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緑の章  作者: 叢雲ルカ
緑の章②
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第2章 再びの世界

「別にいいじゃない。いなくても」

 ルルが悪口を言う。

「いや、強いしそうもいかないよ。それで、どうして、行かないの?」

 俺はルイに聞く。

「忙しいからな。何、助っ人は用意するし、たまには顔を出すから」

「助っ人?」

「ああ、トオルのよく知る人をな」

「うーん。ならいいけど」

「そうと決まれば、早速装備を整えないとな。あと、訓練もしないと」

「はい。お願いします」

 俺はルイとルルと一緒に防具を整えに行った。



 次の日。

 俺とルルはルイの導きで、ルルの世界にやって来た。

 ここに来るのも久しぶりだ。

 俺はロールプレイングゲームのように、鎧を纏い、腰には剣を差していた。

「まあ、何かあったら、こいつに念じてくれ」

 ルイは俺に指輪を託した。

「助っ人が近くの街で、情報屋のヒロノブと待っているから」

 ヒロノブとはこの世界の死神である。

 情報を武器にしている女好きの困った死神だ。

「分かりました。それで、結局誰なんですか?」

「会ってからのお楽しみだ」

 そう、言いルイは、誰なのか話さずに別れた。

「誰だろう」

「どうせ、ロクな事考えていないですよ」

「そうかも知れないけど」

 俺はあれこれ考えながら、近くの街に着いた。

「久しぶりだね。トオル君」

「って、あお君」

「うん。僕だよ」

 街に着いて驚いた。

 三年前に死んだ俺の親友が目の前にいたのだ。

 名前は青山とおる。俺と同じ名前である。

「全く、向こうの死神は死神使い悪いぜ」

 と、ヒロノブが悪態をついた。

 ヒロノブはアロハシャツを着た死神だ。

 アロハシャツを着ているが、金髪で切れ長の目、碧眼の瞳、細面の美青年である。

「まあいいや。美人所長のブロマイド貰ったし、仕事は終わりだ。俺は行くぞ」

 ヒロノブはすぐ、その場を去った。

 ルイとどんな取引したか、容易に想像が出来た。

 リフィル所長が不憫でならないのは確かだし、単純な死神だな。ヒロノブは。

「どうして、あんたがいるのよ。元、魔王が」

 ルルが睨む。

 そうだ。3年前。この世界で1年前。ルル達の世界を脅かした張本人なのだ。

 ルルは何度も煮え湯を飲まされ、嫌っているだろう。

 しかし、とおるは俺との決闘中に死んだはずだ。

 ここでの死は現実に繋がっていたが、現実世界で死んだのだ。

 この世界は魂の世界で、現実世界が肉体と精神の世界だとすれば、現実世界で、肉体が死んだのだ。

 それはこの世界でも、死んでしまう。

 とおるは俺との決闘の途中で死んだのだ。

「そうだ。どうして!」

 俺が聞く。

「パラダイス・ヒューマンとして、ここに蘇ったんだ。松本先生のお蔭で」

 松本先生とは、俺ととおるの主治医をやっていた先生だった。

 松本先生も俺と同じで、覚醒した人間である。

「って、事はルルと同じ?」

「まあ、そうなるね。あの時はごめんなさい」

 とおるはルルに謝る。

「別に今更謝ったって……。第一、本当に助っ人になるの?」

 ルルは疑っている。

「うん。分からない。僕に出来るのは、剣術少しと回復能力位だし」

 とおるは自信無く、言う。

 確かに腰には短剣をぶら下げていた。

「それ、十分でしょう」

 俺が突っ込む。

 ゲームの世界でも、サポートは必須だ。

「ってか、何で、一介のパラダイス・ヒューマンが出来るのよ!」

「松本先生が設定したんだ。剣術は人間だった時の名残だよ」

 とんでもない助っ人だった。

「ともかく、又、よろしくね」

「うん!」

 とおるが笑った。

 ああ、また、とおると一緒にいられるのが嬉しいや。

 ルルは1人寂しい顔をしていたのが、分かった。

「ねえ、ルル。今日のお弁当何?」

 俺はルルに聞く。

「今日はダシ巻き卵が上手くいきました」

「それは、楽しみだ」

 俺は笑顔で、国の中に入っていった。

