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緑の章  作者: 叢雲ルカ
緑の章
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第4章 とある日の出会い

 僕がリアル・ワールドに戻り、まずやった事は、あお君に会いに行き話を聞く事だった。

 あお君は松本先生の言っていた通り、意識が戻っていなかった。

「あお君……」

 僕は言葉が出なかった。

 僕も体調がいいとは言えない。僕だって、あお君みたいになる。

 そろそろ、決断しなければ行けないのかも知れない。

 自由になれないなら、僕はあの世界にずっといたいと思い始めていた……。



 僕とルルは死神の情報屋のヒロノブの情報で、あお君がいるアジトへ送迎馬車で向かっていた。

 ちなみに、ルイは置いていった。

 理由はいくつかあるが、1番の原因はルイの状態がすこぶる悪かった。

 無理して動かなくても良かったのに、あの男は料理を作った。

 結果傷が開き、熱まで出し、かなりうなされていた。

 ルルは一応医者には見せていたが、うなされるまで、ルイの傷を軽く見ていた。

 僕も実際はそうだった。

 ルルはルイが嫌いと言うより、死神その物が嫌いなようだ。

 死神はルルと存在している理由が同じだかららしい。

 しかも、能力は向こうの方が遥かに上。劣等感を抱くのだ。

 それで、敵視剥き出しにされる、死神としてはたまった物じゃないが、それも仕方の無い事だった。

 その証拠に、もう1人の死神であるヒロノブもルルは嫌っていた。

 しかし。死神にマトモな奴がいないのか?

 ヒロノブはルイ以上に変人でありバカであった。

 そんな情報屋のヒロノブとは、昨日の夜、公園で出会う事になる。



 夜。

 僕とルルは人影の無い公園にいた。

 あまり規模の大きく無い公園だが、子供が遊ぶには十分の広さと、緑があった。

「これで、どうしたら、情報屋に会えるの?」

 ルルは最もな事を言う。

「お呼びですか?」

 金髪で切れ長の目、碧眼の瞳、細面でアロハシャツの男が現れる。見た感じは美青年だ。

 男はルルを見るなり、手を握った。ルルはこう言う男は特に嫌う。

 ルイが酔った勢いでルルに言い寄った時も、死神だからと言うのもあったが、異性としても拒否反応を起こしていたのだ。

「最低!」

 ルルは顔面にグーパンチする。

 バキッ!

「あたっ」

 それがマトモに入り、男は顔を抑える。

「う~ん。いいね素晴らしいパンチだ」

 すぐ、立ち直り1人悦に入っていた。

 これが、ヒロノブとの出会いである。

 最悪だ。

「トオル様行きましょう」

「うん」

 ルルが僕の手を引く。

 そうとう嫌だったようだ。

「ちょっと待ってくれ」

 僕達は移動しようとしたが、ヒロノブが前に出て止める。

「何!」

 ルルは怒っている。

 こう言う場合は絶対に逆らわない方がいい。

 僕は身を小さくして、存在感を消した。

「いや、俺が情報屋だ。名前はヒロノブだ」

 さり気なくいや、結構堂々とルルの手を握った。

「離して下さい」

「あっ、スミマセン」

 ヒロノブは手を離した。

「それで、情報屋って言うのはどう言う事?」

 ルルが怒ったまま言う。

「そのままですよ」

「じゃあ、これは何?」

 ルルはヒロノブに肉じゃがの入ったタッパーを渡した。

「これは俺が食べる為の物だ。君が作ったのルルちゃん」

 ヒロノブはタッパーを取り、風呂敷包みを取った。

「何で私の名前知っているの?」

「情報屋だからだよ」

 芝生の上に座り込み、肉じゃがを食べ始める。

「そっちの野郎はトオルだよな。噂通りのチンチクリンだな」

「チンチク、リン」

 僕は初めて殺意と言うのが、何かか分かった。

「トオル様は小さいかもしれませんが、チンチクリンじゃありません! 勇者です!」

 僕の代わりにルルが言う。

 しかし、フォローになっていない。

 身長の低さは1番気にしているのにな。

「ふうん。勇者何かに興味ねーな」

 おむすびを口にして言った。

「俺は情報屋兼愛の狩人であって、勇者の付き人でねーからな。情報の為に仕方無く動くが、野郎に興味は無いな。しかし、うめぇな。この肉じゃが。それで、勇者の付き人はどーしたんだ?」

