でも、ルルの事もあるし」
「迷っているんだな。じゃあ、こうするのはどうだ? とりあえず扉は開ける。こっちの世界に行って、ルルの存在を安定させる。その後、通うか通わないかはトオルが決めろ。ご都合主義で、扉を開けないでいられる方法もある。鍵さえ掛けなければ、ルルは存在し続けられる」
「そんな事、出来るのか?」
「世界がご都合主義で出来ているからな。それは出来るよ」
「だったら、それで、お願いします」
「分かった。んじゃ、トオルが眠った時に扉を開けに来るよ。その間、俺はこの世界を見てるから」
「おい」
「全ては、ご都合主義だよ。んじゃ、後でな」
ルイは窓から再び出て行った。
「まったく、勝手な奴だ。でも、又、行けるのか、あの世界に」
俺は不安と楽しみを混同させていた。
俺は、2時間後に横になった。
『ああ、この世界は空が明るくって、星が見えないや。さて、始めるか』
俺はなかなか寝付けなかったのか、夢と現の間にいた時、ルイの声がした。
『悪いな。無理強いさせて』
ルイは俺の身体に何かをしていた。
その後、すぐに俺は熟睡したので、やり方はよくは分からなかったが、俺は、穴に落ちた感覚に陥った。