 この世界最大の国、ギブスと呼ばれる国へ。



 国の中はごくごく普通の平和で、城下町であった。

「何処が、危ういんだルル?」

 俺はルルに質問する。

「まずは、あれを見て下さい」

 ルルは指を差す。

「綺麗な。オーロラだ」

 俺は見とれる。

 オーロラ何て、現実世界では全く見られない代物だからだ。

「僕も、初めてです」

 とおるも一緒に見た。

「見てくれはいいんですけどね。でも、これが出てから、パラダイス・ヒューマンが失踪するようになりました」

「どうして?」

「分かりません。そのお陰で姉さんも……」

 そうだ。ルルには姉がいた。

「消滅しました」

 悲しい顔をして言う。

「そんな」

「私も消えてしまいそうになりましたが、そこをヒロノブに助けて貰いました。癪だけど」

 ルルは苦々しい顔をして言う。

 死神に助けられたのは、相当悔しかったらしい。

 そして、俺達はこの国の城に向かった。

 目的はこの世界の情報と支援である。



「ほう、勇者ね」

 丸々と太った国王が俺を疑いの目で見ている。

「トオル様は本物の勇者です!」

 それに食ってかかったのは、勿論ルルである。

「そう、啖呵を切るのなら、それを証明しないと」

 国王の言葉はもっともである。

「まあ、丁度、探して欲しい物があるんだが、それを見つけてくれるのなら、協力をしてもいいかな」

「何ですか?」

「イノクマをな。あれの肉はとても美味で、毛で作ったカーペットがとても良質が良く、この国の名産品何だ。最近、あれが出てから、獲れなくなってな。市民が困っておるのだ。どうかね、2、3匹獲って来て貰えないか?」

「要は俺達に、困った市民を助ける仕事をすればいいんですか?」

「まあ、そうなるな。そうやって、信用を積み重ねていけば、こちらも協力を惜しまない。悪い話ではないかと思うがね」

「確かに、勇者と名乗るなら、人々を助けて何ぼですよね。分かりました。獲ってきます」

 俺はあっさり、国王と約束した。

 何だか、本当にゲームの世界に入ったようだ。

「よろしく頼むよ。とりあえず、軍資金を少し渡しておく。無理はするなよ」

 そう言い、麻袋に入ったコインを貰った。

 こっちの世界の通貨だ。

 ああ、そう言えば、俺達は無一文だった。

 昔はルイが全部出していたのだ。

 とりあえずは、これで何とかなりそうだ。

 俺達は城を出た。

「何か、ムカつく国王です。どうして、信用しないんですか。魔王を倒したんですよ」

 ルルが怒っている。

「そう言えば、その噂が流れていませんよね」

 この世界ではまだ、1年しか月日が経っていないのだ。

 風化するには少し早いような気がした。

「そりゃ、世界自身が忘却の世界となっているからだ」

 ヒロノブが城の外で待ち伏せていた。

「あんた、まだ、いたの!」

「そりゃ、情報は必要だろうと思ってな。今回はあの死神はいない。ブレインがいないだろう?」

 ルイがブレインかどうかは置いといて、確かに情報に欠けている。

「忘却って?」

「簡単な話だ。この世界は徐々に、忘れられている。リアル・ワールドの住人が忘れているんだ。そうすると、パラダイス・ヒューマンもいなくなる。世界が滅びに向かう手前に起こる現象なんだ」

「滅び?」

 俺は繰り返す。

「そうだ。あのオーロラはその予兆。空間が歪んでいるんだよ」

「そんな。もし、この空間が無くなったらどうなるんですか?」

 俺は聞きよる。

「さあな。少なくともここのパラダイス・ヒューマンは全滅だな」

「死神は?」

「この世界に死神は初めから殆どいないよ。もう、大体逃げた。リアル・ワールドの住人を逃がすついでにな」

「あんたは、何でいるんだよ」

「目的は2つ。この世界に残ったリアル・ワールドの住人を探す事と、この世界を見届ける事」

「それって、危険じゃないのか?」

「そりゃ、危なくなったら、すぐに逃げるさ。死神たって、2度も死にたく無いからな。俺はこんな世界をいくつも見たよ。俺は情報を操るのが仕事だが、それは世界を見届ける為に必要な情報を集めているんだよ。まあ、この城下町にはお前達以外はもう、いないから、俺はお前達を見守らなくてはいけなくなった」