「宿にいます」

「あっそう」

 聞いた癖に無関心を装い返事する。

「なあ、僕達は魔王の居場所が知りたいんだが」

「トオル様。これが知っているとは思えません」

「そうかもしれないけど、情報屋って言っているんだから、話聞こうよ。しかも、弁当食われちゃったし」

「まあ、確かに」

「ほれ、これ渡すから、マークの付いている所にいきゃ、アジトだよ」

 ヒロノブは紙を僕に渡した。

 僕はそれを広げる。

「本当にここにいるの?」

 ルルが疑う。

 温泉街のど真ん中に位置しているのだ。

「本当だ。俺はプロだ。プライドは持ってやっている。ちゃんと裏も取ってある。そこ行きゃお目当ての人に会えるよ。ふう、食った。ご馳走様」

 いつの間にか全部食べてしまっていた。

「それで、何故、肉じゃがを作る必要があったんだ?」

 僕が素朴な疑問を投げかける。

「俺が食いたかったから、肉じゃがが美味く作れる女性を嫁にしたいんだよ。それで、これが、ルルちゃんが作ったんじゃないんだろう? 誰が作ったんだ?」

「ちゃん……」

 2回目だが、ルルは『ちゃん』付けされ、怒りを露わにし、拳を作っていた。

「僕の連れだ」

「何だと、文句言ってやる。宿まで連れて行け!」

「嫌」

「嫌よ」

 僕とルルが声を揃えて言う。

「まあ、いいわ。嫌なら、無理矢理行くから、場所分かっているし、ほれ、返すよ」

 タッパーを僕に投げ渡し、立ち上がり、運動する。

「分かるって何よ」

「ルルちゃん。俺は情報屋何だ。その位はお安いんだよ。どーする? 大人しく俺を宿に連れて行くか、それとも」

「連れて行きます」

 僕が言う。

 これ以上介入されるのも嫌だった。

「なら、良かった」

 こうして僕達はヒロノブを宿に連れて行った。

 しかし、それが幸をそうした。


 宿に戻ると、ルイは苦しそうにしていた。

「おい、ルイ」

 僕は一目散に向かう。

「大丈夫か?」

 ルイは反応しないだが、息が荒く、うなされ、脂汗をかいていた。

 その尋常じゃない状況に、流石のヒロノブもルイの所にやって来た。

「こいつ、何があった」

「昼間、他の死神とドンパチしたとか、そん時に負傷したみたい何だ」

 僕が手短に説明する。

「それで動いたのか?」

「ああ、肉じゃが作った」

「んだと!」

 ヒロノブはルイの着ていたシャツを捲り、巻かれた包帯を見る。

 包帯から血が滲んでいた。

「傷口開いているぞ」

 ヒロノブは包帯を剥ぎ取る。

「何をするんだ?」

「治癒するんだ」

 ヒロノブは傷の状態を確認すると、右手に巻いた包帯を取り、手を広げ、光を出した。

「全く無茶もいい所だ。よく生きていたな。こいつ」

 傷は徐々によくなっていく。

 死神のスキルはやはり凄い。

「死神って不死身じゃないにしても、タフでは無いの?」

 今まで黙っていたルルが口を開く。

「どんな固定概念だよ。んな訳無いだろう。そー言う能力者か、コイツのようなゴキブリ並みの生命力を持っているかで、実際はパラダイス・ヒューマンや人間と変わらないよ。内臓抉れてたら消滅しても可笑しく無い。何か誤解されているからはっきり言うが、死神の感覚は人間と殆ど変わらないよ。基は人間何だから」

 傷は見る見るうちに回復し、うなされる事が無くなったが、ルイの顔色が良くならない。

「まあ、この世界の死神の立場から考えたら仕方ねーけどな。後はこいつの生命力次第だな。全く野郎のクセに手間かけさせやがって」

「ありがとう」

 僕が礼を言う。

「礼ならいいさ。押し掛けたのは俺だしな。しかし、こいつは女じゃねーのか?」

「違います」

 僕は即答する。

「変身とかしてないのか? こいつのスキルで、まあ、だとしたら、無茶を通り越して命知らずだがな」

「ルイにそんなスキルあるのか?」

「あるさ。聞いて無いのか?」

「全然、死神は1人1つで、留める力がそうだって」

「それはこいつ自身が本来持っている力だ。こいつは人間と同じ力を持っているぜ。威力は半分だが」

「マジか」

「ああ」

 ヒロノブが頷く。

 確かにそれなら、全ての辻褄が合う。

 ルイがこの世界と別の世界を往復出来たのも、そのスキルのお陰だし、バランスが不安定なのは、半分と言う限界が存在したからだ。

 だからって、ルイが男装している事にはならないし、恐らくしてない。

 半分が力の限界と言う事と、リフィル所長がその証拠だ。

 リフィル所長がそう言う趣味なら話は別だが、彼女はそんな人じゃない!

 そうであって欲しくないと言う、僕の願望でもあった。

「まあ、隠しているのも無理は無いか、こいつ、自分の世界じゃ、3番目に偉いからな」

「えっ、マジ」

「マジだ。もう1つのスキルも、その世界の創造主に与えられた物だ。現世の記憶を持つ者の特権だな」

「そんな凄い人が何でここに?」

「さあな。情報屋と言っても人の心までは読めないよ。ただ、こいつがいた世界では、世界の創造主が眠りについてしばらく経つから、それに関係しているんで無いか? それよりもだ。そんな事はどうでもいい。こいつは女じゃないなら、何故、美味かった。分からない、料理が出来る理由が。野郎なのに」

「男だって、料理美味い奴いるだろう」

「俺には分かるんだ。この繊細な舌から、女が絡んだ味がした」

「この死神はバカなのね」

 ルルが結論付ける。

「みたいだな」

 僕も同意だった。

 ルイがどうして料理が出来るのか?

 そもそもそれに関して、明確な事実を求める方が可笑しな話で、料理何て出来る、出来ないに理由は必要無い。それをヒロノブは求めようとしているのだ。

「やっぱり、こいつは、幾人もの女を悲しませ続けた結果手に入れたんだ。そうに違いない」

 その結論は可能性があっても、どうかと思う。

「あの女好きめ。俺が調べた女以上の数の女と寝ているんだ」

 ヒロノブが悔しがっている。

 妬みもいい所だ。

 ヒロノブはルイの女性遍歴まで頭に入れている、究極の変人だった。

 僕は呆れながら、ルルを見るとルルは体を固まらせている。

 と、言うか、ルイの事があって、若干落ち込んでいるようにも見えた。

「ルル。もう、寝ないか? 僕、そこまでいくから」

 僕は寝ない。

 必要無いのもそうだし、修練はこの時間しか出来ないからだ。

 僕はルイに言われたメニューをこなす事にしている。

 僕は先日貰ったリストバンドを見る。

 リストバンドに創造の力を蓄えるのも、そのメニューの1つであった。

 勿論、それの解放の仕方もルイには聞き、反復練習をしている。

 確かに火を1つおこすにも威力が倍位違った。

 ルイと言う死神は本当に凄い。凄いから身分を隠す必要があるのだ。

「そうします」

 ヒロノブはその間も訳の分からない事を熱弁している。

 僕とルルは、気付かれ無いよう、そおっと部屋を出て、隣の部屋に向かった。

「トオル様……」

 俯いたままルルが口を開く。

「気にしなくっていいんじゃないかな~だって、ルイだもん。簡単に死ぬはずないじゃん」

 隣の部屋の前で僕とルルは立ち止まる。

「そうだとは思います。でも、死神もパラダイス・ヒューマンと同じだって知って、ルルは、いえ、この世界ね殆どの人が死神を悪魔として見ています。死神は人を外れた忌むべき存在。その超人的な能力と生命を持ち合わせた化け物だって、お医者様もルイの傷見ても、死神だからと、大した手当てをしてくれませんでした。あの時もっと言っていれば、もって理解していれば……」