「だから、戻ってきたの?」

 ルルが嫌味たらっしく聞く。

「まあ、そうなるな。でも、ルルちゃんに強く言われると傷つくな。助けた日の事を忘れたかい?」

「忘れて無いわよ。あんな屈辱!」

 ああ、ヒロノブに助けられたのか。

 そして、ルイの世界に連れて来たのか。

「また、泣きたくなったら言いなよ。俺の胸で泣いていいから」

「生憎トオル様がいるから、泣くならトオル様の胸で泣きます」

 さりげなく凄い事を聞いたよ。

 しかし、ルルは本当に死神に食いつくな。

 隣にいたとおるを見ると笑っていた。

「トオル君はずっと、こんなのを見ていたの?」

 俺に聞く。

「うん。まあ、前はルイとだったけど」

「面白いね」

 とおるは完全に痴話喧嘩を楽しんでいた。

「ひでぇな」

「要が済んだら、とっとと、どっか行きなさい!」

「そうもいかない。俺は人間達を安全な所に避難させる仕事がある」

「トオル様はここを救う為にいるんで、必要ありません」

「ほう。それは面白い。勇者見習いに出来るのか?」

「もう、勇者です!」

 ルルが断言する。

 いや、断言されても。

「あの時は最強の死神がいたからだろう? 今回はいない。上手くいくのか?」

 冷静に考えてみたら、ヒロノブはルイの事をよく知っている。

 別次元にいるルイを最強の死神と言うのだ。

 それとも、ルイが有名なのか?

 しかし、ヒロノブの情報網は凄い物だ。

「絶対上手くいきます!」

 ルルはやはり断言した。

「いや、そこまでの自信は俺には無いよ」

 流石に自信が無い。

 俺は弱弱しく言う。

「勇者見習いに自信が無いのに、こんなんで大丈夫なのか?」

「大丈夫。な、はずです」

 流石のルルも勢いが無くなる。

 このままでは気の毒だ。

「それなら、ヒロノブさんも着いて行けばいいんじゃないんですか?」

 そこでとおるが提案した。

「ちょっと、死神と一緒は嫌だ!」

 ルルが拒絶反応を起こす。

 これは『死神』だからと言うよりかは……だな。

 『死神』はただの口実に思えた。

「どうしてですか? もし、世界が無くなる時、助けが必要ですよ。着いていて貰った方が安全かと」

「俺も断る。まだ、人間が残っているかも知れないからな。見つけなきゃならない。いい考えかも知れないが悪いな」

 ヒロノブも断った。

「その方がいいです。ほら、用事が済んだら、とっととどっか行きなさい!」

「はいはい。んじゃ、行くよ。ただ、これだけは注意しろよ。空間の亀裂があったら、そこには絶対踏み込まない、触らない事。間違って落ちたら、次元の狭間に閉じ込められて、パラダイス・ヒューマンは消滅するし、人間は2度と、リアル・ワールドに戻れなくなり、死ぬまで目を覚まさなくなるからな」