 ルルは今にも泣き出しそうだった。

 無知による偏見が1番恐ろしい物だ。

 僕は旅立つ時にルイが言っていた事を思い出す。

 死神の存在を許さぬ世界もある。

 ルイもこうなる事を分かっていたようだ。

「気に病む事全然無いよ。と、ルイだったら言うな」

「そうですか?」

「うん。ルイはそんな小さな器じゃないよ。それにもし苛めたら殴ってやるよ」

「出来るの?」

「勿論、ルルを泣かせたら問答無用でグーパンチだ!」

 僕はアッパーカットの動きをする。

「トオル様。ありがとうございます」

 ルルが笑顔を見せ、お辞儀をする。

「ルル。元気になりました」

「そうか、良かったよ」

「トオル様はこれから特訓ですよね」

「うん」

「頑張って下さいね。明日はいよいよアジトに向かいますから」

 ルルは目を輝かせ僕に言う。

「そうだね」

 僕は素直に答える。

「トオル様お休み」

「お休み」

 ルルは部屋の中に入った。



 次の日、現在であるが、僕達はルイを残し旅立った。

 ルイはあのまま意識が戻る事が無かったのが、少し心配ではあったが、ヒロノブの事もあり、僕達は逃げるように、アジトに向かう事にした。

「トオル様、あの山キレイです」

 雪がかかった山を見てルルが感動していた。

 村から出ている馬車で、2日程行った所に、目的の温泉街がある。

 馬車から見える光景は山々が並ぶ、とても景色のいい所で、観光するにもいい場所であった。

 ルルもすっかり元気を取り戻していて、本当に良かった。

「それより、トオル様、ルルお弁当作ったんです」

 パンパンのリュックの中からお弁当箱を出す。

「まっ、マジ」

 僕は苦笑いをした。

「はい」

 ルルはお弁当の蓋を開け、満面の笑みを浮かべ僕に見せる。

 あまり見栄えのいい中身では無い。何つーか、色が、茶色だ。

 ルルは味オンチでは無いにしても、料理はかなり不器用である。これは昨日の夜知った。

 何かが必ず焦げているのだ。

 ルイは女性に対する説教は全くしないが、1つだけ言った事がある。

『ルル程のいい子になると、首を横に振れない事が多々出て来るから気を付けろ』と。

 今がまさにそうである。

 昨日、ルイが器用に料理作ったから、ライバル心に火が点いたのだ。

 何で火を点けるかな~。

 確かにこう言う子に対し、首を横に振れない。

 健気なのだ。悪気が無いのだ。ただ、少しタイミングが悪いのだ。だから……。

「さあ、トオル様。召し上がれ」

「頂きます」

 僕は薦められ、断る事が出来ず、覚悟を決めて食べる事にした。

「美味しいですか?」

 目を輝かせ聞いて来る。

「……うん」

 僕は首を縦に振った。

 男とは不憫な生き物である。

 パラダイス・ワールドでそれを学ぶとは思わなかった。

 でも――――

「ありがとうございます。トオル様」

 ルルが心の底から喜んでいるのが、目に見えて分かったから、まあ、いっか。



 その日の夜は、馬車の中で過ごす事になっていた。

 途中立ち寄った名もなき小さな村でお弁当を買い、馬車の中で食事をしている。

「トオル様。美味しいですね」

「うん」

 僕は不意に相乗りになっている客の1人を見ていた。

 大きな黒衣のマントを纏い、頭から顔までを覆い隠し、顔が見えない。

 その傍らには大きな剣が置いてあり、僕と同じように旅をしているようだ。

 客は眠ってるようで、僕の視線を気にしていなかった。

「トオル様。あちらの人に興味があるのですか?」

「うん。まあ」

「大丈夫です。トオル様にはかないっこありませんから」

「そうかな~」

 僕にはタダの旅の人には見えなかったのだ。

「さっ、食べましょう」

「うん」

 少し気になったが、のほほんと食べていると、馬車が揺れた。

「なっ、なんだ!」

 僕は慌てる。

「トオル様。外に魔物がいます!」

 ルルが馬車の外を眺めて、報告する。

「何だって!」

 僕は剣を持ち出し、外に出る。

 確かに外には黒い巨人がいた。

 魔王の差し金だ。

 全く、タイミングが悪い。今、ルイがいないのだ。

「ルルも戦います」

 ルルは勇敢にも鉄バットを持って出てきた。

 一応、ルイによって(ルルが文句を言うので内緒で)力を跳ね返し、身を守れるように、バットに特殊なコーティングを留めて貰っている。

 ロールプレイングゲームで言ういわゆる魔法防御をバット付与していたが、それでも心配なのは見て分かる。

「ルル、下がってて、僕が何とかするから」

「いいえ。トオル様に何かあったら困ります。ここは一緒に」

「ううん。分かった。でも、無理しないでね」

「分かりました!」

 ルルが気合を入れる。

 ここは魔法防御を期待しよう。

 僕たちは勇敢にも、立ち向かったが、僕にはまだ、あの魔物を倒す事が出来なかった。

「傷はついているんだが」

 僕の非力さを痛感する。

 こんな時、ルイがいたら、どんな風にからかわれるだろうか……。

「トオル様。攻撃がきます」