「わ、分かりました」

 俺は唾を呑み込み、忠告を聞いた。

 ヒロノブはその足で、すぐにいなくなった。

「やっと、邪魔者がいなくなった。さあ、行こうイノクマ探し」

「うん」

 俺の心配を余所にルルは元気にヒロノブとは別の方向に歩いて、街を出た。



 イノクマはなかなか見つからなかった。

「どこにいるのかね」

 俺達は途方に暮れた。

「何かいい方法無いかね」

「そう言えば、ルルちゃんは何か特殊な力を持っていないんですか?」

 とおるがルルに聞く。

「無いわよ。第一、ちゃんって何よ」

「えっ、何となく」

 とおるは困っている。

 ルルが突っかかるとは思っていなかったようだ。

 どうやら、ルルはとおるを信用していない様子。

 まあ、そうか。

「私の方が年上でしょう?」

「そうなの? トオル君」

 当然の事ながら俺に話がいく。

「えっ?」

「えっ? って、トオル君が作ったんでしょう?」

「ああ、ルイはそう言っていた気するな。俺がいないと存在が消えるとか」

「無意識だったの?」

「うん」

「そうだったんですか、まあ、それなら、ルルちゃんの態度も分かるのか」

 とおるはしばらく無言になった。

 何か考えているようだ。

「何よあれ」

 ルルは気に入らない様子。

「ねえ、ルルちゃんは何か特殊な力とか欲しくない?」

「だから、ちゃんは止めて!」

「でも、どうなの?」

 とおるは負けずに聞く。

 とおるって、意外に押しに強いんだな。

「そりゃ、欲しいわよ」

「どんな力?」

「そうね。トオル様の役に立つものなら」

「例えば、今とか?」

「うん。何か探査能力とかあれば、役に立つかも」

「トオル君。だって」

 とおるは俺に頼む。

「だって、って、俺!」

 俺は急で驚いた。

「うん。トオル君以外いないじゃん」

「確かに。まあ」

 この中に創造の力を有しているのは、人間である俺だけであった。

「トオル君なら、できると思うよ。松本先生もそれで、僕に回復能力付けたし」

「なる程。やってみよう。って、どうやるの?」

「うーんと、その人を思うといいらしいよ」

「思う?」

 俺はルルを見る。

「僕、やった事無いから分からないけど、松本先生は僕にそうやったよ」

 どうやら、全部、松本先生に教わったようだ。

「手を繋いで、ゆっくりルルちゃんを思うの」

「うんうん」

 俺は頷く。

「それで、ルルちゃんに探査能力を付けるようお願いする」

「うんうん」

 俺は言われた通りに行う。

 すると、繋いだ手が光り出し、身体が温かくなる。

「何、これ」

 俺も声を揃えてルルも驚く。

 しばらくすると、光は消える。

「凄い」

「どうやら、成功したみたいだね」

 とおるが喜ぶ。

「だな。凄いな」

「ねえ、これなら、いっぱい願えば特殊能力付くんじゃないの?」

「ううん。どうやら、1人の人間(・・・・・)につき1つみたいなんだよね。だから、松本先生は1つしか僕に特殊能力を付与しなかったんだ」

「なる程」

「しかも、失敗もするみたいで、創造した人がやった方が上手くいくみたい」

「へー」

「感心していますが、ルイさんは知らなかったのですか?」

「うーん。多分だけど、ルイの場合忘れているんじゃないかな」

「ああ、なる程。あの悪魔ならあり得ます。あの腹黒悪魔」

「酷い言われようですね」

「ルルは死神が嫌いだから」

「とおるは嫌いじゃないの?」

 ルルが質問する。

「僕ですか? 別に普通です。嫌いなタイプはいますが、人それぞれです」

 とおるはルルのような、区別とか差別が無いようだ。

 ああ、良かった。

「まあ、ルイさんが好きかと言えば、微妙ですが」

 ああ、そうなる?