「ああ」

 僕は素早く避けていたら、黒い巨人の背後に黒衣のマントに身を包んだあの客が大剣の鞘を抜き、黒い巨人の頭上から下まで、一刀両断にし、一瞬にし消し去り倒してしまった。

「凄い」

 僕はみとれてしまっていた。

 隣にいたルルも同じだった。

 僕とルルは大剣を持った客を見る。

 巨人を倒した時にマントがめくれ、顔が見えた。

 茶髪のストレート髪にぱっちりとした目に黒い瞳。

 薄い唇は笑みをこぼしている。

 リフィル所長が最も美しい女性で、ルルが元気で可愛い女の子なら、その子は両方を併せ持った中間に位置する女性だった。

 そう、女だ。

「君達。大丈夫かい?」

 一応心配してくれた。

 とても、いい人そうだ。

「大丈夫です。今、トオル様がバサリとやる所でした!」

 ルルが騒ぎ立てる。

「そうか? ちょっと、手こずっていたかと思ったが、悪かったな」

 女性が笑顔で謝る。

 いいや。その通りです。

「あたしの名前はコウだ。『様』も『さん』も『ちゃん』もいらない、コウでいいよ。よろしくな」

 コウが軽く挨拶をする。

「僕はトオルです。こっちはルル」

 僕も自己紹介する。

 ルルは完全に拗ねて、コウに視線を合わせない。

「トオル君は人間かい?」

「はい」

「じゃ、あたしと同じだね」

「えっ、死神じゃ無かったの!」

 ルルはコウを死神だと思い込んで、怒っていたようだ。

「あはは。そう、見えるかい?」

 コウは苦笑いをした。



 コウの旅の目的は父親を超える為、だった。

 父親はとても強い人らしい。

 ルルは馬車の中で既に眠っていた。

 コウとはその馬車の中で話している。

「へー。魔王ね」

「はい」

 僕の話も勿論、コウに話した。

「あの魔物も魔王の差し金だったんだな」

「はい」

「元気無いが、どうしたんだ?」

「いえ、ちょっと」

「まあ、話したくなければ、話さなくていいけど」

「すみません」

「謝らなくていいよ」

「はい」

 コウは気さくで、いい人だった。

「それより、ルルはパラダイス・ヒューマン何だな」

「はい」

「私を死神と間違えて、毛嫌いしていたみたいだけど」

「すみません」

「謝らなくていいよ。ここの世界は死神を嫌っているみたいだからね」

「ええ」

「あたしの相方だった死神も、あたしをこの世界に連れて来たら、自分の世界に戻ったよ。まあ、気弱な奴だったから、ここじゃ無理だから、ちょうど良かったけど、トオルにも死神の相棒はいるのかい?」

「はい。ただ、今は大ケガして、前の村に残っています」

「そうか、その死神は強いのかい?」

「とても強いです。僕に剣の使い方を教えてくれ人です」

「なる程な」

「父さんを超える為に旅をしているって、言っていましたが、父さんってどんな人ですか?」

「強くて優しい人だよ。最も、この世界でしか会えないけど」

「父さんはパラダイス・ヒューマン何ですか?」

「いいや。正真正銘の死神だ。あたしが会った人達の中では、最強の男だ。あたしはその人に恥じない為に旅をしている」

「ちゃんと、目標があって羨ましいです」

「魔王を倒すのも立派だと、あたしは思うよ。まっ、それが本意じゃなかったら、魔王を退治した後、自分本意の旅をしたらいい。あたしも昔は不本意な事をやって、父さんを困らせたからな。だから、今があるんだ」

「そうだったんですか」

「まあ、こうして、あたし達が出会ったのも何かの縁だと思わないか?」

「ええ、まあ」

「誰かに導かれている、そんな感じがするんだ」

「誰か? ですか?」

「この世界の意志みたいな物だよ」

「意志か~」

「もしかしたら、あたしは、そこに辿り着きたいのかも知れないな」

「世界の核心に迫りたいのですか?」

「まあ、そんな所、それって、誰も成し遂げた事無いだろうし、世界を知れば、父さんに自慢出来るからな。あの人、目を輝かせて、話を聞いてくれると思うんだ」

「コウは父さんが好き何ですね」

「まあな。こっちでしか会えないからね。尊い存在何だよ。あたしにとっては」

「そうなんだ。僕には分からないや。僕にはちゃんと両親がいるから」

「そう言うのって、失わないと分からないからね。あっ、悪い。時間だ」

 コウの足下に扉が現れた。

 コウの目覚めの時間だ。

「じゃっ、また、何処か別の場所で会おうぜ」

「はい」

「その時には、問題が解決しているといいな」

「はい。そうですね」

「元気で」

 コウは消えた。

 こうして、コウと別れた。

 僕はこの人にまた会えるような気がしてならなかった。



 朝。

「あの人は、帰ったのですか?」

「まあね」

「私、やっぱり、あの人、あまり好きじゃありません」

「何で? 死神じゃないのに?」

「だって、トオル様より強いからです」

「あははは」

 僕は苦笑いをした。

 馬車はそのまま、温泉街に入っていった。

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