「ちなみにどうして」

 俺が一応質問する。

 俺のパートナー死神は、いなくてもルイだからだ。

「だって、掴み所かないじゃない。単純に見せておいて、その実、知識や実力を兼ねそろえた曲者だ」

 おっしゃる通りである。

「それに、僕、あの人がトオル君のパートナーだから、微妙です」

「えっ?」

「僕の友人のパートナーがあんな危ない人じゃなく、もっと美女が良かったです」

「美女。所長さんみたいな?」

 ルルが聞く。

「うん。あの人ならいい。美女だし、優しいし」

「そ、そうなんだ」

 俺は意外な発言に驚いた。

 まあ、とおるも男なんだよな。

 しかも、思春期の。

「まあ、あの人はいい人よね」

 意外にもルルはリフィル所長には、心を開いていたようだ。

「うん。どうして、ルイさんは、あの人とくっつかないんですかね」

「全くよね」

 やはり、話題はそっちに行くようだ。

「そう言えば、話が逸れているけど、ルルの力、成功したか、試さないか?」

 これ以上脱線すると、ルイの悪口が更にヒートアップしそうなので、俺は止めた。

 紛いなりにも、パートナーなのだ。悪口を言われて気分が言い分けないのだ。

「それも、そうね。トオル様どうやったら、探査できるのですか?」

「えーと、そう、念じるんだよ」

 俺は何となく答える。

 そう言われても分からないからだ。

 だから、この場合のパターンを言ったのだ。

「そう、分かったわ」

 ルルは手を組み、目を瞑り念じる。

 目を開けると、指を差した。

「あそこにいます!」

「分かった。行こう」

 俺はとおるに言う。

「うん」

 とおるは頷き、言われた方に俺達は向かった。

「いた!」

 とおるが見つけ、叫ぶ。

 イノクマとは名前の通り、クマのような身体付に、イノシシの顔をした生き物だった。

「よし」

 俺は剣を抜く。

 実践に近い訓練はしたが、久しぶりの戦闘である。

 とおるも剣を抜いていた。

 俺と同じような剣を使っている。

 とおると俺で回り込み、戦闘開始。

 イノクマはイノシシとクマを足した物だ。

 どう猛にどう猛を足しているので、やはりどう猛なのだ。

 イノクマは突進してくる。

「来るぞ」

「うん」

 俺の言葉にとおるが頷く。

 猪突猛進してくるイノクマを、俺達が攻撃しようとしたが、イノクマの突進は勢いがあり、攻撃が出来ず、つい避けてしまった。

 しかし、運悪く、その先にはルルがいた。

「る、ルル!」

 俺は急いで、ルルの所に戻るが、間に合わない。

 危機一髪の状況だった、しかし、ルルはいつの間にかハンマーを出していた。

「止まりなさい!」

 振りかぶったハンマーは上手い具合に、イノクマの脳天を直撃した。

 イノクマはひっくり返り、痙攣した。

「る、ルル大丈夫?」

「はい。トオル様。やりましたね」

「う、うん」

 俺、いらないじゃん。

 とか、思った。

 後で聞いたが、リフィル所長にハンマーの使い方を教えて貰ったようだ。

 しかし、リフィル所長の武器はハンマーではなく、大鎌だった。

「どうして、所長さん使えるんの?」

「知らない」

 どうして、ハンマーが使えるかは、ルルに聞いても分からなかったようだ。

「ただ、乙女の嗜みだって言っていたよ」

 それの何処が嗜みなのか、俺もとおるも理解出来なかった。

「そうなんだ」

 とりあえず、俺は受け流す事にした。

 その方がいいような気がしたからだ。

 女とは恐ろしい生き物だ。

「さあ、後1匹頑張りましょう」

「おっ、おう」

 俺ととおるはルルの掛け声に弱気に答えた。

 ルルのお蔭で、それから、10分もしないで、2匹目もゲットした。

 その足で、城に戻った。



 城の中。

「ほう、用意できたのか。流石、勇者と言うだけはあるな。よかろう。明日、もう1度ここに来るがよい」

 王は俺達を認めた。

「分かりました」

「報酬も持って行け」

「ありがとうございます」

 俺達は物であるイノクマを置いていき、報酬を貰い城を出た。

「認めて貰って良かったですね」

「ああ、とりあえず、このお金で宿に泊まってよ」

 報酬をとおるに渡す。

「分かった。トオル君は帰る時間なの?」

「そうみたいだ」

 俺の足元に扉が現れていた。

 リアル・ワールドに戻る扉だ。

「2人とも仲良くしてよね」

「分かったわ」

 ルルは簡単に承諾した。

 どうやら、とおるを認めたようだ。

 ああ、良かった。

 ルイの時とは違い、俺は安心して、リアル・ワールドに戻った。



 それから、パラダイス・ワールドで15時間後に俺は戻った。

 時間は朝。

 2人は既に起きており、朝食まで済ましていたようだ。

「何か変わった事無かったか?」

「いえ、別に」

「そうか、分かった。行こうか」

 俺はとおるの言葉を信じる。

「はい」

 俺とルルととおるは城を目指した。

「あっ、トオル様今日のお弁当は、グラタンです」

「僕も手伝いました」

「へー。楽しみだな」

「はい」

 俺達は城の中に入った。



 丸々と太ったあの、国王が昨日と同じ恰好で国王は見ている。

「はて、そんな約束したかね?」

 国王は昨日の事を覚えていなかった。

「惚けないでよ!」

 ルルは食いつく。

 嘘をついているようには見えないんだが……。

「覚えが無いと言っているのだ。不届きな輩だな。奴らを牢にぶちまけておけ」

 おい、マジかよ。

 兵達が取り囲む。

「どうするの? トオル君」

 とおるは腰の剣に手を掛けていた。

「ぶん殴りましょう」

 ルルはハンマーを既に出している。

「暴力はダメだよ」

 2人して血の気あり過ぎだから。

 その間にも、じりじりと、兵達が近づく。

「ああ、ちょっと、たんま」

 俺達の後ろから、アロハシャツの男が現れた。

 ヒロノブだった。

「何だ。お前は!」

 国王が驚く。

「あんた、何で、ここにいるのよ!」

 ルルが聞く。

「そりゃ、可愛い子と人間を守りに。野郎のノンプレイヤーキャラには興味無いんだよ」

「何よ。それ!」

 ルルが怒っている。

 可愛い子と人間って事は……。

「足下見ろよ」

 全員が一斉に足下を見る。

 すると、床が割れ、地面が揺れ出した。

「ちょっと、何これ」

 ルルが驚く。

 国王や兵達は割れた床に落ちた。

「昨日、言っただろう。世界の崩壊だ。ここは危険だから逃げるぞ」

 ヒロノブは、俺とルルの手を握り、走り出す。

「おい、とおるが」

 とおるは置いてきぼりをくらう。

「あん。無理だ。俺の手は2つしか無いんだ」

 ヒロノブはとおるを見捨てようとしていた。

「それは困る」

 俺は手を放す。

「こら、お前は人間だ。俺は守る義務がある」

「友達を見捨てる事は出来ない」

 俺とヒロノブは言い合いになる。

「友達か、パラダイス・ヒューマンだろう?」

「関係ない!」

 俺は強く言う。

「はあ、仕方ない。じゃあ、俺が救いに行くから、真っ直ぐ城から出る事。いいな」

「分かった」

「ルルちゃんは必ず守るんだぞ」

「当然だ!」

 ヒロノブはとおるを探しに行った。

「ルル。行くぞ」

「はい」

 俺とルルは先に城の外に出た。


 城の外に出ると、城が崩壊していき、割れた地面に落ちていった。

 ルルは俺の手をしっかり握っている。

 恐怖のあまり、身体も震えていた。

「ルル。大丈夫だから」

 俺は優しく言った。

 それにしても、とおるとヒロノブが心配だ。

「こんな時にルイがいればな」

 ルイならこの状況を何とかする力を、確実に持っているからだ

「あの野郎は、何があってもこねーよ」

 ヒロノブが後ろから現れた。

 傍らにはとおるもいた。

「トオル君」

 とおるは一目散に俺の所に向かった。

「怖かったよ」

「うん」

 俺はとおるを慰めた。

 ルルは今回何も言わない。

 気持ちを察したのだ。

「全く、仕事が多い。分かっただろう。早くこの世界を捨てろ」

「それは出来ません」

「あのな~」

 ヒロノブは困りながらため息をつく。

「それにしても、どうやって移動したんですか?」

 ヒロノブの死神としての特殊能力は、確か傷を治す能力であった。

 死神は1人1つしか、特殊能力を手に入れる事が出来ない。

「いい加減気付けよ。俺もルイと同じ何だよ」

 勿論、例外も存在する。

 ルイも例外的に特殊能力を2つ持っていた。

「って、事は、記憶を?」

「ああ、その通りだ」

 ヒロノブは短く頷いた。

 死神は死ぬと記憶を無くす。

 しかし、記憶を持って死神になる事がある。

 ルイも生きていた頃の記憶を持っていた。

 つまり、ヒロノブも生前の記憶を持っているのだ。

「何故、そこまでして、この世界を救いたい。今のを見ただろう?」

「分かっています」

「じゃあ、何故」

「ルルの為です。死神が人間の為に働くのは分かります。ヒロノブさんもそうでしょう?」

「まあ」

「それと同じように俺はルルを助けたいんです」

 俺ははっきりヒロノブに言った。

「まあ、止めても無駄だな」

「あのー。心配ならやっぱり一緒に……」

 とおるが言う。

「だから、無理だ。こいつの相棒は最強の死神だろう。あいつの代わりは出来ないし、そもそも、俺にだって、相棒がいるんだ。まあ、そいつもこの世界に居座っているんだがな。可愛い子なのに、頑固で仕方ない」

 どうやら、ヒロノブがうろついているのは、そう言った事情もあるようだ。

「まあ、ともかく、俺はこれ以上保障出来ない。それより、俺の相棒だって、そのままにしているんだ。そっちを優先させるつもりだ。まあ、俺が目を離してナンパしていても、どうにかなるような玉じゃないんだけどな」

 ヒロノブは苦笑いをする。

「つー訳だから。俺は今度こそ行くよ。世界がこうなっている事が分かれば、俺はそれでいいからな。いいか、人間。ヤバかったら、すぐにあいつを呼ぶんだぞ。いいな」

「分かりました」

 俺にヒロノブは釘を刺し、消えて行った。

「トオル様。これからどうします?」

 ルルが心配している。

「そうだな。とりあえず、ここから離れないとな。まだ、大丈夫な世界があるはずだから」

「そうですね」

 俺達は別の場所に向かった。

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